第2話 幼馴染である彼女の言動①


 シーン1。数学の授業。


「えーと。じゃ、この問題を冬月」


 数学の教師、鈴木は沙夜に問題を振る。


「はい」


 黒板に計算式と答えを書く込む沙夜。その動きに迷いはなかった。 

 沙夜の成績は優れている。真面目で優等生なのだ。昔から勉強は出来るし、涼しい顔で問題を解くところは嫉妬したいところだ。


「うん。正解。よく出来たな」


「何故なら私は昨夜、今日の為に予習をしていたからです。事前の準備をしたことで私は今の問題に正解することができました」


「そ、そうか。戻っていいよ」


 鈴木はテキパキと返されたことで返す言葉がない様子である。

 そう、勉強は出来るが喋らなくていいことを言うところがたまに傷だ。誰もその情報はいらないと言うことを明確に言うのが沙夜なのだ。


「じゃ、次の問題を……そうだな。夏宗なつよし。解いてみろ」


「い! 僕っすか」


 鈴木の予想外の振りに僕は内心焦る。クラスの前で恥を掻きたくない。その問題は僕には解けなかった。絶体絶命と言える。


「答えはこれです」と、小声で沙夜は問題の計算式と答えを紙に書いて教えてくれた。


 まさかの助け舟に僕はお礼を言って堂々と答えを黒板に書いた。


「うん。正解。よく出来たな」


「何故なら、私がその問題の答えを彼に教えたからです」


「そんなこと言わなくてもいいから!」


 と、沙夜は教室内で暴露し、結局僕は恥を掻くことは避けられなかった。




 シーン2。美術の授業。


「今日の課題は学校の風景の模写を描いてもらいます。自分の好きな場所でデッサンをして下さい」


 と、美術の教師、竹宮は課題を出した。


「はー風景か。面倒だな。どうせなら女体をデッサンした方が萌えるよな。特におっぱいとか」


 と、クラスメイトはぼやく。


「確かに」と僕は同意する。


「私の近くで下品な発言を言うのは控えていただけるとありがたいです。何故なら、私はまだそのような経験がなくその話題に慣れているとは言えないからです」


 と、沙夜は睨め付けるように言う。


「ご、ごめんなさい」


 何故か反射的に謝るクラスメイト。今回は間違いなく脅している。ある意味、女子代表で沙夜が言っているのかもしれない。


「あなたは何を描いているのですか?」


 と、沙夜は僕に質問する。


「テニスコート。殺風景で楽に描そうだから」


「非常によく出来た絵です」


「ありがとう」


「どういたしまして」


「そっちは何を描いたの?」


「はい、私は校庭を描きました」


 と、沙夜は絵を見せた。


「これはサッカーゴール。これは鉄棒。これは野球場。これは……」


「ストップ! 説明しなくても見れば分かるよ。それにリアルに上手いな、お前」


「ありがとうございます。一生懸命描きました。それに対し、あなたは上手とは言えず何を描いているのか分かりませんでした」


「さっき非常によく出来た絵って褒めてなかった?」


「申し訳ありませんでした。あれは嘘です。心にないことを言ってしまったと私は反省します」


 と、沙夜は頭を下げる。


「もういいから」と僕の心はズタズタにされた。

 


 シーン3。体育の授業。


 本日の内容は体力測定。男女共に各種目別に数値測定する。

 二十メートルシャトルランの出来事であった。

有酸素運動能力に対する体力測定である。

 体力に自信がある僕は百回を軽く超えていた。ちなみにこの測定に制限時間は存在しない。自分の体力が尽きたその瞬間が終了の規定だ。


「ハッ、ハッ、ハッ……苦しい」


 ちなみに周りで走っているのは僕を含めて体育会系の五人だけ。僕もそろそろスタミナの限界だった。


「もう、ダメ」


 僕は百十五回目で転がり落ちた。


「あなたはゴールしました。おめでとうございます」


 沙夜は僕に向かって言った。


「ありがとう」


「あなたは何か飲みますか?」


「うん。飲む」


「あなたは次の中から選ぶことができます。水道水、麦茶、ポカリスエット、炭酸飲料、コーンポタージュ」


「どれでもいいから持ってきて。但し、コーンポタージュだけは辞めてくれ」


「分かりました」


 そして、結局僕は麦茶を貰った。

 次は沙夜が走る番であった。周りの人が次々とリタイアする中、沙夜は一人で走り続けた。しかも無表情で。

 百回を達成したと同時に沙夜はリタイアした。


「おう。お疲れ」


「はい、私はとても疲れています」


 と、言いつつ沙夜は息切れ一つしていなかった。尚も無表情だった。


「もしかして、まだ続けようと思ったらいけたんじゃない?」


「いいえ。私は己の限界を感じたので挫折しました」


「ふーん。そう」


「はい。そうなんです」


 百というキリが良い数字で疑問を感じたが、沙夜は果たして本当に息切れしているのか僕が確かめる術はない。

 すると沙夜はその場で崩れ落ちた。


「お、おい!」


 沙夜は気絶していた。無理をした結果である。

 後から分かったが、自分で決めた数字を達成すると心に決めていたのはいいものの自分の思いと身体が一致していなかったことが原因だった。せめて身体を優先させて欲しいと思う。


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