第145話 フットボーラー補完計画Ⅲ その3

 司たちが部室を出るタイミングを見計らって、

「あの、弥生、ちょっといいかな?」とみんなに気付かれないように声を掛ける。


「なに?神児君」


 今日の練習の手伝いをしてくれていた弥生は部室の後片付けをしてくれていた。


 あらかじめ司達には先に春樹達のいる学童に行ってもらっていた。


 俺は俺はバッグから紙袋を取り出して、「はい、お土産」と弥生に渡す。


「えっー、なにこれ?」と首をかしげる弥生。


「んっ、ままどおる」


 途端にクスクスと笑い始める。


「ホント神児君達、ままどおる好きだねー、ありがとう」と弥生。


「あれ、変だった?」


「ううん、神児君らしいなーって」そういうと弥生は大切そうに学校のカバンにしまう。


「そ、そうかな」俺はそう言うと照れ隠しに頭を掻いた。



「ねぇ、合宿、どうだったの?」と弥生。


「うん、すごい人がいっぱいいた」


 うん、本当にすごい人がたくさんいたんだ。


 そしたら弥生はニッコリとうなずいて、「そう、じゃあ楽しかった?」と聞いてきた。


 いいプレイできた?とか、代表には残れそう?とかじゃない。


 弥生はいつも、サッカーは楽しかった?と聞いてくる。


 だから俺も安心して「うん、すっごく楽しかった」と答えることが出来る。


 

 うん、楽しかったんだ。

 青森大山田との火花の飛び散るようなサッカーが、

 少しでも気を抜けば、あっという間にラストパスを通してくる柴崎さんとのマッチアップが、

 そして、代表の座をかけてみんなとしのぎを削り合った3日間が、とても、とても楽しかったんだ。


 すると弥生は、そんな俺の思い全てを理解したように、

「そう、よかったね」

 と笑って言ってくれた。

 

 うん、きっとこれだけで十分に分かり合えた。


「みんな、神児君の事待ってるよ」そういって弥生は立ち上がると部室のドアを開く。


「うん、一緒に行こう弥生」

 俺はそう言うと、弥生の手を握ってみんなの後を追った。


 

 角を曲がると学童の前にみんながいた。


 俺は、「おーいっ」と声を掛けようとしたら、何やら司と遥が言い合いをしている。


 何やってんだ、あいつら。俺はいったん陰に隠れて耳を澄ます……と、



「あんた、そんなんで、ほんとに代表残れんの!?」と遥。


「だ、大丈夫だよ。多分」とムキになって司。


「多分ってなによ、多分って」とさらにムキになって遥。


「ち、ちゃんと点も取ったし」


「点取ったってたったの1点でしょ。あんたはディフェンダー。一体何点取られたのよ」


「じゅっ……じゅってんくらい」ととっても言いずらそうに司。


「ザルッ!!!そういうのザルディフェンスっていうのよ。覚えておきなさい」一人のDFとして激おこぷんぷん丸の遥さん。


「そんな事言ったって、失点の原因は俺だけじゃねーもん」


「あんた!!代表目指してるDFが、失点の責任は私だけじゃありませんなんて口が裂けても言うもんじゃないの!!」


「………………」口をパクパクする司。


 返す言葉もないってこういう事を言うんだな。ハハハ。他人事じゃないな。


「さ、最後にはちゃんと勝ったから!」


「1勝5敗って、そういうのあんたボロ負けっていうのよ!!」と、けんもほろろの遥さん。

 

 とりあえず、もう少し隠れていた方がよさそうだ。

 

 しばらくすると、やっと二人の言い争いが落ち着いた。


 うん、お前らもお似合いの二人だな。



「おまたせー」と素知らぬ顔してみんなの前に行くと、既に春樹と陽菜ちゃんが来ていた。


 できたら子供の前でそういうのやめてほしいんだけれどなー……

 

 俺は素知らぬ顔して司の前に行くと、「ごめん、待たせた」


 すると、「ちゃんと、話しできたか?」と司。


 こういうところ、ほんと気が利くんだよ、こいつ。


「ああ、ありがとうな」俺は司に礼を言う。


 すると、「おにいちゃん、お帰りなさーい」春樹が抱きついてきた。


 そうだ、考えてみれば、こいつとは3日振りに会うんだっけ。


「ただいまー、春樹」


 俺はそう言うと春樹の両脇をもって、ぐーっと抱き上げる。


「うわー、たかーい」と言ってキャッキャとはしゃぐ春樹。


 それを見た陽菜ちゃんが、「にーちゃーん、陽菜にもやってー」と優斗におねだりする。


 そんな感じで児童館の前で春樹達とじゃれあっていると、「いいなー、ぼくも、ぼくも」と春樹の友達が近寄って来た。


 すると、「おっしゃー、いい筋トレだー」そう言って健斗がやって来た子供たちを片っ端から持ち上げてグルグル回していた。

 


 部活の帰り道、今日は月曜日でビクトリーズも無し。


 メンバーは俺、司、優斗、健斗、翔太、遥に弥生に莉子に陽菜ちゃんと春樹。


 で、この後何をするのかというと、3日ぶりに合宿から無事帰って来たのをお祝いして、司の家でギョーザパーティー!!


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330664161459638


 みんなで餃子を包みながらご飯を食べて、ついでに青森大山田との試合のビデオを見ようってことになったのだ。


 まあ、健斗が見たいって言ってたのと、お土産取りに来るんだったらついでに俺んちで飯食わない?とトントン拍子でこういうことになった。


 

 そして俺達はふと気付く。


 部活帰りで全員泥まみれ……こんなんでギョーザ作りたくないなー。


 ……ってか、トレセンでは、午前も午後も練習が終わったらシャワー浴びれたしなー。


 すると、ちょうど都合よく目の前に「梅の湯」が……よく部活帰りにお世話になってます。


「風呂入りたい」

俺は思わずつぶやいた。


「……確かに、この状態で餃子作るのはなー」

 そう言いながら、泥の付いたジャージを指でつまむ司。


 すると、それを聞いてた春樹が、「兄ちゃん、銭湯行くのー!?」とさっそく早合点。


 でもこれだけメンバーいるとなー……それに女の子もいるし。


 と思ったところで、司がゴソゴソとポケットをまさぐる。


 どうしたんだ?と思ったところで何やらチケットを取り出した司。

 

「ジャーン」と言って取り出したのは何かのチケット。


「なんだそれ?」

「実はこの前、かーちゃんが商工会の集まりで梅の湯の回数券もらったんだよ。よかったらあんた使いなさいって」


 おお、さすが上司、いつもいい仕事するなー。


「というわけで、みんなでちょっと梅の湯寄らないか?」と司。「もちろんタダだぜ」


「乗った!」と遥。


「ええ、いいのー?」と莉子


「陽菜もお風呂入りたーい」と陽菜ちゃん。


「えーっと弥生は?」


「えーと、いいの司君?」


「もちろん」


 というわけで、女の子たちがオッケーなら、俺達男どもは聞くまでもねーな。


 司に渡されたチケットを持って入り口で男湯と女湯に分かれて入る。


「じゃあ、30分後でいいかなー?」と司。


「せっかくだから、1時間は入りたいわ」と遥。


「じゃあ、間を取って45分で」と俺。


「「しゃーない」」と司と遥。ほんとお前らお似合いだな。



 女湯の方から、「きゃー、おふろおっきー」と陽菜ちゃんのはしゃぐ声。


「みなさん、すいまへんなー、ひなー、ちゃんとお姉ちゃん達のいう事聞くんやでー」と優斗。


 お兄ちゃんって大変だな。


「きゃー、こっちのおふろ、あっつーい」


「陽菜、ぬるい湯あるから、そっちはいりー」と壁を隔ててお兄ちゃんは気が気ではない様子だ。


「まあ、遥たちはなんとかしてくれるから、のんびり入れよ、優斗」とすでにお気楽モードの司。


 あー、やっぱ、日本人には風呂が一番だ。



「Jビレッジの温泉もよかったけれど、ここの風呂もいいよなー」と司。


「なんだよ、司、Jビレッジって温泉まで付いてるのか?」と健斗。


「ああ、もともと、温泉とホテルを兼ね備えた研修施設って感じだからな、あそこ」


「へー、俺も行きてーなー」


「次は10月だっけ、地域トレセン、そん時にがんばって一緒にJビレッジ行こうぜ」と司。


「あー、あそこの風呂、海が見えてごっつええからなー」と優斗。


「えっ、何?お前、Jビレッジ行ったことあんの?」


「うん、去年の大阪選抜でJビレッジいったんや。遠征で」とニコニコと優斗。「ベッドもふっかふかでなー」


「うんうん、あそこのベッド、ちょー感動するねー」と翔太。


「なんだよ、行ってねーの、俺だけかよ!!」


「そういや、神児君、司君、俺、今度東京都のトレセンによばれたんや」


「おー、おめでとうー優斗」


「なんか、向こうの監督が東京都の協会の人に話してくれてたみたいなんや」


「よかったなー」


「なんか、夏休みに遠征があるみたいなんやて」


「なんじゃ、そりゃ。俺も遠征行きてーよー」


「まあ、クラブに入ってると、東京都のトレセンには入れないからなー」


「いやー、遠征行けるってんなら俺は入りたいぞ東京都トレセン」と健斗。


「ルールで決まってんだ。頑張って、ナショナルまで来い」


 すると、「やーん、シャンプー目にはいったー」とひなちゃんの悲鳴が。


「あー、ゴメン陽菜ちゃん、ちょっとガマンガマン」と遥の声。


「ひなー、大丈夫かー」


「うん、がんばるー」



「で、優斗、どうだったよ、サイドバックで出て」と司。


「まあ、確かにあのポジションで試合に出るのは新鮮だったけれど」


「けれど?」


「まあ、相手が相手だったんで、試合中ほとんど相手ゴール前やったからなー」


「うーん、そっかー」


「まあ、でも、オーバーラップのタイミングとか、翔君が中に入った時にDFを引き付ける走りとか、ああ、なるほど、みんなこうやって俺を助けてくれてたんやってのがよーわかった」


「うん、それが分かれば、今回の狙いはクリアだな」と司。「まあ、出来たら、もう少し強い所とあたれてたらなー」


「でも、トーナメントに行ったら、負けたらそこで終いやで」


 そうなのである、そこが中体連の厄介なところなのである。


「やーん、今度はリンスが目に入ったー」とひなちゃん、


「あー、ゴメンゴメン、ちょっとガマン」と遥。


「もー、にーちゃんに洗ってもらうー」


「ごめんね、もう、向こうには行けないからさ」となだめる弥生。


「すんまへんなー」と優斗。


 すると、「んっ」と言って俺にシャンプを差し出し「じゃあ、よろしく」と春樹。


 はい、分かりました。「じゃあ、春樹、一緒に洗い場に行くか」


 俺は俺で、お兄ちゃんの仕事をすることになった。


 すると、翔太が「はい、コレ使う?」そう言って、今まで自分が使っていたシャンプーハットを差し出した。


 どうやら、ここの銭湯ではシャンプーハットを貸出してくれるようだ。サンキュー翔太。ってか、おまえ、もう、中学生だよな。



 ゆっくり風呂につかりツルツルテカテカになった俺達。汚れたジャージをまた着なくちゃならないのはちょっといただけないのだが。


 すると、「準備があまいわねー、着替えくらいちゃんと持ってきなさいよ」と遥。


 司の家に行ったらシャツとズボンを貸してもらおう。


 司の家に付くと、初めての健斗は、「おまえ、もしかして、おぼっちゃまだったのか?」と目をパチクリ。


「おぼっちゃまっていう訳じゃないけれど、うちのおふくろ、ここで料理教室開いてるからなー」


「いやー、まぁー、いつ見てもすごい家やなー」と優斗。


「おっかねもちのおうちやー」と陽菜ちゃん。


「そんなことねーって」そう言いながら司は俺達を招き入れる。


 すると「いらっしゃーい」と司のかーちゃんがパタパタとやって来た。


 キッチンからは既にもういい匂いがしてくる。


「じゃあ、あっちで手を洗って来てねー」と司の母ちゃん。


「あー、おふくろ、ゴメン、こいつらにおれのTシャツとズボン貸してやって」


「あ、はいはい」そう言ってまたパタパタと司の母ちゃんは奥に入っていった。


 手を洗ってリビングにやってくると、あら、まあ、びっくり。


 既にタネはボールに入って皮も用意されている。見れば、から揚げも、野菜スティックも、テーブルの上に並べてあり、あとは包んで焼くだけとなっている。


 何から何まですみませんお母さま。

 ところで、スーパードライはありませんか?


「やーん、すっごーい、お城のごちそうやーん。陽菜おひめさまになったみたーい」と初めて司の家の料理を目の当たりにして目をキラキラさせている陽菜ちゃん。


 まあ、確かに、初めて見たらそう思うのも仕方ない。


「すっげーな、おまえんちのメシ、なに、いつもこんな感じ?」と健斗。


「んなわけねーだろ、お前らが来るから用意したんだよ」


「な、なんか悪いな」


「ねえねえ、司君これなーに」となにか透明のプラスチックみたいな食材を指さす翔太。


「あー、これ、フカヒレ」と司の母ちゃん。


「ふっ、ふかひれー!!」


「ちなみにこれは芝エビに、ホタテに、ズワイガニよ。やっぱ海鮮餃子にはかかせないものね。 あっ、そうそう、コレ手に入れるのなかなか難しかったの。上海ガニの内子」


 と明らかに今まで生きていて触ったことのない食材が……


「司君、司君。俺、ウインナーとチーズとかでよかったんやで」とちょっとひき気味の優斗。


 うん、俺も、それくらいの方がリラックスして食べれる。


「だ、だよなー」と実の息子ながらドン引きしている司。


 一体今日の食材だけでいくらになっているのだろう。


 そんなわけで、おっかなびっくり餃子パーティーが始まった。


 ホットプレートの上に自分で作った餃子を乗せる。


「やーん、これ、めっちゃプリプリー、餃子にエビってあうんやー、ヒナ知らんかったー」と今日1日で味覚のレベルがきっと格段に上がってしまうであろう陽菜ちゃん。


 果てして明日から優斗の目玉焼きと卵焼きの夕飯に満足できるのだろうか心配になって来た。


「へー、餃子にカニとか入れて、バチあたらんかなー」といいながら、恐る恐るカニ餃子を食べる優斗。「あー、うまー」


「やだ、フカヒレの食感、たまらないわねー」と遥。


「何気に普通のタネだけでも、めっちゃおいしいよ」と弥生。


「上海ガニとフカヒレって一緒に入れてもよろしいですかお母さん」と莉子。


「僕はチーズとベーコンとポテトがサイコー」と翔太。


なにげに普通の食材も取り揃えております。抜かりの無い北里家のディナー。


 実はフカヒレよりもトウモロコシの方が餃子には合ってたというのは内緒だ。


「すいません、メシ、もらえますか?」と本格的に腰を据えて食べ始めた健斗。


 すると、「はーい、お待たせー、スープできたわよー」と高級そうな白磁の壺に入ったスープを持ってきた司の母ちゃん。


「うわー、きれー」と陽菜ちゃん。


 みると鮮やかなオレンジ色したスープ。


「へー、これ、なんのスープですか?トマト?それとも人参?」と遥。


「いや、上海ガニの内子とフカヒレのスープよ」と司のママ。


 一瞬でリビングがシーンとなった。


 いやー相変わらずガチっすね。お母さん。


「やーん、なにこれ、なにこれ、なんか知らんけど、めっちゃうまーい!!」と感動に打ち震えている陽菜ちゃん。


「にーちゃん、これ、うまいんだけれど、なんなの?」と自分の想像を超えたおいしさにどう表現していいのか戸惑っている春樹。


「すっげーなー、おまえんち、なにこれ、しょっちゅう出てくるの」と目をパチクリする健斗。


「んなわけねーだろ、俺だって初めて飲んだわ」と司。


「だって、初めて代表の合宿に選ばれたんでしょ、このくらいお祝いしてもバチ当たんないんじゃないかと」とテレテレと司の母ちゃん。


「あー、でも、今回の合宿って、その代表を選考する合宿だから落ちることも……」と空気を読まずに遥。


 言ってしまったところで、間違いに気付く。


「えーっと、あのー、そのー」


 初めて事実を打ち明けられたような司の母ちゃん。


「大丈夫っすよ、司活躍したから、絶対に選ばれますって」とりあえずそう言っといた。貸一回な、遥、司。


「そ……そう、ありがとうね。神児君」と少しばかりのお世辞も混ざっていることを十分に分かってる上で俺にありがとうを言ってくれる司の母ちゃん。


 いえいえ、感謝するのは俺の方です。


 でも、まあ、1年前まで引きこもっていた息子が、たった1年で国の代表選手に選ばれるかも知れないだなんて、司の母ちゃんも夢見てるみたいなのかもな。


 そうして、やっと腹も膨れたところで、青森大山田セカンドとのテストマッチのビデオを見る。


「セカンドって2軍の事でしょ」って言っていた遥も、一本目の試合を見たらそんなこと全く言えなくなってしまった。


「やっばいわね、このチーム。あんた達、よく生きて帰ってこれたわね」とすっかり認識を変えてしまった遥。


 やっぱサッカーを見る目は確かだ。何気に司の陰のブレインは遥ではないのかと思ってたりもする。


「この10番って柴崎さんでしょ」とちょっとばかりサッカーのミーハーでもある莉子。


「よく知ってるなー」と司。


「うん、この前のサッカーマガジンでインタビューされてた」

 まあ、正月の選手権で準優勝したんだから今回も大本命だろ。


「おっかないの連れてくるわねー。なんで一つ上のU-17のキャプテン連れてくるのよ」と遥。


「でも、代表のトレセンってこんな感じだよ。去年のU-14の合宿だって柏のユースが来てたんだから」とおばさん特製のバニラアイスを食べながら翔太。


「えっ、そうなの?」


「うん、だいたい、代表の合宿のテストマッチ勝った記憶ないもん。今回初めてだった」と翔太。「その分、すっごいうれしかったけれどね」


「はへー、そうなんだー、知らなかったわ」と遥。


 すると、一瞬、遥の司を見る目が変わったように思えた。


 この青森大山田から点を取るくらいなのだから、もしかして代表も十分あり得るかもと思い直したのかもしれない。


 全部、見るのもアレなんで次は、最後に勝った試合をみんなで見る。


「すっげーなー、完璧にオフサイドトラップ決めてんじゃん」と健斗。「なあ、おまえ、今度リベロで出てみねーか?クラブの試合」


 なるほど、それも十分面白そうだな。司がリベロか。長谷部さんみたいでかっこいいじゃん。


「おー、翔太やるじゃん、見直した」と遥。


「でっしょー」とVサインの翔太。


「なあ、翔太、コレ、いつ、南君にパスするの決めてた」と司。


「うーん、ココ」と言って巻き戻して2回目のキックフェイントの所を指さす。「この時、ここら辺で、南君が走り込んでくるの見えたんだよ」と、間接視野で南君の走り込みを視界の端で捉えたことを教えてくれた。


「なるほどねー」って聞いてたか、優斗!!


「あかーん、おれやったら、ここでシュート打って普通にDFにブロックされてたわー」


「ってか、相手チームみんなからだでっかくて、ずるいやん」と陽菜ちゃん。


「でも、外国の人とやるとみんなからだが大きいからこのくらいの方がいいんだよ」と弥生。


「うわっ、司、お前、大丈夫だったのか?」と司のファールのところで健斗。


「ああ、何とかな」そう言ってかさぶたの後を健斗に見せる。「まともに食らってたらヤバかったかもな」


「あっぶねーなー。まあ、あちらさんも必死なんだろう」


 すると俺の膝の上に座っていた春樹が俺の手をキュッと握って、「にーちゃん、こわい」と……


 あー、青森大山田のFWの腕を極めた場面かー、正直春樹にも弥生にも見せたくないなー。


 直後、「えっぐ」と健斗。


「お前のフリーキックの壁だけは絶対にいやだわ」と司。


「ぼく、チビでよかったー」と翔太。


「この人、お腹、平気なの」と心配そうに春樹。


「うん……たぶん」


「ゴラッソ」と弥生。

「ゴラッソ」と莉子。

「ゴラッソ」と遥。

「ゴラッソ」と翔太。

「ゴラッソ」と司。

「ゴラッソ」と健斗。

「ゴラッソ」と司の母ちゃん。

「ゴラッソってなーにー」と春樹と陽菜ちゃん。


「ゴラッソってのはね、今の神児君みたいなすごいゴールの事いうのよ」と司の母ちゃん。


 ってか、お母さま、よくゴラッソだなんて言葉ご存じですね。


「いやー、あんたやるわね、胸がスーッとしたわ。でも、まあ、仕方ないわよね、ケンカ吹っ掛けてきたあっちからなんだもん。何もしなかったらもっと調子に乗るわよこいつら」と遥。


 そう言われると少しは救われる。


「だいたい、日本人は舐められ過ぎなのよ、削っても報復には来ないって、そんなんだから、酷い怪我させられるんだわ」と一人ぷんぷんと怒り始めた遥。


 シュートを決めた後のポーズを見て、「お前は、エリック・カントナか」と司。


「おおー、あっぶなーい。やっぱU-17のキャプテンだけあって最後まで気を抜けないわね」と遥。


「あと5cm下だったら入ってたな」と司。


「やっぱ、代表のキャプテンってすっげーなー」と健斗。


「さすがに、足が止まって来たわね。あっ、交代だ」と遥。


「うーん、青森大山田もやはり柴崎さんが居なくなると、さすがに迫力がなくなるなー」と健斗。


「まあ、フェアな条件だったら負けてたんじゃないか」と司。


「でも、フェアな条件だったらそもそもU-15の選手にU-17の選手と戦わせないでしょ」と莉子。


 まあ、確かに………


「ゴラッソ」と弥生。

「ゴラッソ」と莉子。

「ゴラッソ」と遥。

「ゴラッソ」と翔太。

「ゴラッソ」と健斗。

「ゴラッソ」と司の母ちゃん。

「ゴラッソーー」と春樹と陽菜ちゃん。

「ゴラッソ」と俺。

「ゴラッソ」と司の父ちゃん。


 えっ、司のとおちゃん!?!?


「いらっしゃーい」と司のとうちゃん。


「あー、おじゃましてまーす」とみんな。


「ただいま」と司。


「おかえり」と司のとうちゃん。


「頑張ったな」


「まあな」と司。


「なにがまあなだ、司。あっ、おじゃましてます」と俺。


「いらっしゃい、神児君。はい」といって俺達におじさんが白い箱を渡してくれた。


「えーっとコレって」まあ、大体想像は付いてるんですが……


「んっ?、お土産のケーキ。みんなで食べなさい」


 おおおー、そう言ってケーキの箱を開けると、色とりどりのケーキがこれでもかと。


「私、ガトーショコラ」と遥。

「私、レアチーズ」と莉子。

「俺、苺ショート」と司。

「僕、チョコムース」と翔太。

「私、イチジクのタルト」と弥生。

「僕、しゅーくりーむ」と春樹。

「やーん、ひな、もう、司君ちの子になるー」と陽菜ちゃん。

「こら、陽菜、なにいっとんねん」と優斗。

「あっ、すいません、俺、フランボワーズのムースいいですか?」


 いったん休憩。


 俺達は紅茶を入れてもらい、おじさんが買ってきたケーキを食べる。


「いやー、合宿、大変だったんだってー」とおじさん。


「はい、いま、ちょうど、試合を見ていたところで」


「ほほーう、じゃあ、後で私も見せてもらうかな」


 ちなみに陽菜ちゃんはアップルパイにバニラクリームを乗せて嬉しそうに召し上がってます。


 って、ほんとに明日から優斗のメシで満足できるのか?陽菜ちゃん。


 ちなみに優斗はメロンのショートケーキでした。


 そしてケーキを食べながらビデオを再開する。


「ほんと、あんた、このシュートだけは一級品よねー」としみじみと遥。


「それ以外も一級品のつもりだけど」と司。


「まあまあまあ。ってかほんとに勝っちまったんだな青森大山田セカンドに」と健斗。


「ねえ、母さん、コーヒー淹れてくれないかな?」と司のとうちゃん。

「はーい」

「あ、俺も」と司。

「じゃあ、すいません、俺も」と俺。


 そんな感じで司んちでの晩さん会は続いていった。

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