第444話 トゥーロン国際 イングランド戦 前半 その2
イングランドのキックオフで試合が始まると、静かな立ち上がり……なんてことは無く、しっかりとGKのピーコックフォードにボールを戻してから、スリーライオンズは牙を剝く。
ちなみにスリーライオンズってイングランド代表の愛称ね。イングランドサッカー協会のエンブレムの「三頭の獅子」に由来するんだ。このエンブレムはイングランド王リチャード1世が第三回十字軍で使用した紋章から来てるんだってさ。歴史があるねー。勉強になったろ。そして、ユニフォームの胸のエンブレムにはイングランドの国花であるバラが施されている。
ところでバラって漢字で書ける?
イングランドはキーパーにボールを戻すと両サイドバックが広くポジションを取って、常に縦パスを狙っている。
迂闊に食いつくようものなら、あっという間にゴール前に運ばれちまうぞ。
喉元にナイフを突きつけられたような状態で、相手に対してプレスを掛けるU-23日本代表。
今さらこんなこと言うのはアレなんですけど、朝野さん、あと二日、合流を遅らせることはできなかったんですか?
すると、気配を消して、グーリッシュが日本の陣地深くにやって来た。どうやら、グーリッシュも俺が日本代表の選手だったと知っていたようだ。
にこやかに笑うその笑顔の向こうに、相手の息の根を一瞬で止める刃(やいば)が見え隠れしてるぞ。
左サイドに広く張るグーリッシュ、まさに俺の対面に位置する、ナチュラルボーン パーティーピーポー。
では、早速ですが、挨拶代わりに、ファーストコンタクト行ってみよう!!
左のCBのハーディングから鋭い縦パスが入る。
俺はその瞬間を狙って、グーリッシュの背後から一気にプレスを掛けた。が、次の瞬間、今まで感じたことの無いような感覚が俺の体を駆け巡る。
ぬるっていう音が聞こえてきそうな、グーリッシュのターン。
なんじゃい、こいつのターンは。確かに俺はこいつの背後を完璧に取ったはずなのに、一瞬で体(たい)を躱されてしまった。
こんなの初めて、神児びっくし!!
その瞬間、「おいっ!足止めてんじゃねーぞ神児!」と頼もしい上司からの雷が落ちた。
やべー、やべー、やべー、あっという間に体を入れ替えられたグーリッシュは、日本のゴール目掛けて一直線。
まだ、CBに慣れてない木田さんにデュエルを仕掛けて来る。
が、日本の3バックは、腹を決めて司もろとも一気にスライドして、あっという間にグーリッシュを囲い込むと、苦し紛れのクロスを打たせて何とかゴールキックに逃げることに成功した。
すると司が駆け足でやってくると、「おいっ、何やってんだよ、神児!」とちょっとキレ気味で声を掛けて来る。
まあ、その気持ちは分からんでもないが……こういう時は正直に答えるに限る。
「何があったか全くわからん、あいつ、なんなん?幽霊、それともウナギかなんか?」
「ハァー」とため息をつくと頭を抱える司。「事前情報があるお前でもそうなのかよ」
「ヌルッとした。体を寄せても、全く感覚がなかったわ」と目をパチクリさせながら俺。
「とりあえず、感覚慣れるまでユニフォーム掴んどけ」と司。
「でも、カードもらっちゃうよ」と俺。
「まあ、1枚くらいは目を瞑ってやる」と司。
「…………」だめだこりゃ。「ところで……」
「なんだよ」
「あの、横にいる重戦車みたいなやつはどうするの?」とロストフを指さして俺。
「知らん!!自分で考えろ!!」
つれない上司だなー。しょうがない、とりあえず、南さんと小島さんに頼んで、こっちが慣れるまで守備に頑張ってもらおうと思った。
当初の予定としては、俺と司が両サイドの高い位置に立って、相手陣内で攻撃的なプレスを掛ける予定なのだったが、理想と現実は大きく隔たり、圧倒的なイングランドの攻撃により、俺と司はDFラインに追いやられ、前半開始早々から5バックを敷き続けるU-23日本代表。
ってか、全然、こっちボールにならないんですけど、いったい今のポゼッション率ってどんぐらいなのですか?
時計を見ると、前半20分を回ったばっか。
と、その時気が付く。そういや、この試合40分ハーフなんだった。なーんだ、あと半分でハーフタイムだー。
俺はその時初めて、この大会のフォーマットに感謝をした。
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