第454話 トゥーロン国際 イングランド戦 その後
「うわっ、えっぐいアザやで」と優斗。
「うわー、神児君、痛そうなのねー」と拓郎。
「ほほーう、ちゃんと、ボールの縫い目までしっかりと残ってるんだなー」と感心したように司。
俺達は今、何をしているかと言うと、ホテルのジャグジーに入りながら、グーリッシュにぶつけられた俺の太もものアザをみんなで見ている所だ。
試合が終わると、ホテルに戻って、屋上に併設されているプールのジャグジーに入り試合の疲れを取っている。
試合は、司のゴールが入った直後、試合終了。
日本対イングランドの試合は2-2の引き分けで終わった。
結局俺達は、このトゥーロン国際選手権 2016 を1勝2敗1分けでグリープリーグを後にすることになったのだ。
何位なのかは、今、別の会場でやっているギニアvsパラグアイの試合結果によって変わるのだが、決勝にも3位決定戦にも進出できないのが既に決まっているので、正直、もう興味がない。
今日はこの後、飯を食って簡単なミーティングをして終わり。
そして明日の午前中にリカバリーと今大会の総括をして、午後はトゥーロンの観光。明後日の朝、午前中の便で日本に帰るのだ。
さようなら、おフランス。ありがとう、おフランス。
プロバンスの青い空を僕たちはずーっとずーっと忘れないよ。
そうそう、こんな機会はなかなか無いので、出来たらパリ、それが無理ならミラノかトリノ、それでも遠いってんなら、ニースかマルセイユあたりに寄ってくれても全然いいんですけど……あっ、追加のチャージが必要なら3万までなら大丈夫です。はい。
そんなことを考えながら俺達は南フランスの夜空の下、ホテルの屋上にあるインフィニティープールに入りながら、トゥーロンの街の夜景を楽しんでいる。
うーん、ちょっとセレブな感じ?
昨年末の俺のツイッターが炎上してしばらくの間、SNSを自粛してたのだけど、ここ最近、アカウントを作り直して再び投稿を始めたのだ。
今度はツイッターとインスタの二刀流。
ちょっと、しゃれおつな感じの写真でも1枚、あげちゃおっかな?
そんなことを考えていたら、「はぁー」っと司のため息が聞こえてきた。
「どうしたんだ、司?」
「いや、結局、3バックのこれっていう適役も見つけられなかったし、新しいオプションもいまいちだった。それに今大会の目標もクリアできず。三決にすら進めなかった」と司。
「まあ、ケガ人がたくさん出ちまったからなー。オリンピック本戦に向けてこれくらいの方がいいんじゃねーの」と俺。
すると、司はまた「はぁー」とため息をつくと、「ったく、お前くらいの楽天家の方が物事がうまく進んだりすんのかねー」としみじみ言った。
えっ、それって、褒めてんだよね。
そうして、俺達は食堂にやってくる。
実は予定では明日のディナーはトゥーロンの町中にあるレストランで食べることになっている。
そういう訳で、今日の夕食がこの遠征での西野さんの最後のディナーってことになるのだ。(まあ、朝食には簡単な食事は出してはもらえるのだが……)
そして、食堂に入るなり「うわーっ」とみんなが声を上げる。
一応、日本代表の食事のルーティーンとしては試合の前日はウナギで、試合が終わった後はカレーって言うのがお約束になっている。
それと言うのも、選手によっては試合後にクラブや知り合いに連絡を入れたりする人が多いので、簡単に食べれる食事が重宝されているからなのだ。
というわけで、今日のメインはカレー。
ただし、カレーの中身はそのたびに替わっており、今日のカレーはなんとトゥーロンの港で取れた海の幸をふんだんに使ったシーフードカレー。
あちこちに顔を出しているオマールちゃんやムール貝なんかが食欲を刺激しまくりです。
おいっ、拓郎、おまえ、ちゃんと後の人の事考えて取れよな!!
手師森監督の「それでは、今回の遠征、これまで一緒に戦ってくれた西野さんに感謝を捧げて、いただきまーす」との挨拶で食事の幕が切って落とされた。
「いやー、カレーにサフランライスって、こんな贅沢しちゃっていいんですかねー」と小島さん。
「あっ、白いご飯がいいのなら、ちゃんと用意してますからね」と何から何まで準備万端の西野さん。
「これアンチョビが癖になって美味しいんだよなー」とピサラディエールを食べる司。
このピサラディエールという料理は、ピザ生地の上にアンチョビ、炒めた玉ねぎ、黒オリーブが乗っかったもので、アンチョビの塩気としっかり炒めた玉ねぎの甘さがマッチして最高に美味しいのだ!
これ、日本に帰ったら弥生に作ってもらおーっと。
さらに定番のアボカドと納豆の巻きずしに西野さん特製の唐揚げにローストビーフ。
アスリートにはタンパク質も大切だからね。
ああ、これからも、ずーっと、ずーっとご飯作ってくれればいいのに……よかったら、明和の学食のコック長とか興味ないですか?
すると、厨房の中から西野さんがやって来て、「じゃあ、皆さんには茹でたてのパスタを食べてもらいますね」とお得意の料理の一部を直前に仕上げて提供する「ライブクッキング」のスタイルでペスカトーレ作ってくれました。
うわーい、僕、ペスカトーレだーい好き。
「僕も」、「俺も」、「ワイも」、「あちきもー」とあっという間に西野さんの前には行列ができる。
茹でたてのツルツルシコシコのパスタに、取れたての海の幸がいーっぱい。
エビにイカにホタテにムール貝、ついでにこれは……えーっと、カサゴかな?
とにかく昨日のブイヤベースでお見かけした魚介の幸がてんこ盛り。
こりゃ、胃袋がいくらあっても足りませんわ。
すると、なんという事でしょう。列を並んでいる俺の前に、八王子の鯱が……今回の遠征での拓郎の非情な行いの全てが俺の脳裏を過る。(ビキビキビキビキ)
てめー、この野郎、俺と同じような太もものアザ作ってやろうかななんて思っていたら、
「森下君だっけ、ちょっといいかな」と西野シェフ直々のご指名。
おや、なんか、説教でもしてくれるのかな。(ゲラゲラ ザマー)
すると、スタッフの方に何か指示を出すと、厨房の中から、例のトレイに乗った大盛のペスカトーレが運ばれてきた。
そして、「この前はごめんね、拓郎君。お腹いっぱいに食べさせてあげられなくて。僕たちの仕事は選手の君たちに満足できるように食事を提供することが第一なのに」と頭を下げる始末。
いやいやいやいや、何言ってんですか、西野さん。
そんなことやったら、この馬鹿また調子に乗るじゃないですが。
すると、拓郎も「そんなことないのね。西野さんのご飯、とってもとっても美味しくって、ついつい僕、食べ過ぎちゃったのね。僕たちの為にいつもご飯作ってくれてありがとうなのね」と西野さんの手を握り、感動のフィナーレを迎える。
……ッチ!
「もしよかったら、これ、拓郎君にお腹いっぱい食べてもらおうと、作っておいたんだ。さあ、たーんと召し上がれ」と言ってそのトレイに乗っかった大盛のペスカトーレを拓郎の目の前に置く。
「これ、全部食べていいの?」と拓郎。
「もちろんだよ」と西野シェフ。
そうして、八王子のバキュームカー……もとい、拓郎は、西野シェフの作った地中海の海の幸が満載に入ったペスカトーレに舌鼓を打つ。
https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330669047718532
だから、そういうことすると癖になるから止めた方がいいですよ、西野さん。
そんな感じでトゥーロンの夜は更けていった。
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