第163話  タイタン オブ チャイニーズ その1

https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330665752626172



 …………翌日、練習は試合の疲れを考慮して午前中のだけで軽く流して終わってしまった。


 幸いなことに昨日の試合でけが人も出ることなく、レギュラー組とサブ組に分かれて紅白戦をしたのだが、昨日の試合のプレーを監督は評価してくれたのだろう。


 俺も司もレギュラー組だった。まあ中川さんや室田さんとローテーションはするのだろうけど。


 昨日みたいな試合は残りの中国と韓国には期待しない方がいい。どんな状況になったとしても臨機応変に対応しなければならないのだ。


 実際に監督からはけが人が出た場合はボランチや左サイドバックもやるかもしれないと言われている。


 もちろん俺はいつだって準備万端だ。監督には「いざとなったらフォワードでもトップ下でも構いませんよ」といったが、「それは、大丈夫」と丁重に断られてしまった。


 それを見て司が笑いをこらえていたのを俺は見逃しはしていない。

 

 応援に来てくれた俺や司の家族は昨日は試合が終わってそのままトンボ帰り。


 なんか司んちのおじさんも、うちの父さん、会社が休めなかったんだって。大変だねー。そんなわけで三日後にまた来るんだってさ。

 ご苦労様です。


 そんなわけで、今日は午後フリー。ミーティングルームでみんなと卓球するのもよかったんだけれど、せっかくJビレッジに来たのだから、司と一緒にいろいろ施設を見学することにしたのだ。


 すると、建物の1階にでっかい売店を見つけた。


 えっ、なに!?こんなお店あったんだ。


「司、知ってたか?」

「いや、しらんかった」


 そう言いながら売店の中を見学する。

 ホテルの中の売店と言っても、規模的には、もう道の駅とかサービスエリアみたいなあんな感じ。しかも日本代表関係のサッカーグッズもより取り見取り。


 うわー、時間がいくらあっても足りないやー。


 そんなことを思いながら、記念ボールや代表のユニフォームを見て回る。


 見ると、今回渡されていなかったセカンドユニフォームも飾ってある。


 親父が今度来るときに言っとけば喜んでかってくれそうだよなー。この白い日本のユニフォーム。これはこれでカッコいい。


 すると、お土産コーナーに見覚えのある赤いチャージを着た二人がいる。って、ファン・ソンミン君と、中国のキャプテンのヤン・ミン君!?!?


「おっ、おい、どうするよ、司」

「ど、どうするって、……せっかくだから挨拶するか」


 敵とはいえ、将来のプレミアリーグの得点王。挨拶するに越したことは無い。


 俺達は笑顔で二人の前に行く。


 ヤン・ミン君もでっかいけれど、なにげにファン君もでっかいよなー。俺も司も代表の中ではでっかい方なんだけれどねー……


 すると、俺と司は即興で相談したとおりに二人に挨拶をする。


「アニョハセヨー」と俺。

「ニーハオ」と司。


 ちゃんと通じたかな?


 すると、ヤン君もファン君もニコッと笑って、「こんにちわー」と答えてくれた。


 おお、異文化交流の成功だ。


「なにしてんの?」と俺。

「ホヮ ドゥ ユー ドゥ?」と司。


 さあ、通じるかな!?!?


「あー、オミヤゲ?」とファン君。

「カゾクニ」とヤン君。


 身振り手振りで会話する。うん、十分伝わる伝わる。どうやら、家族や友達のお土産を見つけているようだ。


 他にもアニメのキーホルダーやらクリアファイルなんかも興味がある。


「ワンピース好き?」と俺。

「アイ ライク ルフィー」とファン君。

「アイ ライク チョッパー」とヤン君。


 どうやらワンピースのファンらしい。


 ありがとうジャパニメーション、外国の人との会話のとっかかりでこれほど便利なものはない。


 前の世界でも外国の人と話す時、とっかかりで、ワンピースかドラゴンボールのキャラクターを言っておけば大体間違いはない。


 見るとヤン君もファン君もかごの中には結構なお土産が入っている。


 すると、ファン君は温泉饅頭の手に取って何やら首をかしげていた。


「コレ、ナニ」とファン君。

「ディス イズ ア スイーツ」と司。


 オッケーオッケーという感じでファン君。買おうかどうしようか迷っているみたいだ。


 そこで、機転を利かして俺。


 店員さんに、「すいませーん、これ、試食ありますかー?」と。


 だいたいこういう所ってお土産の試食ってあるじゃん。


 すると、店員さんが試食用のお饅頭を持って来てくれた。


 店員さんは試食用のお饅頭を持って来て「昨日の試合に出ていた人たちですか?」と。


「はい」と俺達。

「あー、そうですか、じゃあ、頑張ってください」と多めに試食用のお菓子をくれた。ラッキー。


 ヤン君もファン君も驚いた様子。

 お土産を試食できるなんて想像してなかったみたい。

 店員のお姉さんもサービスしてくれたのか結構な量を渡してくれた。

 すると俺はその中に入っていたままどおるに気が付いた。

 俺はままどおるを持って「ディス イズ ジャパニーズ ナンバーワン スイーツ」と言って紹介した。


「りありー?」と言いながらままどおおるを食べるファン君とヤン君。

 食べた途端二人で顔を見合わせる。


 俺はそんな二人を横目に見ながらレジ横で打っていた近くの牧場の牛乳を買う。


「プレゼント フォー ユー」と言ってその場で牛乳パックを渡す俺。


 俺の言いたいことは伝わったみたいだ。ファン君もヤン君も牛乳パック片手にままどおるを食べる。


 そして食べた直後に一番大きな36個入りの箱を買い物かごに入れる二人。


 すると、それを見ていた店員さんが流ちょうな韓国語と中国語で「賞味期限が8日間ですので、お買い上げは最終日の方がよろしいのではないでしょうか?」と。


 うんうんうんと頷きながら一旦、36個入りの箱を戻すと、24個入りの箱を手に取った。どうやら、チームに戻ってみんなで食べるらしい。


 ままどおるは世界を平和にする。


 俺達はそんなことを思いながら、どさくさ紛れに、ヤン君とファン君のサインをもらって、岩山さんの待つレクリエーションルームに帰っていった。


 ちなみにファン君とのツーショット写真もちゃんと携帯で取らせてもらいました。家宝だ家宝。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る