第445話 トゥーロン国際 イングランド戦 前半 その3

 すると、今日何度目か分からないイングランドのコーナーキック。


 俺は上司に言われた通り、グーリッシュのマークに付くとついでにユニフォームの端をしっかりと握る。


 グーリッシュはニッコリ笑って振り返ると「そういえば、昨日の彼女、今日来てるの?」と。


「知らん!」と俺。


「いい彼女だねー、わざわざ日本から応援に来てるんでしょ。遠いでしょう。日本からフランスって」とまるで世間話をするように話しかけて来るグーリッシュ。


 このコミュニケーションお化けが!!


「Au fait, comprenez-vous le français ?(ところで、フランス語はわかりますか?)」といきなりフランス語でグーリッシュ。


「Bien sûr, et alors ?(もちろんですけど、それが何か!?)」


 すると、グーリッシュは、しまったーと言う顔になり、「I've been caught seducing your girlfriend.(君のガールフレンド口説いたの、バレちゃったか)」と。


 やべえ、コイツ、ぶん殴っちゃいそうだ。


 俺は前の世界で習ったアンガーマネジメントの講習を思い出し、6秒間しっかりと歯を食いしばって我慢してから「If you talk during the game, I'll bite your tongue off.(試合中におしゃべりすると、舌を噛み切ってしまいますよ)」と優しく注意をした。


 途端に顔を引きつらせるグーリッシュ。


 とりあえず、その履いてるか履いてないんだか分かんねーよーな短いソックスの脛、削っちゃってもいいかな。


 と、その時、プリウスの正確無比なコーナーキックが放たれた。


 小村さんの決死の飛び出しでボールをパンチングすると、弾かれたボールは司の足元に。


 俺は、司がトラップするのを確認するよりも前に、一気に右サイドを走り抜ける。


「カウンター!」


 俺が走り出してから1テンポ遅れて、円藤さんの声が聞こえた。


 大丈夫ですよ円藤さん。分かってますから。


 すると、右足のインフロントに引っ掛けた司のサイドチェンジが、右サイドのタッチラインを舐めるように飛んでくる。


 相変わらず、えっぐい精度だな。


 万が一でもこのボール収められなかったら、あとで何を言われるか分かったもんじゃない。


 俺は万全を期して、右足のインサイドで確実にトラップをしてから、空いたスペースに向かって放り込む。


 すると、チームの誰よりも早く反応したグーリッシュ。危機察知能力に関してもトップクラスだ。


 なるほど、さすが1億ユーロの価値があるだけの事はある。


 お待たせしました。じゃあ、一発、ゴリゴリのデュエル、行ってみようか!!


 タッチライン際、俺と、ジェームス グーリッシュの追いかけっこが始まった。


 すると、その直後、ガツーンと肩に衝撃が加わった。


 どういう仕組みだ?


 オフェンスの時はまるで幽霊のように実体を感じられないのにグーリッシュは、ディフェンスに回った途端、まるで岩のようなフィジカルを発揮する。


 お前まさか、悪魔の実でも食べたのかよ。


 キーパーが前に出てたから、一か八かでスカッドをぶちかまそうと思ったのだが、しっかりとコースを切られてしまい左サイドにボールを持ち出すことも出来やしない。


 かといってこんな千載一遇のチャンス。みすみすバックパスして終わらしてたまるか。


 優斗、お前、しっかり中に走り込んでいろよな!!


 俺は加速して一気に縦に抜けると、かつての盟友の虎太郎の十八番。ロシアンルーレットクロスをグラウンダーで入れる。


 丁か半、賽の目はどっちよ!!


 ボールを上げる際にゴール前を見ないことによって、それが絶妙のフェイントになるノールッククロス。


 すると、我らが盟友、稲森優斗がイングランドのDFを引き連れて、死に物狂いでゴール前に走り込んでいた。


 行っけー、優斗、トラップなんかしてる暇ねーぞ!!


 ドンピシャのタイミングでニアサイドに走り込んだ優斗は、俺の一か八かのクロスに対し、スライディングをしながらダイレクトで合わせる。


 点と点が繋がった瞬間だった。

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