第441話 プロフェッショナル 西野照義 お仕事の流儀 その1

 西野 照義、サッカー日本代表専属シェフ。


 2004年3月、アテネオリンピックアジア最終予選の行われたアラブ首長国連邦で、U-23日本代表のメンバーが集団食中毒に罹患し、あやうくオリンピックの出場権を取り逃す状況に陥った。


 幸いにもアテネオリンピックの出場権を得たU-23日本代表だったが、その事態を重く見た日本サッカー協会は、直後の2006 FIFAワールドカップアジア2次予選シンガポール戦より、日本代表専属シェフを帯同させることを決定する。


 そして、その白羽の矢が立ったのが、当時のJヴィレッジのレストラン総料理長、西野 照義だった。


 その後も、日本サッカー連盟は、引き続き西野に、サッカー日本代表の遠征に帯同してほしいとの依頼をすると、2006年ドイツW杯、2010年南アフリカW杯、2014年ブラジルW杯、そして2018年のロシアW杯にも、サポートメンバーとして日本代表を支え、その力を遺憾なく発揮した。


 その活躍ぶりは、2010年の南アフリカワールドカップ後、時の監督、岡武志から「シェフ一人スタッフが違っていても勝てなかった」とその貢献度を称えられた程の伝説の料理人である。


 特に西野特製カレーや激辛ペペロンチーノのファンは歴代SUMURAI BLUEの戦士の中にも数多くおり、試合前日のウナギのかば焼きは日本代表の勝利のルーティンにもなっている。


 そんな、伝説のシェフが、今回のU-23日本代表のフランス遠征に帯同してくれましたー。


 わー、どんどんぱちぱち。


 牛ヒレ肉のハンバーグ、とっても柔らかく、一口噛みしめるごとに口内に肉汁溢れたまりません。大変美味しゅうございました。


 銀鱈の西京焼き、しっかりと脂ののった銀鱈と絶妙な西京味噌の塩梅、ご飯が止まりませんでした。大変美味しゅうございました。


 そして西野シェフ特製カレー、試合後の疲れた胃腸にももたれることなく、スイスイと食べれる絶品のカレー。きっと良質の油を使って、アクをしっかり取り除き手間暇かけ、作ってくれたのでしょう。大変美味しゅうございました。


 そんな愛情のこもった西野シェフの料理を……拓郎、テメー、また後先考えずに全部食っちまいやがって、コノヤローぶっ○すぞ、あ”あ”ん!!!


 悲劇は24時間ほど前に遡ります。


 ギニア戦を勝利で納め、ようやく初勝利を手に入れた我がU-23日本代表。


 きっと、選手達の心にも、一時の安堵感が訪れたのでしょう。そんな僅かな心の隙を突くかのように、八王子生まれ浅川育ち食いしん坊は大体友達の鯱は、みんながわいわい団欒を楽しんでいるのを尻目に、残りのカレー全部喰っちまいやんの。


 てめー、ふざけんなよ。


 そりゃ、みんな、最初の1杯は食べれたけれど、お替りしようと思ったら、食缶がすっからかんじゃねーか。


 おまえさ、いつになったら、『遠慮』って言葉を学んでくれるのかなー。


 確かもう成人だよな。言っとくけど、もう少年法適用されねーからな。覚えとけこの野郎。


 みんなにいっぱい食べてもらおうと一生懸命に作ったカレーを、フリードリンクでも飲むように、味わうことなくグビグビクビクビ飲みやがって!こん畜生め。まさにその所業。ゲスの極み!!(鯱だけにね!!)


 おまえ、西野さんのあのしょんぼりとした顔見たのかよ。どうすんだよ、オリンピックに帯同してくれなくなっちゃったらよ、どう責任取るんだよ、ああん!!


 まあ、そもそも、俺達もうっかりしていたんですよ。


 拓郎が代表に入ってから、ドイツ遠征、オリンピックアジア最終予選と、今回のような全てがビュッフェ形式じゃなく、メインなんかは一皿一皿出されてたのですよ。


 そして、今回、西野さんのお料理は全て、フル代表と同じビュッフェ形式。


 浮かれるのが先に来て、俺達はそのリスクを考えてなかったのである。


 ってかよ、かば焼きってとりあえず、一人一匹なんですよ。


 選手のみんなは食べれたけれど、おまえ、監督やコーチの分のかば焼きまで喰っちまいやがって、代表呼ばれなくなってもしらねーぞ、いや、マジで。


 ほんと前代未聞だよ。仲間の蒲焼喰った背信行為により代表追放とか、お前らしくてとってもいいと思うぞ。


 監督は笑って許してくれてたけれど、人によっては刃傷沙汰になってもおかしくないことやってんだからな、二度目はねーぞ。覚悟しろよな!!


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330668820806539

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