第6話 バトル3 銀の軽自動車
オレは、いつもの峠道を走っている。
「そろそろ、カズヤが来る時間だな」
チラッと時計を見ると、やがて来るライバルに対しての準備をしていた。
案の定、後ろから光が近づいてくる。
銀色で玉子の様な楕円形のフォルムで黄色いナンバーの軽自動車であった。
軽自動車は3回パッシングして3回ハザードを点けた。
オレはその合図に3回ハザードで対応した。
コノ合図は、いつもの峠道で自然発生的に広まった「バトル開始の合図」で
後方車が、パッシング3回ハザード3回で 「バトル申し込み」
前方車は、ハザード3回で 「バトルOK」
ハザード2回で 「前後入れ替えてのバトルOK」
ハザード1回 又は無反応で 「バトル拒否」
直線で左ウィンカーで 「追い越し可能・追い越してくれ」
と、決まっていた。
後ろの銀の軽自動車はカズヤの車だ・・・
ヤツはオレが峠を走り始めて1時間位すると、いつも何処からか現れてオレにバトルを申し込んでくる。
オレはカズヤとのバトルを楽しみにしていた。
カズヤの車は軽自動では珍しい”後輪駆動ベースの4WD車”だった。
エンジンの搭載位置もオレの愛車と同じ後部で、やや中央寄りになっていた。
理想的な重量バランスと車体中心部を貫くプロペラシャフトと前後・左右の等長ドラブシャフトの”シンメトリー4WD”構成がタダの軽自動車から、コーナリングマシンへと変えていった。
エンジン出力は軽自動車の自主規制の64psしか無いが、軽いフロントと4WDの安定したトラクションで次々にカーブをクリアしてオレを追い詰めてくる。
実際、雨天の時はオレはカズヤにバトルで勝った事は無い。
愛車のトラクション・コントロールが過度に介入して愛車の牙を抜いてしまうからだ。
しかし今日は晴天だ、オレにも勝ち目がある・・・
ヤツの弱点は軽自動車規格の狭い車幅と高過ぎる車高だ。
オレはいつもの峠道で最も小さい半径のカーブで勝負をする。
何時もより少し速いスピードでカーブに進入して、何時もより少し速いタイミングでアクセルを踏み込む。
リヤタイヤがグリップを失わない様に、慎重にアクセルの踏み込み量を調整する。
ココで焦って一気にペダルを踏むと、リアタイヤは呆気なくグリップを失い、
オレと愛車はコマの様にクルクルと回ってしまう・・・
もうすぐカーブの出口だ、フロントタイヤもシッカリと路面に喰いついてる。
オレはココまで我慢していたアクセルを奥まで踏み込む。
ブーストメーターが跳ね上がり、シフトアップ時に針が上下に踊りだす。
メーターの針に連動する様に、ブローオフバルブから「ピルルルルゥー」と排気音が響く。
愛車はカーブの出口で一気に加速した。
後方ではカズヤの車が狭い車幅と高い車高にタイヤが負けてしまい、大きく外側へ膨らんで大減速をしなければならなくなっていた。
オレはこのアドバンテージを維持して、峠の終点まで走り切った。
待避所でオレとカズヤはお互いの健闘を称え合った。
やはり、バトルは同じレベル同士でやるのが一番楽しい!
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