第52話 開幕⑤
『さぁ、始まりました。最後の試練。果たしてこの中の本物は誰でしょうか』とナレーターは言う。
意外にも二人の子供たちは足が速く。すんなりと手下を捕まえる。
そして五つの鍵が沙夜の元に運ばれる。二人の子供たちは息を切らしている。
手加減は一切ない。ちなみに手下たちは演劇部の舞台裏を務める男子部員たちだ。運動神経が悪いのが裏目に出たようだった。
「協力してくれたみんな! ありがとう」と、沙夜は会場に手を振る。
「さぁ、約束よ。私を元の世界に返しなさい」
「進むがいい。この扉の先が元の世界に通じている」
現れたのはダンボールで作られた手作りの扉だった。そこに鍵を差し込み、扉が開かれたことで沙夜は先に進んだ。
そしてここからが僕の見せ場だ。
「ようやく行ったか」
そう言って僕は仮面を外し、その素顔を会場に晒した。
ドヨドヨと会場は騒めく。
「僕の役目は終わった。沙夜、強く生きろよ」
舞台は暗くなった。
『マジシャンの正体はなんと、先ほどまで冬月沙夜と行動を共にしていた男子高校生だった。彼は彼女の双子の実の兄。その昔、双子のうちの一人が流産してしまったのだ。それが生命体として彼女の傍に現れたのだ。彼女から幸福の全てを奪ってしまった彼は罪悪感から少しでも明るく生きていて欲しいという願いを込めて今回の課題を与えたのだ。そして、彼は彼女の成長を見届け、役目を終え、この世を去っていった。ただ、その事実は、彼女は何も知らない』とナレーターの解説。
場面は切り替わり、現実世界と思われる場所に沙夜は立っていた。
「ここは現実世界? やっと帰れたのね」
戻ってきたことに感動する沙夜の姿の傍、迫る影。次の瞬間、沙夜は車に轢かれてしまう。車はダンボールで作ったものだ。
『なんということでしょう。現実世界に戻ったのも束の間、彼女は車に轢かれて死んでしまいました』と唐突すぎるナレーターに会場は意外な結末でどよめいた。
また舞台は暗くなり、花畑の場面に切り替わる。
沙夜はその中心に立ってあたふたしていた。
「沙夜」
僕は沙夜の背中に呼びかける。沙夜が振り返って僕の名前を呼び、抱き締めるところで劇の幕を閉じた。
あえてここは解説しない。その後、どうなったのか。それは観客の想像で思い描いて欲しいと言う思いが込められている。
カーテンが閉じると同時に観客から拍手が巻き起こる。
エンディングに全ての役者が一列に登場し、手を繋いだ状態で観客に向かってお辞儀したところで本当の終わりを告げた。
やりきった。全ての演技を終えた瞬間である。
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