第11話 過去の真相


 香月さんの仕事が終わるまで僕たちは図書室で勉強をしながら時間を潰した。図書室の開放時間が終わるまで僕たちは校舎の渡り廊下で待っていた。


「ごめんなさいね。わざわざ待たせてしまって」


 香月さんは申し訳なさそうに現れた。


「いえ。大丈夫です。それよりも……」


「そうね。その前に一つ約束してくれないかしら。ここで言った内容は全て他言無用にしてほしいの。出来る?」


 僕たちは頷いた。


「勿論です」と、代表して僕は言った。


「ありがとう。この件は一部の関係者しか知らない内容だからさ。彼女は、白雪姫愛さんは虐めの標的になって部を追放されたのよ」


 そして香月さんは語った。


 白雪姫愛は比較的に誰とでも親しく話せて明るい生徒だったという。

 そんな彼女はみんなから慕われる存在であり、周りには人が絶えなかった。

 彼女は人前に立つことが好きで実行委員や室長に立候補するような積極性がある生徒だった。


 そして彼女は演劇部に入った。周囲に立つことが好きな彼女にとってはもってこいの部活だった。彼女は主役の権利を得るために人一倍努力した。部員が帰った後も一人で練習して途方も無い努力を繰り返した。


 部長兼監督の真崎透は白雪姫愛の実力を認めていた。時期、主役は彼女だろうと誰もが感じていた。そんな中で彼女を妬む者も多かった。

 同じように主役を夢見る小林巫女もその一人だった。

 彼女も実力は充分にある。


 しかし、白雪姫愛にまで及ばなかった。

 上位に立つ者は下に認められることで立つことが出来る。

 だが、彼女は認められていない。そこで小林巫女を主犯として白雪姫愛は虐めの標的となった。

 同じクラスである小林巫女は手始めに彼女の私物を隠した。それに気づいた白雪姫愛は必死に探し、周りは嘲笑った。


「姫愛ちゃん。もしかしてこの筆箱、あなたの?」


 と、差し出したのは隠した張本人である小林巫女だった。


「巫女ちゃん。それ探していたの。どうもありがとう。どこにあったの?」


「いいのよ。廊下に落ちていたよ。気をつけないと」


 この自作自演で好感度を売った彼女の快進撃が始まった。

 わざとぶつかったり、私物を隠したり、最初は小さな嫌がらせから始まった。しかし、徐々にそれはエスカレートしてトイレの個室にペットボトルの水を上から流したり、上履きの底に画びょうを刺して針を中に浮かび上がらせて履いた瞬間に足を傷つける細工をしたりと攻撃的な嫌がらせを繰り返した。その一環で小林巫女はあえて彼女の味方に付き、嫌がらせをする主犯を庇った。


 この自作自演の行動を白雪姫愛は勘付いていた。と、いうより知っていた。何故、自分に優しくしたり、嫌がらせをするのか分からなかった。その裏表がある顔に怯えながら学校生活を送っていた。白雪姫愛はそれでもめげずに学校生活と部活動を続けた。


 そんなある日、演劇部でコンクールの配役がメンバーに伝えられた。


「主役のお姫様は白雪さん。お願い出来ますか?」


 真崎透は言った。


「私ですか?」


 白雪姫愛は驚いたように言った。


「一年でいきなり主役は重い役目だが任せてもいいと判断した。頼めるか?」


「はい。喜んで!」


「ちょっと待ってください」


 小林巫女は待ったをかけた。


「何故、白雪さんが主役なのでしょうか。白雪さんが出来るなら私にだって出来るはずです」


「確かに小林は演技も良くて配役としても問題ないかもな」


「だったらなんで……」


「僕は白雪さんの努力を知っている。誰よりも多くの練習をして嫌な顔一つせず、分からないことは迷わず先生や僕に聞いてくる。それに、彼女は演技と感じさせない自然体の演技が魅力だ。きっと良い主役になれると信じている」


「それなら私だって……」


「小林さんは自分が足りないモノを認めないところだ。それさえ認めればきっと変われると僕は思う」


 その後、小林巫女は小声で何か言ったが、それは本人にしか分からなかった。

 小林巫女はこう思った。白雪姫愛さえいなければ私が主役の座を奪えていたのに。


 そんな時、小林巫女は白雪姫愛を誰もいない校舎の裏に呼び出した。


「巫女ちゃん。どうしたの? 急にこんなところに呼び出したりして」


「どうしたの? ですって?」


 小林巫女はジワジワと声に怒りが篭った。そして胸ぐらを掴んで壁に叩きつけた。


「あんたのせいで私が主役になれなかったじゃない。どうしてくれるのよ」


「ご、ごめん」


「ごめんって思うんだったら主役を辞退しろ!」


「巫女ちゃん。それはできないよ」


 白雪姫愛は掴まれた手に手を重ねた。


「巫女ちゃんは親しく構ってくれるけど、本当は私のことが気に食わないことは知っていた。私の存在が許せないことだって、私が一番よく分かっている。でも、これだけは言わせて。私は実力で主役をもぎ取った。巫女ちゃんも同じように主役になりたいのなら実力で覆すのが筋だと思う」


「ふ、ふざけるな!」


 小林巫女は両手で白雪姫愛の身を壁に叩きつけた。


「何が実力だよ。自分がお高くとまりやがって。私を下に見てんじゃねぇよ。あんたの全てがムカつく。名前も顔も性格も声も何もかもムカつくんだよ! 私の前から消えろ!」


「そんなに私のことが嫌いなら初めからまどろっこしい真似をせずにこうやって言えば良かったじゃない。だから主役から外れたんだよ」


 その発言で小林巫女の頭身に火が付いた。


「いいわ。私に逆らったことを後悔させてやる。覚えていなさい」


 不敵な笑みを浮かべて小林巫女はその場を去った。



 その後、今までの嫌がらせがエスカレートした。

 小林巫女が流したデマで周囲の人間も白雪姫愛を軽蔑し、彼女の前には誰も味方をするものはなくなった。

 だが、彼女はそんな虐めから逃げなかった。泣いたり、嫌な顔はせず、ずっと笑顔を絶やさなかった。

 その強い精神力が小林巫女を逆上させた。ある時、彼女は白雪姫愛を痛めつけるプランを計画した。演劇の舞台で主役の彼女はワイヤーで宙を舞うという身体を張った演技があった。そこに小林巫女は目をつけた。使用前にカッターナイフでワイヤーに切り込みを入れる細工を施した。そして事故(事件)は起きた。

 空中から落下した白雪姫愛は全身を強く打ち全治三ヶ月の重傷を負った。特にアキレス腱が損傷していた。


「白雪さんは重傷の為、舞台に出られなくなった。そこで代わりに小林さんにお願いしたいと思います」


「はい。精一杯頑張ります。宜しくお願い致します」


 全ては小林巫女の計画通りだった。

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