第514話 J1開幕!! その5

 2017年3月18日(土)キングアマラオスタジアム。


 早春の肌寒い空気がスタジアムをすっぽりと覆いつくすが、『多摩川クラシコ』の興奮に酔った観客達には何処吹く風。


 熱狂を身に包み、狂乱を振りかざす。


 両チームのサポーター達は今や遅しと試合開始の笛の音を待ちわびる。


 19:04、J1第4節、SC東京vs川崎フリッパーズ、キックオフ。


 そんな感じで、両軍のフォーメーションはこんな感じです。はい、ドンッ!!


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16818093075917292754


「どんな感じですか北里さん」


「前線の分厚さでいったらウチだけど、全体的なバランスを見るとあちらさんだな」


 確かに、上久保さん、翔太、長井さんのスリートップは強力無比。その上、ベンチではペーターさんもスタンバってる。


 そして何よりもすごいのは両軍の応援合戦。


 普段なら空き気味のアウェイ席上層部も今日はフリッパーズサポーターで満員だ。観客人数3万6千人のフルハウス。


 思わず本日の売り上げがいくらくらいだが勘定してしまう。どうも毎度ありがとうございます。(チーン)


 そんな感じで熱狂と興奮の坩堝の中、多摩川クラシコが始まった。


 試合の展開はと言うと、川崎が丁寧にGKのソンさんからゲームを組み立てるのに対し、我が軍はサイド攻撃及びロングボールで川崎の中盤をすっ飛ばす作戦だ。


 本来ならそんな絵に描いた餅的なゲーム展開にはならないのだが、その絵に描いた餅を食べれるようにしてしまうのが、東京の誇る強力3トップ。


 上久保さんも翔太も長井さんも、アバウトなロングボールもその脚力とテクニックであっさり収めてしまうのだ。


 こりゃー、相手はやりずらいだろうなー。


「えっ、なに、うちのチームってこんなに強かったの?」と史実では今シーズンのチャンピオンになるはずの川崎さん相手に互角以上の戦いを続けている我が軍。トーキョー、誇らしい。


「ただ……」と司。


「んっ、なんだ?」


「できたら、上久保さんはもう少し中央で使いたいなー」と司。


 確かに、上久保さんも翔太もサイドに流れて、結果的に中央は手薄になってしまっている。


 もっとも、その原因としては、川崎の中央に立ち塞がる、川崎の旗手(バンデイラ)、仲村憲信さんの存在が大きい。


 その正確無比なキックと戦術眼で川崎の攻撃を組み立てる頼れるキャプテン。(もっとも今シーズンから林選手に譲っては入るが……)


 そして、何を隠そう司のアイドルでもある。


 前の世界では、一時期、川崎主催の講習に入りびたりで、フリッパーズのアナライザーになるんじゃないかと噂されていたのはここだけの秘密。


 美しいトラップ。正確無比なパス。そして完璧なまでのコーチング。


 川崎の象徴がゲームを支配し始める。


 すると……「なぁ神児、俺の夢、一つ聞いてもらってもいいかな?俺、一度でいいから仲村さんと同じピッチでプレーしたかったんだよなー」とうっとりした目で川崎のバンデイラを見つめる司。


 ところで、司君、敵のチームの主力をそういう目で見るのはやめなさい。それって、恋する乙女の目だぞ。後で遥に言っとくからな。


 そして同じピッチの上でプレーって、まさかあんた味方同士ってことじゃないよね。俺達これから仲村さんと戦うんですよ。


 だが、しかし、川崎の美しい旋律のようなフットボールが繰り広げられるのはまだ少し先の事。


 名将風見監督からバトンタッチされた、俺達にもなじみ深い鬼本監督の戦術がチーム全体に浸透するのはこの年の夏以降、残念ながら、まだ少しところどころで作戦の粗が目立つ。


 そしてそこを決して見逃さないSC東京の選手達。


 チーム創設以来、ハイプレスと縦に速い攻撃はお手の物だ。


 試合は一進一退を繰り広げる好試合。


 あれれ、ウチってこんなに強かったっけ?と失礼ながらも思ってしまうほどの好プレーの連続で、キングアマラオスタジアムの雰囲気は今やクライマックス。


 これこそが、ダービーもとい、『多摩川クラシコ』の醍醐味か!!


 すると、遂に後半15分、小田さんの代わりとして、司に監督の篠原さんからお声が掛かった。


「よしっ、司、行って来い!!」


 恐れを知らぬルーキーは颯爽と、キングアマラオスタジアムのピッチに向かって走っていく。


 ところで、監督、俺の出番は?


 司がチームに加わると、子供の頃からコンビを組んでいる翔太の動きが一段とキレを増す。


 もしもし、一応なんですけど俺も翔太とは子供の頃からプレーしてるんですよ。知ってました?監督。


 司が率先して中に入り、ゲームの組み立てに参加する。


 リーグ戦初出場ながらも堂々としたプレーっぷりだ。わが友としても誇らしい。ところで監督、俺の出番は?


 するとなんという事でしょう。後半31分、司からのパスを受けた上久保さんが左サイドに切れ込むと、ゴール前に走り込んで来た安部さんにパス。


 コースの無くなった安部さんはゴール前に折り返したところで川崎のDFの足に当たってなんとそれがキーパーのソンさんの股間を抜けた、まさかまさかのOGで東京が先制した!!


 ヤッター!!ところで監督、俺の出番は?


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16818093075916531518

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る