第12話 追求


 入院生活を送っている白雪姫愛の病室にて、小林巫女は現れた。


「怪我の具合はどう? お見舞いに来てあげたよ」


「帰って!」


「友達がわざわざお見舞いに来てあげたのに酷い言い方ね。せっかく来たのに」


「来てくれなんて頼んでない」


「ちっ!」と、小林巫女は舌打ちをした。


「あーあ。一層、死ねば良かったのに」と、小林巫女の表情は変わった。


「やっぱりあの事故はあなたの仕業ね」


「さー。なんのことかな? たまたま古いワイヤーを使っていたに過ぎないわよ。それに私がやったっていう証拠でもあるの?」


「それは……」と、白雪姫愛は口を噤んだ。


「ないわよね? でも、あなたが舞台に出られなくなったおかげで私が主演を務めることになったわ。感謝するわ」


「あんた、やっぱり私をハメたの?」


「違う、違う。そんなことするわけないじゃない。私たち友達なんだから」


「誰があんたなんかと!」


「一つだけ宣告しとくわ」


 そう、言って小林巫女は白雪姫愛の肩に手を回し、耳元に口を近づけた。


「二度と学校に来るな。来たらもっと酷い目に合わせてやる。それと、このことを誰かにチクったらタダじゃ済まさないから」


 白雪姫愛は蛇に睨まれたネズミのように動けなかった。その心は完全に小林巫女に支配された。

 その後、退院した白雪姫愛は学校に登校することはなかった。




「以上が白雪姫愛という生徒について私の知っている真実よ」


 香月さんは全てを語り終えた。話を聞いた僕たち四人は重い空気でいた。


「一つよろしいでしょうか?」


 沙夜が手を挙げながら聞いた。


「どうぞ」


「一部の関係者しか知らない内容ということですが、何故あなたがそのことについて知っているのでしょうか?」


「それはね、彼女は本を通じて私と文通をしていたのよ」


「文通……ですか?」と、僕は拍子抜けする。今の世の中、ネットが発達している中で文通というワードに時代を感じてしまう。


「文通と言っても彼女から来るだけの一方的な文通よ。借りた本を返す度に彼女は私宛に手紙を本に挟んで返却していたの。最初は『いつもお疲れ様です』と挨拶的な文面だったけど、だんだんと自分の出来事を書いていた。私はその手紙を見るのが楽しみになっていた。喋ったりすることはなく受付で会話をする程度だった。そんなある時、彼女の手紙に別れの内容が入っていた。彼女は私に真実を述べてそれを最後に学校に来なくなった。真実を知っている関係者は私と小林巫女さん。それと演劇部の女子部員のみよ。後はみんな事故があってトラウマで学校に来られなくなったと思い込んでいる」


「その真実を知って何もしなかったんですか?」と、春風は聞いた。


「勿論、しようとは思ったけど、私は彼女とは学年も部活も違う全くの部外者。それに虐められていたのが本当かどうかその真実を確かめる術がない。私はそんな正義感にありふれているような主人公でもない」


「それは、自分が傷付きたくないという逃げですか?」と、沙夜は言った。


 攻撃的な発言とも取れる言い方に僕は頭を悩ませる。


「そのような言われ方をされたらそうとしか答えられないわね。私は目立つことが嫌いだから」


「分かりました。ならばその主人公役は私に任せて下さい」


「沙夜。お前、何をする気だ? 変な気を起こすのだけはやめろよ」


「大丈夫です。真実を確かめるだけです。お気遣いなく」


「確かめるって何を? まさかお前……先輩のところに乗り込むんじゃ」


「はい。そのまさかです」


「ストップ! 春風! 秋山! みんなで沙夜を止めてくれ」




「あなたは白雪姫愛に卑劣な虐めを繰り返し、挙げ句の果てに彼女に大怪我を負わせて学校に来られないように脅しをかけましたか?」


 沙夜は小林巫女のいる教室の前まで行き、呼び出したところで言い放った。僕は沙夜の行動を止めきれずに万事休すという感じに膝をついた。香月さんの話を聞いた後、全員で止めにかかって諦めた素振りを見せたが、安心した瞬間の隙に沙夜は行動を開始してしまった。まさに油断したところを突かれてしまった。


「はぁ? いきなり何を言い出すの? 冬月さん」


 小林先輩は怪訝そうな表情で沙夜を睨む。


「あなたは白雪姫愛に卑劣な虐めを繰り返し……」


「だー。沙夜、ストップ。すみません。先輩。なんでもないんで忘れて下さい」


 僕は沙夜の口を塞いでその場を去ろうと試みる。


「ちょっと待ちなさい!」


 小林先輩は僕たちを呼び止めた。


「ちょっと来なさい! 話がある」


 そして、僕と沙夜は校舎裏に呼び出されることになった。

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