第162話 U-15東アジア選手権 韓国VS中国 その3

 夕食後のミーティングルームでは俺たちの試合の事よりも、韓国対中国戦のことについて話題が持ちきりだった。


 正面にある大型モニターでは先ほど行われた韓国対中国戦が映し出されている。


「なんなんだ、あの韓国代表の9番は?」とボランチの森田さん。


「ファン・ソンミンって言って、なんか、もうブンデスリーグのチームとしてるんだって」と三芳君。


 途端にざわざわとミーティングルームが騒がしくなる。


 そりゃ、そうだな。ここにいる全員、トップチームと契約どころかその上のユースすらまだ確定していない選手が大半なのだから。


 そう考えれば、このファン・ソンミン君。一つどころか俺達に比べて二つ飛び級しているんだ。

 

 そういや、森田君も将来の川崎フリッパーズの主力だった。


 えーっと、この時点で代表に何人いるんだ。将来の川崎の選手は?


「どうよ、三苫、韓国の9番見て?」とフリッパーズでキャプテンを務めている板谷君。


「スピードは僕と同じくらいですけど……」とその時、モニターのファン・ソンミンが中国のディフェンダーをノーファールでなぎ倒している。


「パワーは明らかに向こうの方がありますよね」と。


「あんな化物相手に、どうすりゃいいんだ」と憔悴しきった岩山さん。


「俺、マンマークで付きましょうか」と富安君。


「あとでちょっと、監督と相談してみるか?」


「まあ、でも、韓国のディフェンダーの方は、どうにかなりそうじゃん」と翔馬君。


「いっそのこと、ノーカードの打ち合いでもしてみますか?」と和馬君。


「大竹はどうよ?」と岩山さん。


「そうなると、あちらさん、結構ラフプレイが多いから、かなり試合が荒れると思いますよ」と難しい顔して大竹さん。


 日韓戦での韓国チームのラフプレイに関しては、もう既に韓国選手のDNAに刷り込まれているレベルなので今更何を言っても始まらない。


 そしてここにいるみんなは十分そのことを承知している。


「まあ、そうなったら、けが人続出するのは覚悟しとかなくちゃね」と今日は出番が無く不完全燃焼気味の田中君。


「………………」


 ミーティングルームに沈黙が支配する。


 ファン・ソンミン君が5点目を取ると、司は一気に後半開始まで早送りをする。


「それよか、3日後の中国戦だよ」と南君。


「なんじゃ、このセンターバックは、180cmはあるんやないか」と堂口君。


「いや、下手したら190あるんじゃないの」と中川さん。


「やだ、おっかない」と翔太。


 モニターにはコ-ナーキックで得点を挙げた中国代表キャプテンのCBが映し出されている。


 ペナルティーエリア外から飛び込んできて韓国のディフェンダーをなぎ倒しながらゴールを決めた。


「そういや、この選手名前なんてんだ?」と岩山さん。


「えーっとですねー」そう言いながら司は中国チームのメンバー表をパラパラ。「あっ、あった、中国の2番、名前が、ヤン・ミン……ですかね?」


 みるとローマ字表記でYAN・MINと書かれてある。


「中国代表キャプテン、ヤン・ミンかぁー」と岩山さん。


「韓国と同じように、先制点を取って前半で試合を決めてしまいましょう」と南さん。


「ああ、なんか、試合終盤までもつれてセットプレイなんかに持ち込まれたらどうなるか分かったもんじゃない」と司。


 試合の方に目を向けると、スイッチが入るのが中国はちょっと遅すぎたのか、それでも1点でも多く点を取り返そうと韓国の選手に必死に食らいついている。


 前半は明らかに韓国がボールを保持(ポゼッション)していたが、後半は五分五分?もしかしたら中国の方が有利に試合を進めている。


 韓国もファン・ソンミン君が居なくなってボールの収めどころが無くなってしまったのか、前半よりも明らかにパワーダウンをしている。


「中国も最初からこの選手を9番にぶつけてればよかったんじゃないのかな?」と三芳君。


「いやでも、あの9番ほどスピードはなさそうだぞ」と翔馬君。


「一対一なら振り切られて終わりそうだよなー」と和馬君。


「まあ、でも、こんなのがCBにいたら立っているだけでも脅威だろ」と室田さん。


「ともかく三日後の中国戦、確実に勝ち点3をとらなくちゃな」と司。


「うん、韓国の対策はそれからだ」と板谷君。


 みるとモニターでは中国のCBがコーナーキックから2点目を取っていた。


「結局こいつ、CBで出場してハットトリックきめちまうんだろ?」と岩山さん。


「田中マルクス闘莉王かよ」と森田さん。


 そんな感じで香港戦を大勝した昂揚感などファン・ソンミン君と中国のCBに一気にかき消されてしまった。

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