第33話 シナリオのモデル
その日の夜、僕は自室でくつろいでいた。
そんな時、僕のスマホに着信が入った。
画面には『白雪先輩』と表示されていた。僕は正座になり、通話ボタンを押す。
「あ、夏宗君。私、白雪ですけど、今時間大丈夫だった?」
「あ、はい。初めてですね。電話するの」
「そういえばそうだね」
「それで? 何か僕に用でした?」
「あ、うん。実は私の台本のことで話があって。個人的な意見を教えて欲しいの。あのシナリオ、夏宗君的にはどう感じたかな?」
「そうですね。凄く新鮮で面白いと思いましたよ」
「そうじゃなくて意見が聞きたいの。ダメ出しとかどうしたらもっと面白くなるのかっていうようなやつ」
そう言われて僕は台本を見ながら考えた。
「この物語はそのヒロインの片割れの彼が仕組んだシナリオということですが、結局何がしたかったのかなという疑問がありますね」
「例えば?」
「見守っていたというのは分かりますけど、何故そこまで危険な試練を仕向けたのか、とか何故素性を明かさないのかとかですかね。死んでから明かすのは寂しいと思いました。少し複雑な話ですので双子の片割れとか無しにしてもっとシンプルに異世界から抜け出す話というのもいいかと思いました」
「なるほど。君はそう感じた訳だ。ちなみにこれは誰に向けたシナリオか分かる?」
「誰? 観客じゃないんですか?」
「確かにそれもあるけど、もっと別のことよ。私は正直、その人たちに向けた話なの」
「誰ですか。その人たちというのは」
「あなたと冬月さん」
「え? 僕と沙夜ですか?」
「ええ。あなたたちの関係が面白いなって思って書いてみたの」
「面白いって言われましても、僕はただの沙夜の世話役です。何も面白いことはありませんよ」
「勿論、変な意味じゃなくて感心しているの。二人の絆が成立しているからこその関係なんだなって思って考えたの」
「そうですか。それはありがとうございます」
と、いうことはこのヒロインは沙夜でマジシャン兼男子高校生は僕ということになる。そう当て嵌めた時、なんだか照れくさくなった。
「私を学校に連れ戻してくれたのはあなたたちのおかげ。そういえばちゃんとしたお礼もしていなかったわよね。あの時はありがとう」
「いえ。どういたしまして」
「ねぇ、夏宗君。一つ提案があるんだけどいいかな?」
「提案? なんですか?」
「このシナリオは夏宗君と冬月さんに宛てた物語。私の勝手な思いなんだけど、このメインキャストはあなた達二人に務めてもらいたいと思っているんだけど、やってみない?」
「僕たちが? そんなの無理ですよ。いきなり主演を務めるなんて」
「正直、このシナリオはあなたたちに演じてほしい。いや、あなたたち以外に当てはまる役者はいないと私は思う。だから考えてくれるかな」
白雪先輩の頼みに僕は断ることが出来なかった。
いや、僕が引き受けたとしてもあいつは嫌がるだろう。と、無表情で綺麗な敬語を使うメガネ女の顔が僕の頭の中に浮かんだ。
「申し訳ありませんが、私はお断りさせて頂きます」
沙夜はお辞儀をしながら僕に向かって断った。
「ですよね」と、僕は当然の反応に大きく納得した。
白雪先輩に主演をしてほしいと頼まれたが、沙夜の反応が目に見えていたから無理だと言ったが言うだけ言って欲しいと頼まれたが、結果はこの通りである。
「私にその劇のヒロインになって欲しいとのことですが、少々納得できません」
「どういうところが?」
「まず、台本の中身を見た所、私とは正反対の人相である人物であるので私とは似ても似つきません。それに私は演劇部に所属しているとはいえ、入部してから数ヶ月の一年である為、いきなりの主演を務めるには荷が重いと感じられます。やるのであれば優先順位的に二年生の先輩が務めるのが筋であると私は感じます」
言われてみればその通りであると納得してしまう。
入って数ヶ月の僕たちがいきなりそんな大役を任されるのにはあまりにも荷が重い。それに沙夜は自分を変える為に演劇部に入ったが、まだ自分を変えきれていないのにいきなり主演を務めるには無謀とも言えるだろう。白雪先輩になんて言えばいいか、僕は頭を抱える。
「白雪先輩。すみません。やっぱり沙夜は無理とのことでした」
僕は白雪先輩を呼び出し、ストレートに頭を下げながら言った。
「そっか。思った通りの結果だね」
白雪先輩は分かりきった答えを聞いたかのように顎に手を添えながら頷く。
「分かっていたんでしたら最初から頼まないで下さいよ。やっぱり一年の僕たちには無理ですよ」
「なんで無理だと思ったの?」
「それは経験も浅いし、いきなり主演と言われてもイマイチピンとこないというか」
「こういうのはチャレンジすることが上達の近道だよ。私だって一年の時に主演に選ばれたんだから。結果として出られなくなったけど。でも、出来ないと最初から決めつけるのは良くないと思う。何事にも前向きに挑戦することが大事だよ。だから、私は冬月さんにはそうなって欲しいと思うの。ねぇ、なんとかやる気になれるように仕向けてくれないかな?」
「どうしてそこまで沙夜にこだわるんですか?」
「どうして……そうね、私はあの子に笑って欲しいと思っているのかもしれない。それは夏宗君も同じでしょ?」
「それはそうですけど」
「やれるだけのことはしてみても損ではないと私は思う。夏宗君はこの意味、分かるよね?」
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