第8話 入部
「初めまして。一年C組。
「同じく、一年C組。
と、僕と沙夜はおなじみの自己紹介を済ませる。
翌日、僕たちは晴れて演劇部として正式に入部ことになった。
「よろしく。二年D組。部長の
メガネにおかっぱ頭で一見地味に見える第一印象だった。
「ちなみに部員の人数は二年生男子四人。女子五人。一年生は君たち二人と春風と男子一人。合計十三人だな」
「一人、女の子が足りません」
沙夜は言った。確かにここにいるのは全部で十二人だった。
「あぁ、彼女は事情があってしばらく学校を休んでいるんだよ」と真崎部長は説明する。
「事情ですか?」と僕が聞いたところで二年生の部員たちは黙ってしまう。
何か大きな事情があるに違いなかった。
「ひょっとして去年の文化祭に出るはずだった竜宮城のお姫様の人ではないでしょうか」
と、沙夜は言った。確証もない話を言ったところで二年生の先輩たちは顔が曇った。
まさか沙夜の予想が的中したと言うのだろうか。
重い空気の中、真崎部長は言う。
「察しがいいと困るよ。仕方がない。同じ部員として話しておくから一年のみんなは聞いてくれ。彼女の名前は
「白雪姫。彼女の両親は狙って名前を付けたと私は想像します」
「いや、それは良いだろう」と僕は沙夜の発言にツッコミを入れる。
「あの、その怪我は深刻なものなのですか?」と春風は聞いた。
「いや、大怪我をしたと言っても全治三ヶ月。彼女の怪我はとっくに治っているはずだ」
「じゃ、何故?」
「私の責任だよ。彼女にプレッシャーを与えてより良い公演をしようと勝手な判断をしてしまった。彼女のことを何も見てやれなかった。何度もお見舞いに行ったが、断られてしまった。どうすることもできない。だから私はこの経験があって二度とこのようなことが起こらないように強く誓った。それはみんなも分かってくれている。してあげられることはもうない。後は彼女の気持ち次第さ」
部員たちは頷いていた。みんな承諾した結果である。
いつか戻ってくる為に名前だけ残してあるのだ。部員の頭数には入っているが、学校に来なければ話にならない。
「しかし、それは……」
沙夜が口を開こうとしたその時、僕は手で口を閉じた。
「言いたいことはわかる。しかし、それはみんな納得した結果なんだ。僕たちが安易に踏み込んでいい領域じゃない」
僕は小声になりながら沙夜に言った。それでも沙夜は納得していない様子だったので僕は後回しにするように振り切った。
その後、部員の間で自己紹介があったが、沙夜は以前、浮かない表情だったことは言うまでもない。
「一年B組。
僕と沙夜と春風ともう一人の一年生である秋山は握手を求める。高身長で親しみやすい人柄が特徴である。僕は握手を交わす。
「夏宗君。なんと秋山君はあの歌舞伎俳優の
と、春風は自分のことのように自慢げに言った。
僕は歌舞伎俳優というのがどういうものなのかイマイチピンとこないので「そうなんだ」と曖昧な返事をしていた。
聞けば春風が当時中学生の時に行った歌舞伎の舞台で主演を演じたのがこの秋山修造だというのだ。つまり春風から見て憧れの存在であるその息子が目の前にいるということになる。
偶然にしてはよく出来すぎだ。有名人の息子と同級生とは驚きはある。
「父親が歌舞伎俳優ってことは秋山も将来は歌舞伎俳優を目指すのか?」と僕は興味本位で聞いた。
「どうだろうね。一応、父の影響で演劇部に入ったけど、実際になるかは分からない」
「あなたは無理に父と同じ道を進むのではなく、自分の進みたい道を目指すと良いでしょう」と、横から沙夜が言う。お前は何様だと心の中で突っ込む。
と、まぁ、たった四人しかいない一年生であるが仲良くしていくように沙夜と共に決心する。
演劇部の活動は秋のコンクールがメインであり、オフシーズンというものがある。しかし、オフだからと言って何もしない訳ではない。基本的な筋トレや発声練習は毎日のようにやる。演劇の練習はそのオフシーズンの練習次第で役が決まってくるという。サボれば脇役になるし、逆に頑張れば主役だって夢ではない。だが、一年では最初のコンクールで主役はまずない。だからと言ってサボることはできないのだ。
「一年では私たち四人で支えあって頑張ろうね。主役をもぎ取れるように。ねぇ、せっかくだからこの四人でグループLINE作ろうよ」
春風は提案する。僕たち三人も承諾した。
グループ名は『春夏秋冬』と命名されていた。
「春風。春夏秋冬って?」と、僕は聞いた。
「春風、夏宗、秋山、冬月で春夏秋冬。偶然にもみんな季節の名前だから」
「なるほど」と、僕は納得する。
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