第48話 開幕①


「お待たせしました。まもなく演劇部による『マジシャンの七つの試練〜異次元から脱出せよ〜』の開演を致します。皆様、大きな拍手でお願いします」


 ナレーターを務めるのは白雪姫愛が担当だった。

 照明が暗くなり、会場に拍手が巻き起こる。

 カーテンが開き、舞台に照明が照らされる。最初の出番は僕だ。

マジシャンの格好で顔がバレないように蝶の仮面を付けている。お辞儀をして拍手が終わるまで静かに一時停止。静まり返ったところでいよいよ始まる。


「レディースアンドジェントルメン! ようこそ! マジックショーの始まり、始まり」


 僕の掛け声と共にクラッカーが破裂する音が響く。

 物語の出だしは派手な演出で盛り上げることが鉄則である。

 この日の為にある程度のマジックの練習をしてきた。

 と、言ってもポーズだけであり、演出は周りがポーズの合図で行うという単純なものである。

 いくつかの簡単なマジックを披露し、会場は大いに盛り上がりを見せた。会場が温まったところで物語の進展を見せる。


「それでは続いて脱出マジックに入ります。この長方形のボックスに人を入れ、一分以内で見事脱出させます」


『さー、いよいよマジックも大詰め。手伝ってくれる人、大きく手を挙げて下さい』


 ナレーターのセリフで会場から挙手をする人がチラホラいた。

 当然、誰が手を挙げようが指名する人は既に決まっていた。


「では、一番前に座っているそこの女の子。お願いします」


 指名したのは観客に紛れている沙夜だった。早足で舞台に上がる。


 いつもの地味な沙夜とは違い、茶髪のウイッグに化粧をしており、スキニーのジーパンにフリルの花柄のワンピースである。

 メガネもなく大きく沙夜の印象が変わっている。

 女子は変わるものだと仮面越しで感じた。


「お名前を教えて下さい」


「冬月沙夜です。よろしくお願いします」


 沙夜は深くお辞儀をした。


「ではこちらのボックスにお入り下さい」


 沙夜は長方形の箱に入り、蓋を閉めた。


『さー、少女は箱に閉じ込められてしまった。果たして無事に脱出することが出来るのだろうか。運命の瞬間だ!』


 ナレーターは言う。


 沙夜が中に入って一分。運命のカウントダウンと共に周辺に煙が立ち込めた。

 照明が消えて、舞台が真っ暗になった。僕は舞台裏に身を隠す。

 ここからが物語の大きな展開に移る。




「痛い! あれ、ここは……?」


 照明は沙夜の一点を差し、周辺が分からない状態である。


『少女は脱出するはずが、不思議な空間に飛ばされてしまいました。果たしてここはどこなのでしょうか』


 と、ナレーターは解説をする。


「ここはどこ?」


 沙夜はわざとらしく舞台を動き回る。照明は沙夜の姿を追う。


「冬月沙夜。ようこそ。未知なる世界へ」


 そこに現れたのはバニーガール姿の春風だった。その露出した姿に観客の男性陣を虜にする。当然、僕も含めてだ。


「あなたは誰?」と、沙夜。


「私はマジシャンの刺客。ハルカです。あなたはこれから七つの試練を受けていただきます。覚悟して下さいね」


 笑顔でとんでもないことをいう春風。


『なんと言うことでしょう。ここはマジシャンが作り出した未知なる世界。冬月沙夜はこの空間から出るには七つの試練をクリアしないと抜け出せない。とんでもないことに巻き込まれた彼女は果たして無事に元の世界に帰ることは出来るのだろうか』


と、ナレーター。


「では、私からの最初の試練は二択クイズを五連発! 五問中三問正解したら試練クリアだよ。さてさて、冬月沙夜さん。準備は良いですか?」


 と、春風ことハルカは問いかける。


「いいわ。やるしかないならやります。私は逃げません」


「その心意気、受け取った! では最初の問題を出題します。第一問、夏の暑さ対策の必需品『扇子』 実は最初に扇子が作られた時は別の目的があったのをご存知でしょうか。それは何でしょうか。一番、メモ帳。二番、守り刀。さー答えはどっち?」


 問題を振られて沙夜は固まる。そして会場の正面を向いた。


「みんな、お願い。私に力を貸して。多数決を取ります。一番だと思う人は手を挙げて下さい」


 沙夜は同意を求めるように手を挙げさせる。

 会場の人はノリ良く手を挙げる。半数以上の手が挙がった。


「ありがとう。二番だと思う人は手を挙げて下さい」


 少数の手が挙がった。


「ハルカ! 答えは一番よ」


 キメ顔で沙夜は人差し指を立てた。


『さー、果たして答えは?』とナレーターは緊張感のあるセリフを言う。


「正解です。元々はメモ帳として使われていたこの扇子。その後、当時は字を書かなかった女性が今でいうアクセサリーの一種としてこぞって持つようになっていき、段々と今の道具へと変わっていったのです」


『第一問は正解しました。さー、続いて第二問。みんなも一緒に考えてみよう』


 説明口調のように視聴者に語りかけるナレーター。

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