第50話 開幕③
「私が第二の刺客、アキだ」
秋山ことアキが僕と沙夜の前に立ちはだかる。
「これから君たち二人にはある課題を受けてもらう。準備はいいかな?」
「えぇ」と、沙夜は言うが僕は待ったをかける。
「ちょっと待ってよ。君は何でそんなに冷静なの? 意味が分からないよ。僕は課題を受けるなら君が受ければいい。僕はごめんだ」
「おっと、そういう訳にはいかない。受けないのであれば一生、この世界で彷徨うことになる。逃れるためには試練に打ち勝つしか方法はない」と、アキは言う。
「そういうこと。どっちみち逃げ道はない。目の前の試練に立ち向かうしかない。ここは堪えて一緒に受けよう」と沙夜は強い意思表示は僕に向ける。
「分かったよ」と、僕は諦めたように言う。
「では、第二の試練を始める。その内容はこれだ」
アキから手渡されたのは小さなおたまとピンポン玉だった。
「おたまにピンポン玉を入れて無事に落とすことなくここを一周回ることが出来ればクリア。一人が落とした場合、もう一人はその場所からスタートする。そしてその人が失敗したらゲームオーバー。つまり、これは二人の協力プレイが重要になる」
意外と簡単なゲームと思いきやこれは案外難しいゲームである。油断した瞬間にピンポン玉はおたまから落ちてしまうのだ。
「任せて。あなたには負担はかけない。私だけでここはクリアしてみるから」
沙夜は自分一人で受け持つ。
「それは無茶だ。僕がやるよ」
「任せて」
真剣な眼差しで沙夜は言う。
おたまに入ったピンポン玉を落とさずに会場を一周するのが今回の課題。
ゲームは始まった。
沙夜はゆっくりとピンポン玉を落とさないように歩いた。
バランス感覚が必要なこの試練。少しのミスで失敗するので油断は侮れない。
「頑張れ!」と周りの観客から声援を受ける中、沙夜は一歩、また一歩とゴールに歩み寄る。
沙夜は冷汗を垂らしながら真剣に前に進むが今にもピンポン玉が下に落ちそうになり、見るに絶えない。後、五メートルのところで沙夜の足は自分の足に躓いて体制が崩れた。
会場の全員は終わったと思われた。
おっとっと! となりながらよろけながら転ぶ事なく、そのままゴールまで渡りきってしまった。勿論、おたまにピンポン玉が収まった状態のままだ。
だが、ゴールの線を踏み込んだ次の瞬間、沙夜は転んだ。
会場は騒つく。沙夜は動きが止まり一瞬の沈黙が会場を包んだ。これは僕たち部員も同じだった。これはそんな演技ではない。実際に起こっているハプニングである。
刺客であるアキも演技を忘れて心配そうにオドオドとしていた。
そして、沙夜は床に手を当ててゆっくり起き上がった。
「課題、クリアでいいわよね?」
沙夜は鼻血を垂らしながら決め顔で言い放った。
「あ、あぁ。それは構わないが怪我は大丈夫か? 鼻血出ているぞ」
と、アキはポケットティッシュを沙夜に差し出した。
「あっ……本当だ。ありがとう」
演技ではなく普通のやりとりになってしまっているが、それでも場は和んでいた。
「だが、ここで終わりではない。次の試練で刺客が待っている。あの扉に進むがいい」
アキは扉を指した。
「沙夜、大丈夫?」と僕は問いかけた。
「ええ。私は大丈夫。さぁ、次の試練に向けて行きましょう」
沙夜は僕の手を引いた。
舞台上は暗くなり、次の試練に視点が変わる。
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