第515話 J1開幕!! その6

 ピッピーーーー!!


 試合終了のホイッスルが鳴ると同時に、SC東京ゴール裏は大盛り上がり。


 なんと、前掛になった川崎相手に、試合終了間際にカウンターが立て続けに炸裂し、気が付けば3-0の大勝だった。


 焦燥しきっている川崎の選手達を尻目に、上久保さんを始め東京の選手達はゴール裏にいるサポーターに向かって、シャーシャーシャーと雄たけびを上げまくる。


 その様子を納得のいかない顔で眺めている川崎の選手とサポーター。


 もっともその気持ちも分からなくはない。どう考えても0-3で負けるような試合ではなかったのだ。


 たまたま運悪く安部さんの折り返しがDFの足に当たって、たまたま運悪くそれが、ソンさんの股間を抜けた。


 ボールの行方が5センチずれてたら試合の展開は大きく変わってただろう。


 そして、攻め急いで前掛になったところを上久保さんとペーターさんという強力無比なツートップがとどめを刺したのだ。


 いやはや、フットボールって恐ろしいですねー。


 ちなみに残念ながら俺の出番は今回は無し。やっぱ交代枠が3人だといろいろと保守的になっちゃいますよねー。


 そんな感じで意気揚々と控室に帰って来たかと思えば、そこからのいつものFW陣の喧々囂々の話し合い(?)が始まった。


 上久保さん曰く、「俺がフリーで走り込んでんだから、もっと足元にパスよこせよ」と言えば、(たしかに上久保さんがフリーで走り込んでパスが通れば一点ってシーンいくつかありましたね)


 翔太は翔太で、「もっとニアに走り込んでシュートコースを広げてくださいよ」と。(たしかに、上久保さんがお前のシュートコース邪魔して打てなかったシーンもいくつかありましたよね)


 昨シーズン後半から、すっかりリーグを代表するフォワードに大成した翔太に、おんぶにだっこのチームが、上久保さんが入った途端、黒子に徹しろと言われては翔太だって面白くはない。


 そもそも、ハーフレーンからカットインしてのシュートが得意な翔太と、相手DF陣との駆け引きで裏を取りワンタッチゴールを真髄とする上久保さん。


 正直二人とも相性がいいって感じではないんですよねー。


 さらに、昨シーズンから東京を引っ張って来たという自負を持っている翔太と、SC東京のフロントから三顧の礼でやってきた上久保さん。うん、どう考えても水と油だ。


 そんな二人の火花の散るような話し合いを、未来を知っている俺と司が遠目で眺める。こっちに話を振ってくんなよとオーラを出しながら……


 そもそも、翔太。おまえだってこの夏にはポルトガル行っちまうし、上久保さんだって、あなた、来シーズンには仲村さんのパスが恋しくなって川崎に戻られますよね。あれ、東京のサポーターから相当顰蹙買ってますよ。


 すると、二人の話し合いはどんどんとエスカレートして今や取っ組み合いのケンカになりそうだ。


 ねえねえ、今日の試合って3-0で勝ったんだよね?


「どうする、司、そろそろ仲裁に入る?」


「めんどくさいけどそうするか」


 俺と司はそのまま翔太の両脇に立つと、そのまま両腕を抱えて控室を後にした。


 篠川監督の「すまん、後は頼んだ」という顔が忘れなれなかった。


 大体これが、ここ最近の我がチームの現状です。はい。


「ねえ、神児君、司君、僕の言ってる事、間違ってないよねー!!」


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16818093075925068231

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る