第172話 決戦、韓国戦 その6

 この1点は日本チームに重くのしかかった。1点ではだめなのだ。残り30分で2点を取らなければ日本の優勝は無い。


 しかも韓国に1点も与えることなく…………


 しかし、泣き言を言っている時間すら惜しい。


 日本のゴールに入ったボールを司は持つと、全速力でセンターサークルにセットする。


「1点取り戻すぞ」


 司が声を上げる。そうだ落ち込んでいる暇など俺達には残されてないのだ。


 ファン・ソンミンにカウンターを食らうまで、日本の攻撃は間違ってなかったのだ。


 今度は1点を取り切るのだ。俺達は覚悟を決めて韓国陣内に攻め入った。


 大竹さんと司を中心に攻撃を組み立てるが、韓国はすぐに攻撃の核となる大竹さんに大柄のディフェンダーをマンマークする。


 すると今度は、足が止まって来た南君と堂口君に変わって三苫君とこれまで出番のなかった最年少の田中君を投入する。


 監督はフリッパーズラインに反撃の糸口を見出そうとしているのだ。


 残り25分、このままの点差でしのぎ切ろうと、韓国がブロックを敷きディフェンシブにシフトしてくる。


 そのブロック目掛けて三苫君が左サイドをえぐって来る。


 しかし、ファンソンミンはチームがディフェンシブになると、中盤どころかディフェンスラインにまで顔を出し、一流のハードワーカーのように韓国のディフェンスを強固なものにする。


 そしてボールを刈り取るや否や、すぐさまカウンターを発動させ日本のディフェンス陣に恐怖を与え続ける。


 この時間帯でもう1点決まってしまったら、そこでジ・エンドだ。

 

 すると今度は韓国のディフェンスラインの前に悠磨君が下がって来て、体を張ったポストプレイでチャンスを演出する。


 ガツガツと削られながらもボールをキープしてくれるおかげで大竹さんのマークが甘くなった瞬間、司とのワンツーで韓国のペナルティーエリアに侵入する。


 するとすぐさま、ファン・ソンミンが駆けつけると、大竹さんに激しいチャージをする。


 ペナルティーエリア内で激しく吹き飛ばされた大竹さん。ファールを必死にアピールするが主審は聞き入れない。


 韓国のゴールキックで試合が再開する。時計は既に後半30分を回っていた。


 残り10分で2点を取り切らねば……


 すると、高柳監督はピッチ横まで駆け寄ってくると、


「神児、ファンのマークを外して上がれ!」とスクランブルの指示が入る。


 1点でもダメだ、2点取り切らなければ。


 俺はファン・ソンミンのマークを外して前線に駆け上がる。


 すると危機を察知したのか、今度はファン・ソンミンが俺にマークに付く。


 いいだろう、この試合、最後まで付き合ってやるよ。


 俺はゴール前で必死に体を張っている悠磨君にボールを要求すると、韓国のゴール正面、25mからファン・ソンミンにユニフォームを掴まれながら渾身のミドルシュートを放つ。


 しかし、危険を察知した韓国ディフェンダーがシュートコースに入ると伸ばした足に大きくリフレクションする。


 そして、そのボールが、三苫郁の足元に収まった。


 俺と悠磨君で韓国ディフェンス陣を中央に集めておいたおかげで、三苫君の主戦場である日本の左サイドがガラガラになっている。


「行け!郁!!」田中君が声を上げる。


 しかし、三苫エキスプレスはそれよりも早くフライング気味に発車した。


 誰もいない左サイドを駆け上がる三苫君。


 ファン君を始めとする韓国ディフェンス陣は一気に三苫君のいる日本の左サイドにスライドし、三苫君の行く手に蓋をする。


 が、その瞬間を待ち構えていた三苫君は、ボールを右足のアウトサイドに乗せると、逆サイドにフリーで走り込んできた田中君に極上のパスを送った。


 韓国ディフェンス陣全員の逆を突いた、ふわりと浮かせた三苫君のパスは、山なりにゴール前を越えていく。


 しかし、そのボールに唯一反応した韓国のゴールキーパーは一か八かと言った感じで田中君の前に両手を広げて立ち塞がる。


 この体の何処でもいいから当たってくれと言った感じで……

 

 すると、田中君はギリギリまでキーパーを引き付けると、三苫郁の出した柔らかなロビングをヘディングで中央に折り返す。

 

 ボールの先にはゴールに飢えた金狼が…………

 

 後半33分、鈴木悠磨のダイビングヘッドにより試合は振出しに戻る。

 

 日本対韓国のスコアは2-2となった。

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