第510話 J1開幕!! その1

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 ♪ な~るせ~ しんじ~ シャララ~ シャラララ~ラ~ ♪


 ♪ な~るせ~ しんじ~ シャララ~ シャラララ~ラ~ ♪

                                


「一英(かずふさ)リターン!!」


 だが、俺の声はゴール裏のサポーターの声にかき消されてか、背番号15を付けた日本の至宝(ジュエル)は、横浜の誇る二人の水兵に向かって突っ込んで行った。


 小刻みなステップでボールとダンスをするかように単騎突入する十六歳。


 どうやら、恐れ知らずのルーキーは山下君達をまとめて抜き去るつもりだ。


 しかし、それを読んでか、和馬(かずま)君が一英の進路に体を入れて塞ぐと、絶妙のタイミングでスライディングをし足元からボールを刈り取る翔馬君。


 相変わらず二人の息はぴったりだ。


 派手にすっこけた一英は両手を広げて審判にファールを訴えるが、審判は首を振ってノーファールのゼスチャー。


 それを見た一英は芝生を叩いて悔しがる。


 その途端、BOOOOOO!とスタジアム全体から一斉にブーイング。


 すると、ゴール裏から、


 ♪ かずふさ~ かずふさ~ かずふさ~ かずふさ~ ♪


 ♪ かずふさ~ かずふさ~ かずふさっ かっずっふっさ~ ♪



 無謀とも言えるチャレンジに対し賞賛のチャントを送るサポーターのみなさん。


 昨年、引退したチームのレジェンド、平川選手から受け継ぐ形でチャントを引き継いだバルサの遺伝子を持つフットボーラーはキングアマラオスタジアムのピッチの上で躍動する。


 2017年3月17日、Jリーグカップ第1節 SC東京vs横浜F・マリナーズは後半47分を回って2-2の同点だった。



 今日は、今シーズンから特別指定選手としてSC東京に入団した俺と司のデビュー戦だったが、それ以上に注目を集めたのは、横浜F・マリナーズからレンタルバックで帰って来た竹窪一英(たけくぼかずふさ)のお披露目だった。


 後半開始早々から投入された一英のプレーにより、それまで0-0で拮抗していた試合が一気に動き出す。


 リーグ戦のリザーブを中心にスタメンを組んで来たマリナーズ相手に、一英は後半初っ端のプレーで得点を演出すると、そこから10分間で大きなインパクトを残す。


 だが、マリナーズベンチも黙っていない。


 すぐさま、今やマリナーズの主力となった二人の山下君を投入すると、ゲームをひっくり返しにかかる。


 そこからは、前半と打って変わって試合はオープンな殴り合いに突入すると、狸とカモメの壮絶な点の取り合いが始まった。


 そんな感じで後半もアディショナルタイムに突入し、互いに選手交代のカードを切り終わると、「きょ、今日はこの辺で勘弁したるわ」って感じになったところでまさかの一英の単騎突入。


 キレの落ちた一英があっさり山下君達にボールをかっ攫われると、マリナーズお得意のロングカウンターが炸裂した。


「ちょっと待って、ちょっと待って、翔馬くーん」


 俺は叫び声を上げながら翔馬君に体を寄せる。


 すると……「何いってんの神児君、僕、和馬だよ」と和馬君。


「あらやだ、ゴメンなさい」と謝り終わるのもつかの間、鋭い切り返しから一気にサイドチェンジする山下君。


「司、クリアー!!」


 内に絞っていた司の背後を突くようにマリナーズのサイドバックの選手がオーバーラップすると、今度は司とのバチバチのジュエルが始まる。


 流石はここら辺はリザーブが中心と言えどもJ1上位のチームだけはある。フィジカルの強さが大学生とは根本的に違う。


 司は必死に足を延ばすも、マリナーズの右サイドバックは東京のゴール前にクロスを上げる。 


 だが、司もギリギリの抵抗を見せて何とかプレーを遅らせることに成功し、東京の選手達がゴール前まで戻ってくる時間は稼いでくれた。


 ここら辺はプロとしての最低限の仕事だよな。


 さあ、マリナーズのクロスをはじき返すぞ、と待ち構えたその時だった。


 視線の片隅にちんたら歩きながら戻ってくる一英の姿が……シーット!!


 キーパーの木林さんのファインセーブが無かったら最後の最後で勝ち点を取り逃すところだった。


 おい、一英、試合が終わったら屋上行こうぜ。


 お前とはちょっと腹割って、いろいろ話したいことがあるからさ。



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