第144話 フットボーラー補完計画Ⅲ その2

「さっ、切り替えていこう」


 司がそう言うと、DF陣と健斗を呼ぶ。


「ラインの上げ下げの反応がまだ遅いんで、健斗入れてDFラインの練習しようと思って」


「だなー、確かに昨日の試合のビデオ見て、何本かオフサイド取れたシーンがあったもんなー」


「うーん、前半、まだどうなるか分からなかったんでちょっと慎重になりすぎちゃったんだよなー」と西田さん。


「まあ、次の試合先制したら、練習の意味も兼ねて、何本かオフサイドトラップを仕掛けて見ましょうよ」と司。


「りょうかーい」と拓郎と西田さんと武ちゃんの八西中のフラットスリー。



「じゃあ、やりますか、神児たまにはFWで入れよ」と司。


「まじでー!!」というわけで、ミニゲームでありますが久しぶりにFWで出場。


 やっぱ、このポジションってテンション上がるわ♪


「陸と優斗と翔、あと1年のFWはDFラインの横で神児と翔太がどんなふうに動くのか見ててくれ」


「はーい!」


 という訳で、オフサイドトラップの練習です。


                   ↑

   〇  〇  〇     ↓〇↓〇●↓〇

   武  西  拓  →   武●西神 拓

    ●   ●        翔

    翔   神



      ●               ●

      司               司


 と、上図のように司がボールを持った瞬間、ラインを上げる練習。


「どうする、最初はわざと引っかかるか?」と俺。


「うん、最初、2~3本は神児はわざと残ってオフサイド引っかかってくれ」と司。


 こんな感じで何本か引っかかってやったのち、どんどんと動きを上下の動きを速めてみる。


「ってか、これ、うちのチームでやってる練習そのまんまじゃんかよ」と健斗。


「そうだよ。だからお前呼んだんだよ、どうかな、健斗」と司。


 司ももちろんラインコントロールは出来るが、やはり普段から実戦で一緒にやっている人間がいてくれた方がやりやすい。


「うーん、やっぱ、まだビビりが入ってるなー」と健斗。


 確かに失敗したらあっという間にGKと1対1になってしまう。


「まあ、GK信じて、思いっきりあげてみ?、お前のとこのGK結構上手じゃん」と小6の時の順平のプレイを健斗はまだ覚えていたみたいだ。


「オッケー」と八西中フラットスリー。


 その後は健斗が入ったり、司が入ったりしながらラインコントロールの練習を重ねる。


 こういう練習は数をこなして継続して初めて成果が表れるのだ。


 そしてラストのしめはダイアゴナルランで入って来るFWを引っかける練習。


 ちなみにダイアゴナルランとは斜め走りの事。


 なぜ、DFラインの前を斜め走りするだけでこんなたいそうな名前になるのかというと、ずばりそう言った方がカッコいいからである!!


 もとい、本当に効果的に点が取れるからである。DFからしてみたら本当に厄介なのだ。


 つまりこんな感じです。


                

   〇  〇  〇   

   武  西 ↑拓    

   ↗     ●       

  ●      神

  翔 






 翔太が武ちゃんと西田さんの間を斜めに侵入する。


 すると、翔太を武ちゃんで止めるのか西田さんで止めるのか、一瞬迷う。


 これが一つ目の厄介。


 そして斜めに侵入するためにオフサイドに取りずらい。


 これが二つ目の厄介。


 そして斜めに入ってくることで、西田さんと拓郎の間にスルーパスを通すだけであっさりとGKとの1対1になってしまうのだ。


 つまり、FWの進入角度が付いているのでスルーパスを通しやすい。


 これが三つ目の厄介。


 さらに、DFラインの裏を取らずにその手前で真横にカットインしてシュートを打つこともできる。 


 これが四つ目の厄介。


 実際、この四つ目のパターンで得点するシーンが本当に多い。


 FWにとって必殺技とは言わないまでも、非情に有効な戦略である。


 ちなみに気付いた人はいるかな?


 司の必殺の左四五度からのシュートはこの動きです。分かった人には花丸をあげよう。


              

   〇  〇  〇   

   武  西  拓    

              

   ↗ → ⤴

  ●      

  翔 


 で、四番目の時ビビッてラインを下げ過ぎるとシュートコースが空き過ぎでDF間を通されてやられてしまう。


 という訳でどうするかというと、ビビらずに、ギリギリにラインを上げてコースを狭める。


 こんな感じです。



   武 西 拓      

   〇 〇 〇     

   ●↗ → ⤴

    翔   


 そしてこの状態になっても、翔太の野郎はここから必殺のダブルタッチが発動するのである。


 本当に敵のCBにとっては悪魔のようなFWだ。


 ちなみに、優斗もこの形を得意としている。


 ここら辺の中学レベルなら向かうところ敵なしなのだが、翔太と比べるとやはり二枚も三枚も切れ味は落ちる。


 そしてその事を本人も自覚しているのが優斗のフットボーラーとしての優れた点だ。


 自分の能力を客観的に見ることが出来る。


 すぐ目の前に、自分と全く同じタイプのこの世代最強のFWがいたのも幸いだったかもしれない。


 とにかく自分の能力を客観的に自覚して、どうすればいいのかを考えられるプレイヤーは成長するのだ。


 この後、翔太と優斗が交代しながらこの練習を繰り返す。


 おまけに優斗の時には、真ん中の西田さんの代わりに健斗が変わってくれるというおまけつき。


「いやー、お前ら、贅沢な練習してるなー」と健斗もつくづく感心していた。


 ちなみに俺がFWの時は、カットインする前にゴールに向かって思いっきりぶち込むってことをやっていた。


 なんか文句がありますか?


 この練習はここ最近のヒットだったのか、一年生も控えの選手達も我も我もと率先してチャレンジしてくる。


 気が付いたら司もシュートを打ったり、ラインに入ったり、二つのゴールを使って夢中に練習した。


 そして最後は紅白戦。


 健斗と翔太が分かれてバッチバチの試合が始まる。


 互いにオフサイドに引っ掛けたり、得点を決めたりしているうちに、あ

っという間に時間が過ぎて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る