第10話 情報収集


「よう。夏宗!」


 昼休み、秋山はわざわざ僕のいる教室まで足を運んでくれた。


「秋山。どうした?」


「例の情報はどうなったかなって思ってさ」


「こっちは成果なし。と、言っても誰にも聞いていないというのが正しいけど」


「だよな。入学したばかりで上級生の知り合いなんて演劇部の人くらいだよ」


「誰かいないかな」


「一つ提案があります」


 間から沙夜は割り込んで言った。


「図書委員の人はどうでしょう。白雪姫愛さんは読書好きと言う情報があります。それに人の出入りが多く、情報が豊富だと推測します」


「それだよ。冬月さん。行ってみる価値はありそうだね」


 秋山は乗った。


「君たち! 面白そうな話をしているね。私も一緒にいいかな」


 春風も話に入って僕たちは放課後、図書室に行くことになった。




「僕、図書室に行くのは初めてだよ」


「あなたは漫画やゲームだけではなくもう少し本を読んだ方が良いでしょう」


「大きなお世話だよ。本なんて字ばかりで読む気にならない」


「本を読むことで得られる効果があります。例えば集中力が鍛え上げられます。更に発想力が豊かになり、今まで知らなかったことや考えたこともなかった知識に触れることが出来ます。よって読書は長所を引き出すことが出来ると言えるでしょう。更に言えば……」


「分かった。分かったから。今度、面白い本があったら貸してくれ」


「はい。私は喜んであなたに本をお貸ししましょう」


 放課後の図書室は勉強に励む者の今宵の場となっていた。勿論、私語は厳禁だ。図書委員は私語がないように常に目を光らせている。


「こんにちは。少しよろしいでしょうか?」


「ん? あぁ、あなたは確か、冬月さんだったかしら?」


「はい。一年C組。冬月沙夜です」


「沙夜、顔見知りか?」と、僕は横から言う。


「はい。私は入学当初から図書室に通っているので顔見知りです。ただ、この人の名前は知りません」


「私は三年A組。香月香織かつきかおり。図書委員よ。名前を知らないのは無理もないわね。受付だけの関係だったから。どうしたの? また本を借りに来たの?」


 香月さんは大人の色気があり、メガネをかけて如何にも読書好きの雰囲気が出ていた。どちらかと言うと沙夜に若干似ていた。片手に文庫本を添えられている。


「いいえ。今日はあなたにお聞きしたいことがあります」


「私に? 何かしら?」


「演劇部の白雪姫愛という生徒について知っていますか?」


 その質問をされた香月さんはメガネを曇らせた。


「知っているわよ。彼女も前はよくここを利用していたから」


 その答えを聞いた僕たち四人はアイコンタクトをして頷いた。


「あの、彼女が不登校になった原因を知りたいんですけど、何か知っていることありませんか?」


 春風は質問を投げかけた。


「あなたたち、演劇部の人たちよね? なんでそんなことを知りたいの?」


「私たち、同じ演劇部の仲間として彼女のことが知りたいんです」


「知りたいのであれば同じ部員の先輩に聞けばいいんじゃない?」


「先輩からは事故で足を骨折してそのトラウマで学校に来られなくなったって聞いています」


「そう。じゃ、そういうじゃないかな? 彼女はトラウマで学校に来られない」


「しかし、私たちはそうではないと思っています。真相はもっと深刻で残酷であると私たちは考えています」


 春風の発言で香月さんの表情が固くなった。


「ここは私語厳禁です。私はまだ図書委員の仕事があるので終わるまで待っていただけませんか?」

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