第186話 フットボーラー補完計画Ⅴ その2

「今日もいっぱいサッカーしたねー」と翔馬君。


「今日もいっぱい点を決めたなー」と和馬君。


「僕もいっぱい点を取ったぞ」と翔太。


 三人並んで、梅の湯の露天風呂でスイスイと泳いでいる。


 ちなみに梅の湯の露天風呂は夏期仕様で冷温泉になっている。


 下手にプールに行くくらいなら、ここで水浴びしていた方が気持ちいい。


 さっきから春樹もお風呂には入らずにずーっとばちゃばちゃとバタ足をしている。


「そういや、今日は司んちじゃないんだよな」と健斗。


「ああ、今日はうちのおふくろ料理学校の方が忙しくて家にいないんだ」


「大変だな、おまえんちも」


「まあ、仕事だからしゃーないさ」


「で、今日は神児の家で晩飯食えんのか?」と健斗。


「まあ、司んちみたいにご馳走じゃないけれどな」と俺。


「ちなみにメニューはなによ?」


「カレー」


「おおーカレーか」と翔馬君。


「大好物だよ」と和馬君。


「でも、この前の司んちみたいなの期待すんなよ」と俺。


「へーき、へーき」と翔馬君。


「カレーなら、何でも好物」と和馬君。


 すると、隣の露天風呂から、


「陽菜もカレーだいすきー」と。


 風呂から上がると、いつものメンバーでぞろぞろと俺の家に向かう。


「ほんと、うちのカレーはふつーだからな、変な期待するなよ」と俺。


「大丈夫、大丈夫、ご飯がちゃんと炊けてればそれで十分だから」と健斗。


「なんだったら、レトルトのカレーでも十分だから」と順平。


 そこまでハードル下げられるとそれはそれでイラッとくる。


 まあ、最近のレトルトは美味しいけどな。



 ……三十分後、


「こんばんはー、おじゃましまーす」とみんな。


「いらっしゃーい」とパタパタとスリッパを鳴らしながら大慌てで台所からやってくるお袋。


 てんやわんやなのはなんとなく伝わってくる。


「すいません、なんか、カレーご馳走になっちゃって」と外面のいい大輔。


「晩御飯、ごちそうになりますー」と翔馬君。


「これ、北海道のおみやげです」とトラピストクッキーを差し出す和馬君。


 あれ、なんかすみません。


「あらあらあらあら、なんかすみません」とおふくろ。


「今日はよろしくお願いします」と和馬君。


 リビングに入るといつものテーブルの横に物置から出してきたのか長テーブルが据え付けられていた。


 そしてその上には、カレーの入った鍋が二つに、ポテトサラダとから揚げ、それからゆでたまご(?)が置いてあった。


「えーっとねえ、右のお鍋が甘口で左のお鍋が辛口。中辛食べたかったら二つ合わせてね。じゃあ、どんどんお皿にご飯盛っていくからねー」とおふくろ。


「ああ、じゃあ、手伝いまーす」と遥。

「私もー」と弥生。

「私も」と莉子。

「ありがとー」


 次々とご飯を持ったお皿がリビングに運ばれてくる。


「じゃあ、僕甘口」と翔馬君。


「僕は中辛」と二つの鍋のカレーを合わせる和馬君。


「よかったら、これも食べてねー」とお皿にてんこ盛りの一口カツを持ってきたおふくろ。


「おおーカツカレーじゃーん」とノリノリの健斗。


 食いしん坊どもの宴が始まる。


「この甘口、バーモンドだ」とニコニコの翔馬君。


「この辛口、ゴールデンだ」とニコニコの和馬君。


「これこれこれこれ、こういうのがいいんだよ」と言いながらカレーをもりもり食べる司。


「えー?司くんち、すごいカレーいつも食べてんじゃないの?」と弥生。


「いや、アレもうまいけれど、こういう豚小間とジャガイモとかが入っているフツーなのがいいんだよ、フツーなのが」


 そういってゴクゴクと飲み物のようにカレーを飲む。


 おい、大丈夫か?またデブになるぞ。デブに。


「あら、やだ、おばさんうれしくなっちゃうわ。じゃあ、はい、これどーぞ」と揚げたてのカツを渡すおふくろ。


 いやいやいやいや、おふくろ、あんまりコイツに飯食わすなよ。すぐ太るんだから。


「ゴチになりまーす」とお皿を出す司。


「じゃあ、これもハイ」といってブルドックの中濃ソースを手渡すおふくろ。


 たしかにその組み合わせは間違いないけれどね。


「おばさん、これ、茹で卵ですか?」と卵を持って遥。


「えーっと、温泉卵作ったつもりなんだけれど、ゆで卵だったらごめんなさいね」


「あー、ちゃんと温泉卵になってるよー」と翔太。


「カツたまカレーやん、ぜーたくー」と陽菜ちゃん。


「ポテトサラダとカレーが合うんだよなー」ともりもり食らう健斗。


「このポテサラ中にソーセージが入ってるー。おっしゃれー」と莉子。


「唐揚げとカレーもあうねー」と翔太。


 見ると炊飯器の中のお米がすっからかん。


「おふくろーご飯無くなったー」


「大丈夫よー、こっちにもあるからー」


 そういって、台所から年代物の炊飯器を持ってきたおふくろ。


 えーっと、そんな昔の炊飯器あったんだ。


「おかわりー」と翔馬君。


「俺もー」と和馬君。


「じゃあ俺もー」「私もー」「僕もー」「陽菜もー」


 ああ、こっちの炊飯器もすぐに空っぽになりそうだ……


「じゃあ、ご飯が足りなくなったら、これ食べてー」そう言って鍋一杯のスパゲッティーを持ってくるおふくろ。


「おおー、カレースパかー」と健斗。


「これもありだよね」と遥。


「僕、ご飯よりこっちがいいー」と春樹。


 …………30分後、テーブルの上の物がすべて空っぽになってしまった。


 恐るべし、食欲魔人ども。成長期のアスリートの恐ろしさをまざまざと実感した。


 すると、お腹をポンポコに膨らませた司が、オッホンと咳払い。


「では、今からちょっと、大切なお話をします」と。


「…………大切な!?」とみんな。

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