第13話 ※※※
「まず、その内容は誰から聞いたのか、吐いてもらおうかしら」
小林先輩は言った。小林さんを含め、四人の演劇部の女子メンバーに僕と沙夜は囲まれてしまった。
「その言い方から察するに事実だったと認めるということですか?」
沙夜は歯向かうように問いただす。
「違うし!」と、仲間のメンバーが沙夜の胸板を押した。その反動で沙夜は背中を壁に打ち付けられる。
「沙夜、大丈夫か? 先輩、お願いします。僕たち何も言いませんからどうかここは見逃してくれませんか?」と、僕は媚びを売る。
「夏宗がそう言ってもその子にはその気がないんじゃないかな?」
「はい。ありません。私はあなたの卑劣な行為を黙って見過ごす訳にはいきません」
沙夜は言い放った。本当に沙夜は空気が読めなかった。
「だって。だから見逃す訳にはいかない」
「あの、何をする気ですか? 苦痛は僕が受け持つのでどうか沙夜には何もしないで下さい」
「はぁ? 何カッコつけてんの? てか、あんたら付き合ってんの?」
「僕たちは恋人関係ではありません。幼馴染です」
「ふん。どっちでもいいけど、冬月だけは見逃せないから。ねぇ」
仲間の三人は沙夜を取り囲んで動きを封じた。
「私は手も足も出ません。私は一体、何をされるのでしょう?」
動きを封じられたにも関わらず、沙夜は無表情で呆然としていた。普通なら暴れたりするものだが、沙夜の場合は大人しく捕まった。余裕の態度に見えるが沙夜は感情を表に出さないので相手側としては全く読めない。
「随分、余裕こいているわね。だったら何をされるか教えてやるよ」
次の瞬間、小林先輩は沙夜の溝うち目掛けて拳を振るった。
「痛い」
沙夜は痛がる表情は一切見せなかった。痛がるのは言葉だけだ。
「痛そうに見えないわね。もう一発いっとくか」
再び、小林先輩は同じ場所に拳を振るった。
「痛いです。とっても痛いです」
尚も沙夜の表情は変わらない。
「もうやめてあげて下さい。沙夜は表に顔を出さないんです。だからとても苦しんでいます。やるなら僕にして下さい」
「あんたは黙っていな!」
僕はメンバーの一人に抱きつかれた。
「あんたの弱みは考えているから」
そう言って僕が女を襲うポーズになり、その写真を撮られた。
「喋ったら襲われたって言いふらしてやる」
このような場合、例え事実と違えど、写真だけを見れば僕の立場が不利になる。女の立場が弱いと言う一般理論を突かれた。
「辞めて下さいよ」
「だったら大人しくすることね」
悔しい思いだった。沙夜が傷ついているのにただ黙って見ていることしか出来ない自分が嫌になった。
「さて、どこまで耐えられるかな? 私に逆らったらどうなるか思い知らせてやる」
小林先輩の腹パンは止まらない。これ以上、やったら沙夜の身が危ない。やめろ。やめてくれ。
「はーい。そこまで! 全員、動くな!」
その声の主は春風だった。隣には秋山がいた。その手にはスマホが掲げられていた。
「先輩方。今の一部始終はバッチリ撮らせてもらいました。これ以上、騒ぎを大きくするのであれば生徒会に報告することになりますよ」
秋山の発言でその場の空気が変わった。
「あんたたち、引き上げるわよ」
小林先輩たちはその場を去ろうとする。
「待ってください。小林先輩。あなたには真相を正してもらわないといけません」
春風は言った。
「はぁ? なんのことよ」
「来てもらえませんか?」
春風は物陰に向かって呼びかけた。
そこに現れたのは白雪姫愛だった。緊張しているのか、もじもじして視線を下に向けていた。
「白雪……あんた、なんで」
小林先輩を含め、メンバーたちは白雪姫愛の登場に驚かされた。
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