第26話 見学
沙夜の予想外の食べっぷりを見てしまった僕たちは余っていた肉と焼きそばを食べた後に家の見学をさせてもらった。入ってはいけない部屋、入っていい部屋と秋山の監視のもと、僕たちは動き回っていた。
「それにしても広い家だな。これだけ部屋あって使い切れるのか?」
「まぁ、ほとんど空き部屋だな。使い切れないよ」
「そういえば、なんで剣道場まであるんだよ。修造さんの趣味か?」
「あぁ、そうだな。昔は親父に稽古をつけてもらってさ。今では時間がないから俺が独占して素振りをしている」
「へー。修造さんって剣道強いんだ」
「昔な。でも今はそんなこともないけど、やっぱり剣道は好きだと思うよ」
「なるほど。あ、この部屋入っちゃまずいかな?」
「あー、そこか。まぁ、いいよ」
曖昧な言い方であったが秋山は許可した。
ドアを開けるとショーケースが壁一面にあり、そこに収められているのはトロフィーやメダルの数々である。
「これは?」
「あぁ、親父のだよ。剣道の時や歌舞伎のやつとか色々」
金の置物が眩しいくらいにキラキラしていた。「凄い」の一言である。剣道は全国大会出場のものや成績優秀賞などのものがある。昔強いというのは本当のようだ。
「じゃ、次の部屋に行こうか」
秋山が提案すると春風が「あのさ」と呼びかける。
「もう少しだけ眺めていてもいいかな?」
「あぁ、構わないよ。隣の部屋にいるから」
「ありがとう」
隣の部屋は先ほどの二十畳のリビングになっていた。
「沙夜。少し顔色悪いぞ。大丈夫か?」
僕は気にかけた。
「はい。お手洗いをお借りしたいのですがよろしいでしょうか」
「おう。出て左に行って右に曲がったところだよ」
「ありがとうございます」
沙夜は部屋を出た。やっぱり食べ過ぎたのかと僕は思う。
何故か秋山と二人きりになった。部屋は広過ぎて距離はあったが妙に気まずさがある。
「あのさ、お前に一つ聞きたかったことがあるんだけど、いいか?」
秋山は視線を床に落としながら言った。
その妙に改まった感じに僕は振り向く。
「なんだよ。急に」
「お前、好きな人いる?」
「は? なんでそんなこと聞くんだよ」
「真面目に聞いているんだ。ちゃんと答えろよ」
そう、言われて僕は間を置いて言った。
「い、いるよ」
「そうか」とそれを聞いて秋山は黙った。
「おい。聞いたんなら最後まで喋れよ。ずるいぞ。自分だけ聞いて」
僕は興奮したように立ち上がった。
「その好きな人ってもしかして春風か?」
その瞬間、時が止まったようだった。目を見つめ合い、緊迫とした空気が流れる。声を発することも動くこともできなかった。
「否定しないと言うことはそういうことか」
「悪いかよ。恋人同士だからって諦めろとでも言いたいのか」
「は? ちょっと待て。お前、何を……」
その時だった。
ガッシャーンと大きく物音が響き渡った。その音は隣の部屋からである。
「なんだ。今の音」と、僕は言う。
「隣で何かあったのか」
秋山は部屋を飛び出す。僕はそれに続く形で部屋を出た。
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