第501話 私を沖縄に連れて行って その17
https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16818093074580786909
カヌチャリゾートの坂を下りを終えると、先程までのスコールがまるで嘘のように、辺りは晴れ渡っていた。
これが南国のレースの難しさだ。峠一つ越えただけでコンディションがガラリと変わる。
既に路面はしっかりと乾ききっており、タイヤのグリップもブレーキの利きも元通りになったのを確かめると、俺達は第3スプリントポイントの久志を目指しスピードを上げていった。
一体、拓郎達と何分離されてしまったのか、2分か?それとも3分か?
ゴールまで残り20キロを切っている今の状況、5分だったらゲームオーバーだ。
中岡さんと拓郎を追いかける俺達セカンドグループは、MJKの石巻さん、新浜さん、高畑さんと俺と司、そして去年、おととしのツール・ド・おきなわで二位となった井ノ上という構成になった。
エターナルセカンドを返上すべく、今年の下馬評では中岡さんとの一騎打ちと目されていたが井ノ上さんは、ここに来て、俺達と共同戦線を張ることに合意した。
これによりレースは、中岡さんVS明和勢5+1人という構図となる。
本日何度目かの海岸線に出た俺達に強い潮風が襲ってくる。
すかさず先頭を交代しながら俺達は二人を追いかける。
スプリントポイントの久志を過ぎたところで、サポートバイクから、先頭のタイム差が2分10秒だと教えられた。
残り15キロで2分10秒……ギリギリだな。
明和の司令塔の新浜さんがそうつぶやく。
「鳴瀬さん、北里さん、ちょっときついけれど、しっかりと付いてきてくださいね」
MJKの副キャプテンはそう言うと、一層体を屈めてスパートをかけた。
目の前にはツール・ド・おきなわ最後の関門、羽地ダムの登りが待ち構えている。
一定勾配が延々と続く中、俺達はギアをアウターに掛け、羽地ダムに続く登りをダンシングしながら駆け上がる。
11月にもかかわらず、真夏のような直射日光が俺達を容赦なく射貫き、汗が一気に噴き出してきた。
王者はどこだ!?
……五時間前、
https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16818093074580805866
「ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンドコ ジャーン!
ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンドコ ジャーン!」
スタートの『名護21世紀の森体育館』から、名護桜太鼓の勇壮な演奏に見送られて俺達はゆっくりと走り出す。
『ツール・ド・おきなわ2016 市民ロードレース210km』、参加人数400名弱、ホビーレーサーの甲子園とも言われる、国内最大級のレースが開幕した。
そもそも『ツール・ド・おきなわ』とは、1989年から、毎年11月の第二土曜から日曜に掛けて、沖縄県名護市を中心に沖縄本島北部地域で二日間に渡り開催されている自転車ロードレースを含む大規模なサイクルイベントなのだ。
観光地である沖縄の特性を生かして、純粋なレースだけでなく、二日間をかけて沖縄本島を1周する全行程336kmの『本島一周サイクリング』や、子供たちによる『一輪車大会』に『三輪車大会』などのさまざまなイベントを組み合わせて開催されている。
また、レース部門においては、最上級クラスとなる、距離210kmの『チャンピオンレース』は、UCIアジアツアーに組みこまれており、アジアツアーでのレースグレードは1.2(2級カテゴリーのワンデーレース)となっている。
他にも、女子国際レース100kmとジュニア国際レース140kmが、そして市民レース部門として210kmを筆頭に140km、100km、50km、40km、10kmの各レースが開催される。
近年ではその市民レースにおいてもオープンクラスの他に40歳以上の選手が対象となる『マスタークラス』や50歳以上の『オーバー50』、60歳以上の『オーバー60』、女子選手を対象とした『レディースクラス』など年性別や齢別のクラス分けで細かくカテゴライズされており、国内外からおよそ5000人に及ぶサイクリスト達が毎年この地を訪れる。
なかでも俺達が参加している市民レース部門最長の210kmクラスは『ホビーレーサーの甲子園』と称され、全国から強豪市民レーサーが集まる非常にハイレベルなレースとして知られているのだ。(ウィキペディア参照)
日本最大、いや、アジア最大のサイクルイベントといっても過言ではない大会が、この毎年11月の第二週の週末に行われる『ツール・ド・おきなわ』なのだ。
すると……「んっ?なに一人でペチャクチャしゃべってんだ?」と司。
「いや、昨日、ネットやウィキペディアで調べた『ツール・ド・おきなわ』に関する情報を口に出して確認してたんだよ」と俺。
「なにやってんだか……って、おい、そろそろ『リアルスタート』だぞ」と司。
ちなみに、『リアルスタート』とは、400人を超える参加者のロードレースでスタートと同時に全力で走ったら、最前列と最後尾でものすごく不公平になってしまうし、そもそも、そんなことをしたら、あちらこちらで事故や落車が発生してレースにならないので、スタート直後、『パレードスタート』と言って、追い越し禁止でゆっくり走り、ある程度安全が確保出来てからスタートする、ロードバイクやカーレースなどで行われるスタート方法だよ。
ツール・ド・おきなわでは『名護21世紀の森体育館』でのスタートは『パレードスタート』となり、そこから2キロ程走ったところで、オフィシャルカーが旗を振って『リアルスタート』となるのだ。
「おい、神児!!」と司。
すると、先導するオフィシャルカーが旗を振った。
『ツール・ド・おきなわ2016 市民ロードレース210km』がいよいよスタートした。
『リアルスタート』とほぼ同時に抜け出したのは、おニューの『SPECIALIZED S-Works Venge』を駆る『八王子の鯱』ことゼッケン238番の森下拓郎。
「一発目のSP(スプリントポイント)は僕が頂いちゃうのねー」と叫ぶなり、巨体を左右に振りながらもがき始めた。
その途端、拓郎の周囲からさっさと離れるMJKの皆さん。
ドルフィンキックならぬオルカスプリントで周囲を威嚇する拓郎。
「いやー、あの子のフルスプリント、競り合いで接触したら一発でぶっ飛ばされちゃうんだよなー」と石巻さん。
「君子危うきに近寄らずですね。ゴールはまだ200キロ以上先ですから」と新浜さん。
「あの子、他のレースでも一緒に走ってくれないかなー、いい仕事すると思うんだよねー」と物欲しそうな目で拓郎を見る高畑さん。
きっとすき家でキング牛丼でもおごったら、喜んで風よけでもアシストでもやりますよアイツ。
サッカーで芽が出なかったら競輪選手になるのもアリじゃねーか?拓郎。
そんなことを思っているうちに、八王子の鯱は俺達の視界から消えていった。
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