第21話 いつもの日常


「おはようございます。私はこうしてあなたが現れるのを今か、今かと待っていました」


 翌朝、沙夜はいつものように僕の自宅前で呼び鈴も鳴らさずただ、ひたすら待っていた。

 僕と沙夜の朝の定番のシーンである。


「おはよう。てか、お前大丈夫なのか? 昨日、あんなぐったりと倒れていたのに」


 てっきり今日は休むとばかり思っていたが、変わらない姿でいる沙夜に疑問を持った。


「はい。私は至って元気です。何も悪いところはございません」


 と、本人はそう言っているが、僕からしたら「はい、そうですか」とは信じられなかった。

 どこかしら無理をしている部分はあると踏んだ。


「足は?」


「大丈夫です」


「手は?」


「大丈夫です」


「頭は?」


「大丈夫です」


「お腹は?」


「少しズキズキしています」


「ほら、みろ。やっぱり痛いんだろう。無理せずに今日くらいは安静に寝ていろ。なんだったら病院に行くんだ」


「問題ありません。私は元気です」


「お前の言葉が何一つ信用出来ない」


 なかなか引き下がらなかったので遅刻しない為にもとりあえず学校に行くことにした。


「限界がきたらすぐに言えよ」


「はい。分かりました」


 言葉ではそう言うが本当に分かったのか僕には判断がつかない。その時は無理やりでも病院に連れて行こうと決心する。


「一つ謝らせて下さい」


「なんだよ」


「無茶をして気を失うような事態に陥ってしまい、反省しています。申し訳ありませんでした」


 沙夜は頭を下げた。


「その自覚があるだけ少し成長したな」


「お褒めの言葉ありがとうございます。気が付いたら私は自分の部屋のベッドに居て驚きました。母から話を聞いて上手い感じに誤魔化してくれたのだと察しました。全ての尻拭いまでしてくれたのですか。何から何までありがとうございます。さすが、私の世話役であると敬意を評します」


「うん。どういたしまして」


「今後はこのような失態がないよう努めますのでなにぞと宜しくお願いします」


 と、沙夜は再び頭を下げる。


「うん。分かったから。早く学校に行かないと遅刻する」


「現在、七時五十五分を回っていますので少し急いで学校に向かった方がよろしいでしょう」


「そうだね」





「あ! 夏宗君、冬月さん。おはよう」


 教室に入るや否や、春風が出迎えてくれた。


「あ、は、春風」


「ん? どうしたの? 夏宗君。顔を引きつって。気分でも悪いの?」


 僕は昨日の春風と秋山の光景を思い出してしまい、気まずさを出していた。


「いや、何でもない」


 手で顔を隠しながら言ったので不審に思われても不思議ではなかった。

 春風は首を傾げるだけだったが、特に気にした様子はない。


「冬月さん。おはよう。てっきり今日は休むかと思っていたけど、身体はもう大丈夫なの?」


「はい。私は至って健康です。何も悪いところはございません。あなたにもご迷惑おかけしました。ありがとうございました」


 沙夜は深くお辞儀をする。


「いいって。元気で何より。じゃ、またね」


 春風は手を振って自分の席に戻って行った。


「一つお尋ねしたいことがあります」


 沙夜は僕に向けて言った。


「何?」


「あなたのさっきの行動はとてつもなく不自然でした。しかし、相手は思い当たる節はない様子でした。何かあるのでしょうか?」


「何かって何だよ」


「例えば、何か見てはいけないものを見てしまったとかそんなものです」


「な!」


「あたり?」


「違う! さぁ、もうすぐ授業始まるぞ」


「そうですね。一限目の授業は社会ですので緊張が走る授業です」


「よりによってあの飯塚の授業か。朝からついてないな」


 沙夜に昨日の出来事は言えないが、見る目が一段と優れているのか、あの一瞬で肝を抜かれたような感覚が苦しい。

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