第187話 フットボーラー補完計画Ⅴ その3
「優斗ー、戻れー!!」
「ちょっと、待ってやー」
「拓郎、もっと絞るー」
「えー、もっとですかー」
「武ちゃん、もっと強くあたって」
「やってるよー」
「涼、プレース!!」
「してるってばー!!」
「順平、飛び出せー」
「おらー!!」
「ナイスクリア―」
多摩っ子ランド天然芝サッカー場で竹原さんの怒鳴り声が響き渡る。
えっ?なぜに多摩っ子ランドに八西中の選手がいるのかだって?
実は先日、うちの中学にビクトリーズから練習試合の申し込みがあったのだ。
いうても、今年度の都大会の準優勝、関東大会では第七代表を手にしたチームですもん。そのくらいの強豪チームからのお誘いはありますわな。
「ナイスクリア―」俺も思わず順平のファインセーブに声を上げる。
「おいおい、神児、お前どっちの味方だよ」と健斗。
5日前、俺の家でみんなでカレーを食べた日、司から報告があった。
東京ビクトリーズジュニアユースから我が八王子西中学校に練習試合の申し込みがあったことを。
既に顧問の関沢先生に了承を取っていた司はみんなに今度の土曜日に多摩っ子ランドで練習試合をすることを報告したのだ。
実は先日大下監督から内々に司経由で連絡があったらしい。
「お前んとこの中学、全国大会に行ったんだってな。ちょっとうちと練習試合やらないか?」と。
ふと、何故、俺には事前に連絡が無かったのかが引っかかるのだが……
というわけで、全員一致で賛成し、東京ビクトリーズとの試合を受けることになったのだ。
もちろん、俺と司はビクトリーズで試合に出るガチンコ勝負。そう簡単には負けられない。
試合開始早々から、ビクトリーズが嵩に懸かって攻撃をする。
しかし、普段から翔太と一緒に練習をしている八西中DF陣はなかなかゴールを割らさせない。
東京都の予選を1失点で乗り切ったディフェンスの堅さは伊達では無い。
ならばという事で、オーバーラップした司がペナルティーエリア左45度の場所から意表を突く左足のクロス。
てっきりデルピエールゾーンからのシュートだと思っていた八西中のみんなは、ファーサイドのゴール前を固めたところに、虎太郎のヘッドでの折り返し。
そしてぽっかり空いたゴール前に綾人さんがダイビングヘッド。
前半25分、ついにビクトリーズが先制ゴール。
この夏のクラブジュニアユース選手権のためにデザインした攻撃まで繰り出すことになるとは予想外だ。
「てめー、司、ナニ卑怯なことしてるんだよ!」とてっきりシュートを打ってくるかと思った順平。
「そうだ、そうだ、大人げないぞ!!」とみんなと同年代の拓郎。
「わざわざ八王子から出向いてやってるのに、忖度ってこと知らないのかね、まったく!!」と大輔。
「恥ずかしいからもうやめろよー」と武ちゃん。
ならばという事で、「じゃあ、もうちょっと手加減した方がいいかなー」とちょっとみんなをあおってみることにした。
すると……
「てめー、なに、調子こいてんだ、神児!!」と順平。
「八王子なめんなよ!!」と涼。
「神児、後で体育館裏にこいやー!!」と真人。
やばい、ちょっと煽りすぎてしまった。
完璧に頭に血が上ってしまった八西中イレブン。怪我しなきゃいいけどなーと思ったのがまずかった。
直後、優斗との1対1で、優斗渾身のエラシコでぶち抜かれると、そのまま一気にゴール前に突入されて、渾身のトゥーキックを神コースに決められてしまった。
「てめー、なにあっさりぶち抜かれてるんだよ」と激おこぷんぷん丸の健斗。
「お前は敵か味方かどっちだよ!!」と沖田さん。
「おい神児、おまえ大丈夫か?」と心配そうな司。
やばい、四面楚歌の俺、ピーンチ!!
すぐに挽回せねばと思い、ドリブルで強引に仕掛けると、うちに切れ込んでの渾身のシュート!!
すると、シュートブロックに来た拓郎の顔面にジャストミート。
哀れ拓郎は鼻血を出してぶっ倒れた。
「いやー、友達にアレは無いわ」と順平。
「血も涙も無いとはこのことですわ」と真人。
「手加減するなとは言わないけど、これはちょっと無いだろ」と大場さん。
「お前、拓郎になんか恨みあるのか?」と司。
一体、どうすればいいのですか!!!
そんな感じの八西中対東京ビクトリーズの練習試合。うん、やりずらい。
前半を1-1で折り返すと、後半は自力で勝るビクトリーズが2得点を挙げ、八西中対ビクトリーズの試合は3-1で勝利?した。
「くぅー、くやしー」と鼻にティッシュを詰めている拓郎。
「2年前のリベンジならずかー」と武ちゃん。
「あともうちょっとだったのに―」と本気で悔しがる順平。
思いのほか本気で悔しがっている八西中の選手達を見て、大下監督、
「だったら、鳴瀬と北里そっちに入れていいから、もう一本やるか?」と。
「えっ!?」と司。
「えっ!?」と俺。
「お願いしまーす」と即座に頭を下げる竹原さん。
まさかまさかの展開で八西中対ビクトリーズの三本目が始まる。
「お前、三本目だからって手を抜いたら承知しないからな」と真人。
「とりあえず、フリーキックで1本決めてこい」とそう司に言う涼。
八西中の両サイドバックは俺と司にユニフォームを渡すと自分たちはさっさとベンチに帰ってポカリを飲み始める。
えーっ、この汗まみれのユニフォーム着ろってことですかー?
俺は司を見ると、しぶしぶ汗まみれのユニフォームを着る。
「とりあえず、神児君と司君の二人で点取ってきてねー」と他力本願全ぶりの拓郎。
「司君、出来たら囮で裏抜けて、僕空いたスペースに飛び込むから」と優斗。
「おっしゃー、二年越しのリベンジ、返り討ちにしてくれるわ」と闘志満々の健斗。
「うわー、楽しいー、僕も点取っちゃうぞ」とノリノリの翔太。
「俺もいるの忘れるなよ」と虎太郎。
稲城のお山の上にある多摩っ子ランド天然芝サッカー場では、今日もサッカー小僧たちの熱き戦いが繰り広げられる。
今日もサッカー、明日もサッカー、『もし明日、世界の終りが来るとしても、俺達は今日、ボールを蹴る』
その昔、どこかのサッカー馬鹿がこんなことを言ったとか言わないとか……さぁ、とりあえず、サッカーでもするか。
「フットボールのギフト」第二章(完)
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