第32話 シナリオの内容


「あの、演劇のシナリオが完成しました」


 一週間後、白雪先輩は台本とも言える紙の束を真崎部長に差し出す。


「早かったね」


「はい。書いているうちに楽しくなっちゃって。勢いが止まらなくなっちゃいました」


 早速、真崎部長はページをめくって読み始める。それを見られている白雪先輩は恥ずかしそうに横を見てそわそわしていた。

 一通り目を通した真崎さんは紙の束を閉じた。


「あの、どうだったでしょうか?」


 白雪先輩は心配そうに言った。


「白雪さん」


「はい」


「実に面白いよ。感動した」


「本当ですか?」


「ただ、最後の結末なんだが、なんでバッドエンドになったんだ? 劇なんだからハッピーエンドに出来ないのか?」


「はい、そこは絶対に突っ込まれると思っていましたが、私としてはその結末が最善の選択だと判断しました」


「そうか。どうするかは部員の意見も聞いてから決めよう。これ、コピーしてみんなに配っても良いかな?」


「はい。その為に作ってきたので」


 演劇部のメンバー全員にその台本が配られた。僕はその内容に目を通す。


 ジャンルとしてはファンタジーものだった。

 その内容は複雑な男女の関係を描いた話。

 ヒロインは無口で無表情の独特な女の子。そのせいか、クラスでは浮いた存在でみんなから避けられているような女の子だった。

 ある日のこと、とあるマジシャンの若い青年が路上ショーで手品を披露する。そこでたまたま観客として見ていたヒロインの女の子がマジックの手伝いとして指名されることから物語は始まる。


 脱出マジックを手伝わされたヒロインは見知らぬところにワープさせられる。

 そこは現実の世界とは異なり異世界の荒野だった。

 異世界に飛ばされてしまったヒロインは元の世界に帰る為に現実世界の抜け道を探す為に歩き回る。そこに現れたのは一人の男子高校生だった。

 その男子高校生も同じようにこの世界に飛ばされたという。

 運命共同体となった二人はマジシャンから出される課題をクリアしていくべく一緒に戦う。時には頭脳を。時には体力を。課題をクリアする為には二人の力がなくては進められない。信頼関係が芽生えた二人は究極の二択を迫られる。

 ある課題により二人のうち一人しか通れない道ができてしまった。

 一つは現実世界に通じた道。もう一つは永遠に異世界から出ることができない道。そんな時、男子高校生は自らを犠牲にしてヒロインに現実世界に通じた道を進めさせる。ここまで共に戦ってきた仲間に涙するヒロイン。


 そして、最後に立ちはだかったのは自分たちをこの世界に送り込んだマジシャンだ。最後の課題をクリアすれば無事に元の世界に帰れる。

 ヒロインはなんとか課題をクリアして、マジシャンに打ち勝つことに成功したヒロインは衝撃な光景を目にする。

 マジシャンの正体は犠牲になった男子高校生だった。彼の目的はヒロインの心の弱さを克服されるのが目的だった。

 現実世界で明るく笑顔が絶えないように。

 これからもずっとずっと平和で健やかに過ごせるようにという願いを込めて。彼はヒロインのもう一人の存在。つまり、男女の双子だった。その昔、双子のうちの一人が流産してしまったのだ。それが生命体としてヒロインの傍に現れたのだ。ヒロインから幸福の全てを奪ってしまった彼は罪悪感から少しでも明るく生きていて欲しいという願いを込めて今回の課題を与えたのだ。そして、彼はヒロインの成長を見届け、役目を終え、この世を去っていった。

 ただ、その事実は、ヒロインは何も知らない。現実世界に戻ったヒロインは最後の最後で何者かに刺されて死んだ。まるで双子の男子高校生を追いかけるように。そして死んだ先でヒロインは全ての事実を知る。大体の流れはこんな感じである。他にも細い部分はあるがそれは長くなるからいいだろう。

 事実を知るのは死んだ先になることはどのような意図が隠されているか、それは白雪さんが何を伝えたいかが今回の鍵だ。

ストーリーとしては申し分ないほど良い仕上がりだった。ただ、これを劇にするとなるとそれが可能かどうかという判断になってくる。


「このストーリーで問題ないかどうか話し合いで決めよう。どうしても決まらなければ多数決になる」


 話し合いの結果、改善点や不可能な演出なんかもあったがどうしても残った問題が最後の結末である。


「マジシャンと共に行動をしていた男子高校生が同一人物ではなく別々にしたら?」


「だったら最後はハッピーエンドの為にお互いの事情を知った上で涙するとか?」


 結末は悩まされた。


「白雪さん。この結末に隠された意味を教えてくれませんか」


 と、女子部員の一人が言った。


「知らぬが仏。つまり、化けて出てきたから生きているうちに事情を知るのは違うと思ったの。だから死んだ先で知ることが最善の終わり方だと思ったの。でも、劇の進行の問題でシナリオ通りにならなかったら変えてもらっても構わないから」と、白雪先輩は付け加える。


 納得する者や理解できない者がいる中、考える時間を費やされた。

 結局、この日は話がまとまらず保留となった。

 明日までに考えてくることと配役が言い渡されることになり、今日は打ち切られた。

 最初の土台とも言えるところだ。皆、慎重になるのも無理はない。

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