第40話 もう一人の主演
『マジシャンからのミッション』
これが今回のタイトル(仮)だった。
ヒロインの少女がマジシャンからの課題をクリアしていくのが今回の物語の特徴である。困難に立ち向かいながら推理をしてゴールに辿り着くというシンプルなようで難しいテーマ。その少女を沙夜が演じるというのだから不安だ。果たして本番までに役になりきれるのか。それも僕が全面的にサポートしなくてはならない。
「さて、どうしたものか」
と、言ったのは真崎部長である。
「主演のヒロインは決まったが、もう一つ肝心な役柄が決まっていない」
真崎部長は難しい顔で言う。
「それってもしかしてマジシャンですか?」
「夏宗君、その通りだ。この物語にはマジシャン兼主人公の一人二役の役柄が必要になる。おまけにヒロインとの身近な存在と言う隠された設定がある為、ヒロインと相性が良い役者が必要となってくる。この意味、夏宗君なら分かるかな?」
「もしかして僕にその役をやれと? いやいや、待って下さいよ。僕はあくまでも沙夜の世話役として演劇部に入った訳であって僕は主役になるつもりなんてサラサラありませんよ。精々、全身黒タイツの脇役が良いところです。僕なんて絶対無理です」
全否定したところで僕は周囲の視線が気になった。
演劇部全員からの熱い視線が僕に集中していた。これが無言の圧力というものであろうか。
「世話役というのであれば冬月さんが主演になれば当然こうなることも読めただろう」
真崎部長は僕の肩に手を置いた。
「いや、しかし僕には演技なんてやったことがないし」
「夏宗君。ここまで来たらやるしかないと思うな。冬月さんの世話役として頑張ろうよ。君なら出来る!」
春風は親指を立てながら笑顔で言ってのけた。
沙夜の為に演劇部に入ったとはいえ、主演を務めるのはないと勝手に思っていた。しかし、沙夜の世話役として接するには当然の配置である。
渋っていると沙夜は言う。
「私の為によろしくお願い致します」
沙夜は綺麗なお辞儀をしながら言った。
ここまで来たら断る訳にはいかない。
「分かった。出来る限り努めさせていただきます」
そして、それと同時に周囲で拍手が起こった。
ここまで歓迎されたら決意を固めるしかない。まずは苦手なセリフを覚えることから始まった。
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