第137話 Jヴィレッジにようこそ!! その5
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周囲のみんなはまだ幾分緩い空気が流れている。
ヤバイヤバイヤバイ、今、日本で最も勝ちに飢えているユース年代のチーム、一瞬でも気を抜いたらやられちまうぞお前ら。
すると司はすぐに翔太を呼び寄せて、「うちのユースよりヤバいぞここ」と耳打ちする。
司ののっぴきならない様子を見て、すぐに何かを察した翔太。途端に表情が引き締まった。
すると、監督が1本目のメンバーを発表する。「中島ー、富安ー、岩山ー、…………」
どうやらメンバーを見るとこれまでのレギュラー陣が呼ばれている。
ホッと胸を撫で落とす俺達。とりあえず、戦う前にどのくらいの力を持ったチームなのか見ることが出来た。
U-15のチーム全体に、トップチームが来ないでほんと良かった……と心の奥底にあった甘い気持ちが、試合開始直後の柴崎学の弾丸ミドルで木っ端みじんに吹っ飛んだ。
J1の試合でもなかなか見ることのできないえっぐいミドル。なにガッ君、こんな時代からそれ打てたんだー。
数年後、リーガエスパニョーラのデビュー戦でバルサにぶち込んだ奴と遜色がない。ゴラッソ、ガッ君!!
そのころになると、ベンチのみんなも青森大山田の攻撃のタクトを振るっているのが現U-17日本代表のキャプテンだということに気付き始める。
「なんで?なんで?なんで?なんであの人がここにいるの?」
「ここはU-15の合宿だぞ、帰っておくれ」
「もしかして、あの人に勝てたらU-17に飛び級とかあったりするの?」
ベンチも完璧に浮足立っている。
「プレス当たれ、プレス」
「何やってんだ!、抜かれるくらいならユニフォーム掴めよ!!」
「止められないなら、ファールで止めろー!!」
ピッチ内でU-15のみんなの怒声が響く。
完璧にパニック状態に陥った選手たちを、手加減も躊躇もなく叩き伏せる青森大山田セカンド。
まず、1対1で全く勝てないのが痛い。という訳で、何とか2対1に持ち込もうとするのだけど、そうなると人数が薄くなったところを、司令塔のガッ君がピンポイントで突いてくる。
あー、このパスセンスは高校時代からあったんだー。すっごーい。悔しさや恐ろしさを飛び越えて、もう賞賛しかない。
汗をかくのを厭わない献身的な守備。中盤でのコレクティブなパス回し。そして決め切るときにちゃんと決める決定力。
理想的なチーム作りとはこういうことを言うんだよなー。
指導者目線でどうやったらこのようなチームを作り上げれるのか真剣に考えてしまった。
やばいやばい、この後、ここと戦うんだよな、俺達。
40分後、プッシューと体のあちこちから煙を上げながら引き上げてきたU-15のレギュラーメンバーのみんな。
何回か効果的な攻撃は出来たのだが、それ以上に青森大山田セカンドにこってんぱんにやられてしまった。
40分で5-0。爪痕すら残せなかったU-15代表。大半が戦意喪失している中、翔太をはじめとする何人かの選手はまだ心が折れてなかった。
「くっそー、司君とのコンビプレイなら1点くらいどうにかなったのに」と本当に悔しそうな翔太。
代表の10番を背負うメンタルってこういうものかと感服した。20分の休憩をはさんで2本目が始まる。
「鳴瀬ー、北里ー、お前ら右と左のサイドバック」
「「ハイ!!」」
半分以上のメンバーは変わったが翔太はそのまま2本目も出場となった。
本人もやる気満々、どうやら是が非でも青森大山田セカンドから1点をもぎ取りたいらしい。
分かったよ、翔太、及ばずながらこの鳴瀬神児もお手伝いするぜ。
すると、1本目でU-15のレギュラーメンバーをチンチンにしてしまったのか、立ち上がりは思いのほかゆったりとした青森大山田セカンド。
もしかしたら、向こうの監督から少しは受けに回ってやれとでも言ってくれたのかもしれない。
ありがとう、じゃあ、お言葉に甘えて……俺はプレスが緩い事をいいことにスルスルと内に切れ込むと、ゴール手前30mの場所から、さっきのお返しとばかりに渾身の左ミドルをぶち込んでやった。
左足からボールの芯を打ち抜いた確かな感触が!
すると、不規則にブレたボールはキーパーの手をはじき、クロスバーを叩いた。
くやしーぃぃぃ!!、あと、ボール一つ分。しかし、この試合初めてのコーナーキックを取った。
当たり前のようにボールを持ってコーナーアークに向かう俺。
さすがに浮足立つ青森大山田セカンドの皆さん、さあ、開始直後のどさくさに紛れて、1点ぶんどろうぜ、翔太。
俺はボールをセットすると、すぐさま右足のアウトスイングでボールを蹴る。
たった今左足で弾丸ミドルを打ったばかりだから、当然のように左足のインスイングでボールを蹴ってくると思っていた青森大山田セカンドのDF陣のマークがズレる。
すると、機転を聞かして大外から走り込んできた司が意地のヘディングシュート。
しかし、あともう一歩のところで敵GKにはじかれると、そのボールがペナルティーエリアの外で待ち構えていた翔太の足元にすっぽり収まった。
こんなチャンス、この試合もうねーぞ、翔太、決めちまえ!!。
すると、翔太もそう感じたのか、遠くで見てる俺すらも引っかかるような渾身のシュートフェイント三連発からの一気に縦に抜けてのダブルタッチ。
今自分の持っている武器を出し惜しみすることなく使い切ると、たまらず敵ディフェンダーが翔太の足を引っかけてPKゲットだぜー!!
おっしゃー!!とガッツポーズをする翔太と俺。
味方GKの小島君も膝をついて両手を上げている。
すると、翔太はボールを抱えると司のもとに真っ先に走る。
「俺でいいのか?」
「司君しかいない」
きっとこんなやり取りをしているのだろう。
二人で何か話し合うと、司がペナルティースポットにボールをセットする。
司を中心にして静寂が広がっていく。能面のように無表情になる司。
よしいつもの司だ間違いない。
すると瞬きすらしないまま、まっすぐとキーパーの目を射抜くように見つめながら、ゴール右隅に決めた。
大げさに騒ぐこともなく静かに闘志をみなぎらせる司。
青森大山田セカンドから1点をもぎ取った。
直後、監督からのメンバー交代。翔太をはじめ1本目から残っていた選手が次々と交代すると、川崎の4人がピッチの中に入って来た。
さあ、将来の日本代表4人に対して、高校サッカー界最強の2軍はどう対処するのだろうか。
青森大山田セカンドのキックオフから試合が再開する。
しかし、そこから再び一方的な展開となる。どうやら、思いっきしトラのしっぽを踏んでしまったらしい。
とにかく俺も司もDFラインから全く上がれなくなってしまった。
せっかく入った川崎の4人もブロックに吸収されてしまい、かろうじて三苫君がカウンター要因として敵のDFラインに張っているくらいだ。
しかし、三苫君もいつまでもボールを触れないとあっていつの間にかブロックに吸収され、ひたすら青森大山田セカンドの攻撃を耐え続ける時間が続いていく。
すると、10分過ぎにアーリークロスからのシンプルなヘディングで2本目を同点にされると、決壊した堤防のようにそのまま立て続けに2失点。
やはり、1対1で勝てないというのが大きすぎる。
すると未来の日本代表から3点をもぎ取り少しは腹が膨れたのか、青森大山田セカンドの激しいプレスが落ち着くと、幾分試合のペースが落ち着いてきた。
結局、試合の主導権を握られたままなのだ。……くやしい。
しかし、スペースが出来ればそう簡単に三苫エキスプレスは止められない。
司のドンピシャのスルーパスに三苫君が反応すると、青森大山田のDF陣を抜いて抜いて抜きまくる三苫君。うーん、かっこいい!!
惜しいシュートを何本も打つのだが、それでも、最後の1ピースが足りない。
俺は司が上がったのに合わせて、スライドしてDFラインから応援する。
もっとラインを上げたいのは山々だが、1対1で勝てない現状ではDFラインからの縦一本であっさり失点しかねないのだ。
すると高柳監督が、ボランチを1枚下げて、トップ下にSC東京の大竹君を入れてきた。
フォーメーションが4-3-3から4-2-3-1に変わる。青森大山田セカンドから是が非でも、もう1点もぎ取ろうとしているらしい。
トップ下に入った大竹さんに青森大山田セカンドのダブルボランチがガンガンと体を当てに来る。
司からボールが入ると体を呈して必死にキープしながら三苫君にパス。
自身もペナルティーエリアに侵入すると、ゴールラインをえぐった三苫君の折り返しに、体を倒れ込みながらの執念のシュート。
するとキーパーの手をすり抜けて、コロコロとゴール左隅に転がり念願の2点目をもぎ取ることが出来た。
司と三苫君と大竹君の三人が抱き合って互いのプレイを称え合う。
その輪の中に入れないことにちょっとジェラシーを感じる俺。
しかし、その様子をこれ以上ないくらいおっかない顔で睨みつける柴崎学君。
どうやら、魔王の逆鱗に触れてしまったみたいだ。
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