第436話 トゥーロン国際選手権 その6

「Hallo(こんにちは)」と俺。


「Lange nicht gesehen(お久しぶりです)」と司。


 いきなりの挨拶に目をパチクリさせるクラップさん。今の状況をよく理解できてないみたいだ。


 すると、今さっきまでの激おこぷんぷん丸だった顔があっという間にニッコニコになる。


 そして、「Hey, Tsukasa, Shinji, wie geht es dir?(はい、司、神児、元気だった?)


 Ich hatte große Angst, weil ich dachte, ich wäre verletzt worden.(てっきり怪我したかと思って心配してました)」と。


 では、ここから二か国語放送になります。


「すいません、ご心配おかけして。ところで、リバプールの監督就任おめでとうございます」と卒のない司。


「シーズン途中からの監督就任で大変でしたね」と俺。


「いや、君たちこそ、順調にキャリアを歩んでいて何よりだ。日本最古のトーナメントで、プロチームに交じってアマチュアの君たちがベスト4に進んだことはこちらの方でもちょっとしたトピックになっていたぞ」とクラップ監督。


 うーん、リップサービスではないと信じたい。


「ありがとうございます」と司。


「そう言って下さって何よりです」と俺。


「ところで、司、今日の試合に出ないのは何か理由があってのことかい?神児も後半出てないし」とクラップ監督。


 すると、司はニッコリとほほ笑んで、反対側のベンチにいる、おそらく他のチームのスタッフを指さした。


「なるほど。もしかしたら、僕たちの責任でもあるかもしれなんだね」と申し訳なさそうにクラップさん。


 まあ、そんなに気にしていただく程の事でもないんですけれどね。こういうのってお互い様ですし。


 ピッチの方に目を向けると、相変わらず日本がボールを保持しているのだがなかなか得点には結びつかない。


「ところで、司、右サイドにいるあの選手、なかなかいい動きしているけれど、あれは誰だい?」


「今、ボールを持ってドリブルしたのは南選手ですね。去年からオーストリアのザルツブルグでプレーしてますよ」


「なかなかインテリジェンスの高いプレーをするね。守備もさぼらない。好きなタイプだよ」とクラップさん。


 おやおや、クラップさん。偵察以外にスカウトも兼ねてらっしゃるのですか?


 すると、「ところで、司、今、ボールを刈り取った選手は誰だい?」と、再び質問のクラップ監督。


「今、相手からボールを奪った選手は円藤選手です。埼玉レッドデビルズでプレーしているボランチの選手でデュエルが大変得意な選手ですよ」と司。


「なかなかいいガッツの持ち主だね。ああいう気持ちを前面に押し出す選手は僕は好きだよ」とクラップさん。


 おやおや、なかなかお目が高い。


 選手を見る目も一級品ですね、クラップさん。


 すると、「あの、クラップさん、ここだけの話なのですが、ちょっといいですか?」と声を潜めて司。


「んっ、なんだい司?」



 ……二日後、


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330668578311998

 

トゥーロン国際選手権 2016 グループB第3節 日本対ギニアは2-1で日本の勝利となった。


「と……とりあえずは、全敗は免れたな」と疲労困憊の上田さん。


「危なかった……後半、完璧に足が止まっちまったぜ」と原山さん。


「どうにか、点は取れたな」とげっそりした顔の南さん。


 俺と司は「お疲れ様です、皆さん」と言ってみんなにタオルやポカリを配りまくる。


 えっ、「なんでお前らがサポートしてるんだ」と、疑問をお持ちのご貴兄?


 はい、今日の試合も、俺と司はベンチを温めておりました。


「えっ、ついにメンバーから外されたのか?」ですって?


 いえいえ、違います。ちょっと、昨日頑張りすぎてしまっただけです。


「昨日って、トゥーロン国際は無かったはずだろ」


 いえいえ、ポルトガル戦の非公式非公開の練習試合の方ですよ。


 もともとは、連戦の疲れもあるので、45分の一本というお約束だったのですが、初戦を日本が2-0と快勝してしまうと、ポルトガルさんが泣きの一本を頼み込まれて、0-1で落としてしまうと、ならばどっちが強いか白黒はっきりさせようじゃないかという事で、45分三本勝負となってしまったのです。チャンチャン。


 大会中に一体何をやっているのでしょうか。


 しかし、ポルトガルさんが用意してくれたトゥーロンの近くにあるSCポルトのキャンプ地のサッカー場は、どう見てもトゥーロン国際で使っているピッチよりも数段芝の具合もよく、そして設備もリッチ。


 その上、非公開のはずが、なぜだか日本代表のスタッフジャージを着たクラップさんがピッチ際で見守るという訳の分からん状況。


 まあ、クライマーさんのコネでむりくり監督に頼み込んだんですが……せっかく、こちらまで足を運んでいただけたことですし、クラップさんと日本のサッカー選手ってご縁があるじゃないですか。


 いちおう、今のうちに恩を着せておこうという上司の発案です。


 すると、ポルトガルの選手も、間近でプレミア名門の監督が見守る中の練習試合とあって、明らかに昨日の試合に比べてヒートアップする始末。


 するとなんという事でしょう、CBの岩山さんが相手選手と接触して負傷してしまったのです。しかもそのまま、病院に直行。今朝の話ではそのまま日本にお帰りになられるという事です。


 大事にならなければいいのですが、岩山さーん、カンバーック!!、久しぶりの自由時間の将棋、まだ決着が付いてませんよー。


 どうにか、大事に至らなければいいのですが、オリンピック本番までには復帰できることをお祈りしています。


 そんな感じで、負傷者を出してしまったとあって、昨日の練習試合は三本目は途中で終わり。


 結局、ポルトガル代表とは、トゥーロンの本戦が0-1で負けて、練習試合の一本目が2-0で二本目が0-1。


 トータルで2-2の引き分けってことで勘弁してやるんだからねプンプン!!


 その上、なんという事でしょう、昨日の練習試合で2-0の勝利の立役者のガオー朝野選手が、SAMURAIブルーにご選出されて名誉の栄転で帰国することとなりました。おめでとうございます。代表のハリー監督に、「U-23代表に活きのいい右と左のサイドバックがいるよ」とお伝えくだされば幸いです。ガオー。


 そんな感じで、昨日の試合、懸念だった3バック(5バック)がいまいちフィットしなかったU-23日本代表。


 4バックの時はそれなりにうまく行ったのですが、やはり、もう一枚上のレベルを目指すとなると、DFラインの可変システムは必要不可欠になってくるのですよ。


 失点のシーンも5バックにすれば選手をフリーにすることなく対処できたと思うのですが……実際、クラブで3バックをやっているCBがいないってのも頭痛の種なのですね。


 手師森監督はともかくとして、その横で手師森監督と同じように頭を抱えている司を見ると、いろいろ大変だなーと思う今日この頃。さて、明日のオフは弥生とデートだ、やったー!!

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