第493話 私を沖縄に連れて行って その9

「そーれ!!」


 高畑さんはそう掛け声をかけると、ギアをアウターに掛けてアタックを掛ける。


 ギュンギュンとスピードを上げていきトップ集団から抜け出した。


 それに釣られるように何名かの選手が高畑さんの後ろについていく。


 二回目のKOM(King Of Mountain = 山岳賞)を取りに行くのか?


 そしてその中には、ツール・ド・おきなわの絶対王者、過去三度の優勝経験を持つ、現在ツール・ド・おきなわ二連覇中の日本最強アマチュアサイクリストの中岡貴広選手もいる。


 ってか中岡選手、こっち(市民210km)じゃなくて、あっち(国際ロードレースの男子チャンピオンクラス)に出た方がいいんじゃないですか?


 山岳賞争いはとりあえず高畑さんに任せて俺達は目視できる距離でその様子を伺っている。もっとも、もしそのまま逃げるようなことになれば、すぐさま追いかけるつもりだ。


 だが、先行した選手達は山岳賞ポイントを通過した後、再びトップ集団に戻って来た。どうやらここではまだ勝負をかけないらしい。


 すると……「どうだった、高畑?」と山岳賞が取れたのかどうかを石巻さんが聞いて来た。


 苦笑を浮かべながら首を振る高畑さん。


 そして……「中岡さん、山岳賞は絶対に渡してくれないみたいです」と。


 一度目に続き二度目の山岳賞も手にしたミスターツール・ド・おきなわ。


 どうやら俺達はとんでもない化け物と戦わなければならないらしい。


 集団は与那林道の下りに入る。




 …………再び十日前、


 俺達は夕食の後片付けを済ませると恒例のアイスタイムが始まる。


 というのも、ここ沖縄のコンビニには東京では見られない沖縄限定のアイスがたくさんあるのだ。


 それに気づいた俺達は沖縄にいる間中にとりあえず全部食べてやろうと日夜コンビニを巡りまだ見ぬアイスを買い続けている。


「ところで司、今日はアンタ何食べる?」と遥さん。


「ああ、俺は『それいけ!アンパンマン アイスバー』だ」と司。


「あんた、いつもそれじゃない?」とあきれた様子の遥。


「いいんだよ、俺はこれが好きなんだから」と司。


 どうやらアイスに関しては保守的なのか、31(サーティーワン)の時と同じで、一度気に入るとそれしか食べない。


 だが、この『それいけ!アンパンマン アイスバー』、外側がさっぱりめのミルクキャンディーにコーティングされ、その中にはチョコソースが入っている。まるでチョココロネのようなアイスキャンディー。


 1990年に発売されて以来、長きにわたり沖縄県民に愛され続けているアイスなのだ。まぁ、美味しいよねそれ、俺もそれにしようかな……


「じゃあ、お前はなんなんだよ遥?」と司。


「私は今日は『それいけ!アンパンマン ドキンちゃんアイスバー』よ」と遥様。


「今日はじゃなくて、今日もだろ」と司。


 そうなのです。遥様はこのいちごミルク味のミルクキャンディーに練乳ソースが入っている沖縄限定のアイスをいたくお気に召しているのです。


 しまいには「なんでこのアイス、沖縄にしか売ってないのよ、メ〇ジにクレームでも入れてやろうかしら」とプンプンです。


 おい、遥、怒るか食べるかどっちかにしろよ。


 すると……「僕はスーパーカップの『スーパーカップの超バニラ(沖縄限定版)』なのねー」と拓郎。


 うーん、俺もそれ食べてみたんだけれど、普通のとどう違うんだい?


「じゃあ私は『シークァーサー』」とまさに沖縄限定そのものといった感じのシークァーサーのアイスキャンディーを選んだ弥生。商品名もそのまんま『シークァーサー』なんですよ。うーん、酸っぱすぎでこめかみがチクチクしてきそうだー。


 そして弥生は一口食べると……「うーん、これって焼酎のソーダ割に入れたら合いそうだなー」と独り言。……おいっ!!


「じゃあ、私はこの『沖縄県産 黒糖バニラアイス』にしようかな」とおじさん。


 あーそれも美味しそうですねー。チョコマーブルみたいに黒糖が入ってるんですよねー。


「神児君は何にするの?」と口をキューっとすぼめ酸っぱそうに弥生。


「うーん、俺はこの『ヤンバルクイナ(チョコブレンド味)』にしようかな」


 (チョーおいしーさぁー!)と書いてあるのだから美味しいに決まってるはずだ。


 うん、チョコの味がしてとっても美味しい。ところで(チョコブレンド味)と書いてあるのだが、一体チョコに何をブレンドしているんだい?


 そんなことを思いつつも、皆、一心不乱にアイスを食べている。こういうのを幸福のひと時とでも言うのだろう。


 食後のルーティンのアイスタイムもひと段落してのんびりくつろぎ始めたその時、「なぁ、神児君、司、ちょっといいかな?」と言っておじさんが何やら荷物を持ってきた。


 んっ、なんですか?アイスのおかわりなら喜んで。


 だが、おじさんが大事そうに持ってきた、大仰そうに梱包された段ボール箱を見てどうやら絶対アイスではないと悟った俺達。


 そしてなぜだか司は険しい顔して眉間に皺を寄せている。


 さて、ここで問題です。一体なぜ司はそんな顔をしているのでしょうか?




 正解は……おじさんが大事そうに持ってきた段ボールに『Canpagnolo(カンパニョーロ)』と書かれているからでーっす!!


 なになに、おじさん、今度は一体何買っちゃったの?

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