第512話 J1開幕!! その3
「あぁぁぁー、終わったー」とテーブルに突っ伏す俺。
俺達は試合が終わった後、SC東京の選手寮の司の部屋で週末の『多摩川クラシコ』の分析をしていた。
ちなみに『多摩川クラシコ』とは、多摩川を挟んで隣同士のSC東京と川崎フリッパーズの戦いの事を言うんだ。
2007年、当時のSC東京と川崎フリッパーズの両チームが「多摩川挟んで隣同士なんだから盛り上げていきましょう」と意気投合して始まった。
ついでに普通に『ダービー』っていうのは味気ないんで、ちょっと調子に乗って『レアル・マドリー』と『バルセロナ』の戦いから拝借して『クラシコ』の名前も取っちゃいましょう!!なんて、営業担当の人が言ったとか言わないとか……
当初は「まぁ、軽いノリでやってみましょう」ってな感じで始めたものが今や両チームに欠かせないイベントとなったのだ。
どういう訳だか意外と相性がいいSC東京と川崎フリッパーズの両サポーター。『多摩川クラシコ』を盛り上げるために多摩川のごみ拾い活動を一緒にやったりもしている。
そういや、当時川崎のFWだったテセ兄さんが調子に乗って多摩川を泳いで渡ったら、ボランティアのおばちゃんから「子供が真似したらどうすんの!!」って雷を落とされたのはいい思い出。……ホントか?
まあ、共通の敵がいると、敵の敵は味方ってことで仲良くなっちゃうんだろう。
そこら辺は、俺も司も翔太も、そして……一英も複雑な思いを持っていると思う。だよな、一英!!
すると、「じゃあ、今から控え選手の分析だぞ、神児」と冷酷な上司の一言。
あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ー。
「なんなん、なんなん、この川崎のスカッド。エグすぎるんですけど」と俺。
「まあ、前の世界では、今年のリーグ制覇から川崎の黄金期が始まるんだから、このくらいは想定内だろ」と本当にどこまでも冷静な司。そして……「まさか、忘たなんてことはないよな」……と念を押すのも忘れない。
覚えてます、覚えてますよ。忘れたなんてことなんて無いけれど、あたらめて見返してみると、メンバーがエグすぎるんですよ。
チームのバンデイラ、主将の仲村憲信さんを始め、この年、得点王に輝く予定の大林優選手。そしてオリンピックで一緒に戦った小島さんに川崎の例の4人衆のうちの三好君と板谷君もいるし、日本代表の谷選手までいる。そういや田中蒼君もトップチームにいるんだよね。たしか……
「なんなんすか、いきなりこんな 魑魅魍魎が跋扈するピッチに放り込まれるんですか、俺達……」
「まあ、流石にスタメンってことは無いだろうが……あ、でも、徳長選手も小田選手も最近そんなにコンディションよくないから下手したらいきなり抜擢なんてこともあるんじゃねーのか?」と小難しそうな顔をして司。
「まじか……」
「おいおいおい、試合に出場することを優先してこのチーム選んだんだろ。今さら臆病風に吹かれるようなこと言ってんじゃねーぞ」
「た……たしかに」
「それに我が軍だって、川崎のスカッドには負けてない」
「そ……そうか」
「ああ、まずは、2013年から15年まで3年連続得点王の上久保選手だ。口さがないサポーターからは「おじさんの方のクボ君」なんて酷い言われようだが、実績だけなら日本トップクラスだ」
「たしかに!!」
上久保選手は今シーズン三顧の礼でSC東京に来てもらった日本最高峰のストライカーだ。
「そして、その上久保選手から昨年得点王を奪い取ったペーター・ウタさん。サンアローズのエースストライカーをよくも手に入れることが出来たものだ。フロントえらい!!」
「たしかに!!」
「さらには、2009年10年の二年連続の得点王の前沢選手」
「たしかに」
「その上、今やキレッキレの翔太に、日本の至宝、武窪一英。さらにはロンドンオリンピック日本代表のスピードスターの長井選手。スカッドだけ見たら我が軍だって決して劣ってない」と拳を握り締め司。
「……なんか、バランス悪かねーか?ウチ」と俺。
「たしかに!!」と司。
「ってか、上久保さんはともかく、ペーターも翔太も一英も守備ダメダメ星人だよな」
「たしかに!!」と司。
「なんか、サカつくなんかの『ぼくのかんがえたさいきょーのちーむ♪』って感じがしないでもないんだけれど」
「……たしかに」
「大丈夫なんすか、うちのちーむ」
「……た、たしかに」
「…………」
「…………」
「じゃっ、控え選手の分析はじめんぞ」
「……うぃ」
「まずは俺達の偉大なパイセン。元祖中学生Jリーガーの森元さん」
「マジすかー、控えが元日本代表かよー!!」
そんな感じで、SC東京青赤寮の夜は更けていった。
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