第27話 喧嘩勃発
「春風。何かあったのか?」
扉の前で秋山は立ち止まる。秋山のせいで僕は部屋の様子を見ることができない。無理やり押しのけて僕は部屋の様子を確認する。
僕が目撃した光景は信じられないものだった。
春風と沙夜が取っ組み合いをしているのだ。
沙夜が優位に立っていて馬乗りになっている。完全に春風が負けていたのだ。
それに対し、春風も抵抗するように沙夜の髪を引っ張るのが精一杯だった。
「沙夜! 何をやっているんだ」
僕はすぐさま止めに入るべく後ろから沙夜を掴んで春風から引き離した。それでも尚、沙夜は春風に向かって行こうと抵抗する。
「沙夜! 落ち着くんだ。辞めるんだ」
沙夜は僕の言うことが耳に届いていない。抵抗を辞めなかった。
「沙夜! いい加減にしろ。こっちに来い」
僕は強引に部屋から連れ出し、春風から距離を取った。何もないところまで連れていくと沙夜の抵抗は収まった。
「沙夜! 何があったか説明しろよ」
僕がそのように言うと、沙夜は母親に怒られている子供のように視線を合わせようとせず、無言を貫いていた。その行動が僕の怒りを込み上げた。
「黙っていたら分からないだろ。なんとか言えよ」
僕は少し強めに怒鳴った。
「私は何も言いたくありません。彼女とは絶縁する方針になると思われます」
「は? どういうこと? なんでそうなったの?」
沙夜は喋りたくないのか両手でバツを作り、これ以上は喋りませんと口を閉ざした。
「お前はここにいろ」
僕はそう言い残し、春風たちがいる部屋に戻った。
そこにはトロフィーが何個か床に落ちており、その中には壊れているものもあった。
そして春風は泣いていたのか目が赤くなっており、秋山が寄り添うように春風の傍にいた。
「春風……大丈夫か?」
僕の問いかけに春風は答えない。ただ小さく頷くだけだった。
「夏宗。冬月、なんて言っていた?」と、秋山は聞く。
「何も。喋りたくないって」
「そうか。こっちも同じく」
「春風、一体何が……」
「秋山君。ごめんね。修造さんの大事にしていたトロフィーを壊しちゃって。私、弁償するよ。明日、持ってくるね」
「いや、いいよ、別に。対したものでもないし、親父なら笑って許してくれるよ。だから気にしないでくれ。俺がなんとか誤魔化しておくから」
「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えようかな。それと私、もう帰るね。ちょっと気分悪いし」
「それなら送っていくよ」
「いや、大丈夫。一人で帰れるから。それに一人で帰りたい気分なの。だからごめんね。それじゃ、またね」
春風はそう言い残し、部屋から出て行った。
「追いかけなくてもいいのか?」と秋山は言う。
「でも、沙夜のこともあるし……」
「今は聞かない方がいいかもな。変に刺激をしても逆効果だし。また機会があれば聞けばいいよ」
そう、言いながら秋山は破損したトロフィーを拾い上げる。
「手伝うよ」
「あぁ、大丈夫だ。それよりお前は冬月を連れて帰ってくれ。また暴れられたら困るからな」
「ごめん。こんなことになって」
「気にするな。こういうことだってあるさ」
秋山は笑っていた。それは無理に笑っていることはすぐに分かった。
初めて春夏秋冬がバラバラになった瞬間だった。
世話役としての沙夜か、片思いの春風かどちらの味方になればいいのか分からない。
それに秋山と春風の交際事情だってちゃんと聞いておらず頭の片隅に引っ掛かっている。こんな状態で仲直りは出来るのだろうか。
もしかしたら一生バラバラになることだって考えられる。
どうしてこうなってしまったのだろうか。僕はどうするべきなのだろうか。色々ありすぎて何も思い浮かばない。秋山にこの場で聞いてもよかったが、そんな気分になれなかった。複雑な心境の中、僕はすぐに沙夜を連れて家に帰った。勿論、その道中ではお互い口を開くことはなかった。
ただ、目線を一度も合わせず気まずさと共に僕と沙夜は解散した。
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