第24話  BBQ

 案内されたのはウッドデッキがあるスペースだった。

 そこにはバーベキューの準備がされていた。まさか家でバーベキューが出来るとは驚きだ。


「後は皆さんで楽しんで下さい。私は修造さんの迎えがありますので失礼します」


 内田は役目を終えたかのようにその場を離れていく。


「楽しんで下さいって……え? こんな豪華にしてもらって本当にいいの?」


 僕は豪華なセットに驚いてしまう。高価そうな肉がズラリと並んいるのだ。


「よう。みんな揃っているな」


 そこに現れたのはショートパンツにTシャツ姿のラフな格好をした秋山だった。


「よう。じゃねぇよ。これはなんだよ。なんでバーベキューが用意されているんだよ」


「ん? 夏宗、バーベキュー嫌いか?」


「いや、好きだけど! めっちゃくちゃ好き」


「ならいいじゃないか。母さんが気合い入れちゃってさ。とことん食ってくれよ」


「ん? お前の母さんって誰だよ」


斉藤郁代さいとういくよ。昔は女優をやっていたけど、今は引退しているよ」


「なんだお前、完全に有名人の子か? その羨ましい立場、ずるいぞ」


 と、僕は失礼を承知で秋山に指を指した。


「そんなことを言われても親なんて選べないだろ。それに有名人の子も良いものじゃないさ」と、秋山は視線を僕から逸らした。


「何か事情があるんですか。良ければ話していただけませんか」と、沙夜はグイグイ秋山に来る。


 その辺にしておけと注意したくなるが、聞きたい自分がいた。


「親が有名なだけで息子である俺は期待が大きい。いわばプレッシャーという圧力で押し潰されそうになる。昔から塾や習い事に行かされて金を注ぎ込まれてきた。全ては自分たちの名誉に恥じないように生きさせる為だ。成績が悪ければ嫌な顔をされ、成績が良くてももっと上を目指せと褒められることはなかった。少しでも良い息子を演じるのが精一杯さ。親父と母さんの目を気にするのも疲れる。それでも羨ましい立場と言えるか?」


 無神経な発言をしてしまった自分が恥ずかしくなった。秋山は落ち着いた口調で怒った様子はなかったが、生気は感じられない。


「悪かったな。事情を知らなかったとはいえ、傷付けるようなことを言ってごめん」


 と、僕は頭を下げた。今のは僕が悪い。それは紛れもない事実だ。


「気にするな。別に怒っていない」


 サラッと言う秋山が何故か格好良く見えるのが悔しい。何もかも負けた感じがして僕は言い返せなかった。何も勝負はしていないのだが。

 人当たりの良さそうな秋山にも家庭では苦労していることを知った。


「はい。握手!」と春風は僕と秋山の右手を掴んで無理やり手を繋がせる。


「春風、何?」


「友情の握手だよ。また一つ、絆が深まったところで形としてね」と、にこやかに春風は言う。その流れで僕と秋山はガッチリと手を握り合う。


「なんか、照れ臭いな」


「うん。同感だ」


「はい、はい。これからも仲良くしていこう」


 と、春風が話をまとめた時だった。


「このお肉は脂が乗っていて口の中でとろける程よい食感があり、とても美味しいです」


「あ、沙夜。何勝手に食ってんだよ。まだみんな食べていないのに」


 人に喋らせておいて自分は肉を食べている姿に殺意が湧いた。


「いいよ。いいよ。肉ならいっぱいある。好きなだけ食えばいい」



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