第170話 決戦、韓国戦 その4

「クソッ!」森田さんが悔しそうに芝生を拳で叩く。


 散々警戒していたファン・ソンミンに結局は点を取られてしまった。


 この嫌な流れを、後半に持ち込みたくはない。


 なんとか良い形で前半を終わらさなければ。


 この想いはみんなも一緒だったのか、山下君達と司が一生懸命に攻撃を組み立てる。


 が、思うようにボールが繋がらない。


 理由は分かっている。そのボールのある所ある所にファン・ソンミンがファーストディフェンダーとして顔を出してくるからだ。


 フォワードとしてスペシャルだとは思っていたが、ディフェンダーとしてもここまで優れているとは思っても無かった。


 

 ファン・ソンミンが中心となりボールをプレスに行くと、ボールを刈り取るなりすぐさまカウンターが発動する。


 前半の終盤からは間違いなくファン・ソンミンが中心となってこのゲームが進んでいった。


 結局日本はその後、効果的な攻撃をすることはできず、前半が終了した。


 幸先のいい先制点を挙げたのだが、前半の終わり間際に追いつかれてしまい、控室の空気は重苦しい。


 今分かっていることは、このままのスコアで試合を終えれば、優勝は韓国に持っていかれてしまうという事だ。


 優勝するためにはファン・ソンミン率いる韓国に勝ち切ることが必要なのだ。


 すると監督が口を開く。


「選手を交代する。翔太、交代だ。お疲れ様」


 誰もが予想しなかった翔太の交代に控室に衝撃が走る。


「監督!僕まだ出来ます!!」


 前半のMVP、中島翔太の思いもかけない交代に、翔太自ら交代拒否の意思を示す。


「翔太のポジションには南が入り、トップには悠磨、お前が入れ」


「ハイッ!!」と悠磨君。


「監督っ!!」


 翔太は尚も交代拒否の姿勢を示す。


 すると、監督が翔太を見る。


「翔太、足を見せて見ろ」


「あっ、あの……」と翔太が口ごもる。


 監督が翔太の靴下を下げると、翔太の両足が膝下から真っ青に腫れあがっている。


「結構派手に削られたな」と翔太の足を見ながら監督。


「でも、まだ、出来ます」翔太は必死に反論する。


「いや、ダメだ。お前は今すぐ医務室に行け」


 前半の終わり間際、翔太が何度か足を引きずっていたことを思い出す。


 翔太が悔しそうに俯き、ポロポロと悔し涙を流す。


 先制点を挙げた日本のエースを韓国のディフェンダーが見逃すはずがない。


 この試合翔太をつぶせば、それだけ日本の攻撃力低下に直結するのだ。


 俺は翔太の傍らに寄り添うと、前半の功労者にねぎらいの言葉を掛ける。


「翔太、あとは俺たちに任せろ」と……


「…………わかったよ」


 翔太は悔しそうに唇を噛みしめながら言った。


「それから室田、後半から右サイドに入れ」


「ハイッ!!」室田さんが声を上げる。


 予想外の監督の言葉に俺は顔を上げる。


 まさか、俺まで交代なのか?


 すると監督は、「神児、お前はファン・ソンミンのマンマークに付け」


「ハイッ!!」


 なるほど、そういう事か、中盤のフリーマンのファン君に俺がマンマークに入るのだ。


「和馬、翔馬、ごくろう。代わりに大竹、右のハーフに入れ」


「ハイッ!」と大竹さん。


「任せたよ」と翔馬君。

「頼んだよ」と和馬君。


「フォーメーションを変更する。中盤をダイヤモンド型にした4-4-2に変更する」と監督。


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330665753221678


U-15日本代表(対韓国戦後半)

    

   〇     〇

   南  〇  堂口

      鈴木

   〇     〇

  大竹  〇   神児   

〇     森田     〇

司   〇    〇   室田

    富安 〇 岩山

       小村

 

 監督がホワイトボードに後半戦のフォーメーションを書く。


「悠磨、お前は下がり気味にポジションを取って、ファンが中盤に下がってきたらプレスに当たれ」

「ハイ!」


「北里、室田、前半より上がり目にポジションを取れ。裏のスペースを気にするな。ファンには鳴瀬が付いているから安心しろ」

「ハイッ!」


「大竹、北里との距離を保ちながら二人で韓国を崩していけ」

「ハイッ!」


「そして神児、お前がファン・ソンミンの首に鈴を付けるんだ。頼んだぞ」

「ハイッ!」


「日本のエースを削った代償は高くつくのだと、韓国に知らしめてやれ」

「ハイッ!!!」


 俺は翔太の肩を抱き、悔しそうに歯噛みしている日本のエースに誓う。


「安心しろ翔太。俺が落とし前付けてきてやる」と…………


 U-15東アジア選手権、日本対韓国の後半戦が始まる。

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