第440話 トゥーロン国際 対イングランド戦前日 その2

「まぁ、移籍金なんぞ、当たるも八卦当たらぬも八卦じゃねーかよ、翔太がいい例じゃん、今からビビっててもしょうがねーぞ」と司。



「まあ、そうだな、50億円の値が付いたけど、全く働かなかった選手、身近に知ってるし」と司の言葉を受けて、幾分冷静さを取り戻すと吐き気も収まって来た。(せっかくの弥生と食べたマカロン、こんなところで戻してはもったいない)


「だから、僕、関係無いよね!!」


 また、どこかから、翔太の声が聞こえたような気がした……




「んで、明日のこっちのフォーメーションはどんな感じよ?」


「まあ、いまんところ、こんな感じかな」


 司がそう言って、明日の予定フォーメーション表を出してきた。


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330668811236562


「うーん……」


 俺はそう言うと言葉に詰まる。


「んっ?どうした、神児」と、司。


「キッツいなー」と正直に俺。


「まあ、確かに」


 それと言うのも、3バックは、まあ、良しとするが、いかんせん、右のCBが……


「まあ、それはしゃーない」と司。


「そもそも、木田さん、CBやったことあんの?」と俺。


「ジュニアユースの頃やったと言ってる」


「ジュニアユースって……」


 そうなのである。ただでさえ、層の薄かったCBが、先日の岩山さんの怪我でついに枚数が足りなくなってしまったのである。4バックだったら上田さんと拓郎がいるからどうにかなるんだけれどねー。


「ってか、このメンツで3バックやる意味あんの?」と俺。


「瓢箪から駒、もしかして、木田さんがフィットするかもしんねーじゃん。あの人、サッカーIQ高いんだから」


「高いって言っても、いきなり、イングランド相手にやらせるってのも相当無理あるだろ。いっそのこと、俺がそこに入るか?」と俺。


「それじゃあ、意味がないんだよ。俺とお前がWB(ウイングバック)に入って高い位置からディフェンスするってのが、今回のテーマなんだからさ」と苦しそうに司。


 あっちを立てればこっちがたたずか、くー……苦しい。


 どっかに、でっかくて、強くて、3バックの経験があるCB落っこちてねーかなー。


「ちなみに、拓郎をこっちのCBに回してくれるなんてこと……ないかな?」


「ねーな」と一刀両断の司。


「ですよねー」


「そもそも、俺の方が上がり目の位置に入るんだから、それをフォローするCBが居ないと話にならないだろ」


「ですよねー」


 そうなのです。偽サイドバックとして敵陣深く入ることがある司の背後をしっかりと守ることのできるCBがいることがこのフォーメーションの大前提となるのです。


 そして、それが出来るのが、拓郎以外に適役が居ないのだ。


 そもそも、偽サイドバックなんていうシステムを使うチームが、現時点で国内ではうち(明和)以外まだいないのだからしょうがない……まあ、うちの大輔もそういうのは得意なのだが、いかんせん、基本的な能力自体が日本代表には遠く及ばないからしゃーない。


 いくら、ポジショニングが良くったって、1対1でぶち抜かれてしまっては意味が無いのだ。


 そうですよね。ハリーさん、西島監督。



 すると、「どした、どしたー」と優斗。


「何かお土産あるのー?」と拓郎。


 プールから戻って来た明和組。すっかりこの二人も、水泳でリカバリーすることが習慣となっている。


「おい、これが、イングランドの予想フォーメーションと、選手のレポート」


 そう言って、拓郎と優斗にも司の作った分析シートを渡す。(もちろん、前の世界の出来事は修正済みの奴だよ)


「はへー、監督室で籠って何やってるかと思ったら、ごくろうなこっちゃ」と優斗。


「ってか、現イングランドの代表が普通にいるのね」と涙目の拓郎。


「そりゃ、そうだろ。うちだって昨日までいた朝野さん、フル代表になったんだから」


「まあ、そうは言うても、えっぐい、スカッドやで」と司から渡されたプリントをひらひらさせて優斗。


(ちなみに最近よく聞く言葉でチームの出場選手全体を指す言葉で『スカッド』という言葉があるけど、こっちのスペルは「squad」で、班とか小隊とかいう意味があるんだ。一方、俺のシュートの『スカッド』のスペルは「scud」。ちぎれ雲っていう意味で、ミサイルのコードネームから来たのです。)


「ってか、妙に代表の吉本さんと同じチームの選手いないー?」と拓郎。


「「「確かに!!」」」


「ちな、明日のうちのフォーメーションは?」と優斗。


「おらよ」と明日のうちのフォーメーション表を渡す司。


「おお、やった!スタメンやん!」と優斗。


「他の人には見せんなよ」と司。


「もちろんやで」と優斗。


「というか、木田さんがCBなのー?」と困った様子の拓郎。


 まあ、午前中の練習ではDFラインに木田さんが入ってラインの上げ下げしてたのだから、ある程度の覚悟はしてたのだろう。


「うーん、神児君か司君がCBに入る事って……」


「ないな」と司、「ねーぞ」と俺。


「分かった、頑張るのね」と拓郎。


「ところで、今日の夕ご飯はなんなの?」と拓郎。


「西野さんお手製のブイヤベースやって、うははは、めっちゃ楽しみやでー」と優斗。


 ほほーう、それはちょっと楽しみですなー。

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