第113話 なにわのガウショ その5
部室に戻ると司は予備のスパイクが入っている段ボールを優斗君に見せる。
「なっ……なんや、こりゃ」と優斗君。
「ああ、部員の履かなくなったスパイク。サイズが合わなくなった奴とか結構あるんだ」と司。
「プレデターにエックススピードにヴァイパーって、より取り見取りや。あっ、ネイマールモデルまであるやんか!!」と驚きを隠しきれない優斗君。
「とりあえず、サイズ合うのあるかな?」と司。
「えーっと、これでええか?」と優斗君はミズノのスパイクを手に取った。
「ためしに履いて見ろよ」と司。
司に促されて予備のスパイクを履いてみる……と、「うん、めっちゃピッタリや。まあ、今履いてるスパイクと同じモデルやからな」と優斗君。
「だったら、それ、持って帰っていいぞ」と司。
「ホンマか!!」と喜ぶ優斗君、でも、一瞬の後「いや、別に俺、コジキちゃうから、コレちゃんとカネ払うさかい」と……
「あ……そう、まあ、別にいいけど」と司。
「ってか、神児、このスパイク誰のだっけ?」
「えーっと、確か、拓郎のじゃないの、それ?」と俺。
司は部室のドアを開け「おーい、拓郎ー、ちょっと来ーい」と声を掛けると、外周を走ってヘロヘロになった拓郎がやって来た。
「な、なんなのねー、司君」とヘロヘロになりながら拓郎。
「これ、お前のスパイクだよな」と優斗君が履いているスパイクを指さした。
「あっ、そうそう、コレ、僕の。でも、サイズが合わないからもう履かないのよねー」と椅子に座ってポカリを飲み始めた拓郎。すっかりくつろぎモードに入っている。
「じゃあ、履かないんだったら、コレ、優斗に売ってやれよ」と司。
「うん、いいよー」とニコニコの拓郎。予定外のお小遣いが入るとあって嬉しそうだ。
「えっと、いくらくらいするんですか?」と心配そうな優斗君。
すると拓郎、「うん、2000円ポッキリでいいよー」にっこにこの拓郎と……
「えっ、そんな安いわけないやろ」と優斗君が怪訝な顔を見せた瞬間、パッカーンといきなり拓郎の頭をはたく司。
「そんな高いわけねーだろ!!」と司。
「えっ、なにこれ、パチもんなの?」と優斗君。
「いやいやいやいや、ちゃんとした正規品よ、ヤフオクで落としたけど、ちゃんとロゴもタグもあってるから」と司。
「ヤフオク?なんや?ソレ」
「ヤフーオークション知らないか?」と司。
「あー、聞いたことあるある」と優斗君。
「うちの親父がやってるんだ。ヤフオク。で、時たま掘り出し物があると、頼まれて落としてやってるのよ」と司。
「えー、そんなことやってもええんですか?」と優斗君。
「まあ、グレーだ」と司。
「うん、グレーだ」と俺。
「でも、まあ、1000円以上するものには手を出してないから」
「えっ、これ、1000円しないんですか」と優斗君。
「おまえ、コレ、いくらだったよ」と司。
「送料込みで880円」と申し訳なさそうに拓郎。
「サッカー部の仲間から儲けようとしてんじゃねーよタコ!!」と司。
「ごめんなさいなのね」と拓郎。
「ってか、なんでそんなに安いん?コレ」とスパイクを見ながら優斗君。
「あー、ほら、ここ、ここだけ色が薄くなっちゃってんじゃん」
「あー……確かに」
「これ、展示品で左足だけ店頭に出してたら色が変色しちゃったんだよ、多分」
「へー……まあ、別に気にならへんけどね」
「ヤフオクにスポーツ用品店での展示品なんかが格安で良くでてるんだよ。新古品ってやつ?」
「へぇー、そうなんやー」と感心する優斗君。
「まあ、普通に売り物にならないからな、変色しちゃったら、でも、履いて使う分には関係ないだろ」
「まあ、確かに、それに言われんかったらわからへんし」
「あと、買ってはみたものの、実際に履いてプレーしたら違ってたとかそういうの結構格安で出てるんだよ。で、気になったモデルが出てたんで、俺が拓郎にお願いされて、親父に頼んだってわけ」
「はー……そうなんか?」
「でも、そんな高額なのは落とさないぞ、せいぜい1000円までって決めてんの」
「すごいなー」と目をパチクリの優斗君。
「じゃあ、明日1000円もってきますわ。そんくらいなら家帰ればあるし」と優斗君。
「いや、コレ一回履いてるから1000円なんかいらないよな!」と拓郎に強要する司。
「……はい」となにか言いたげな拓郎。でも何か言ったら次からヤフオクで落としてくれなくなりそうなので何も言えなさそうだ。
「500円で良くない?どうせ段ボールに入れっぱだったんだし」と司。
「……はい」と拓郎。
「じゃあ、500円ってことで」としおしおの顔で優斗君に言う拓郎。
「な、なんかわるいなー」と優斗君。「そや、500円やったら今あるで」そういってカバンの中から500円玉を取り出すと拓郎に渡す。
「ほな、はい、500円」
「あ、ども、ありがとう」と500円を受け取る拓郎。
「そういや、拓郎、優斗の歓迎会やるんだけれど来るよな」
「う、うん」と拓郎。
「じゃあ、とりあえず、会費先にもらっとくわ」と拓郎の手のひらにあった500円を取り上げる司。
「ほかに掛かるようだったらまたあとで請求すっから。じゃあ行くぞ」と言って、優斗君と拓郎を引き連れグラウンドに戻っていった。
キツネにつままれたような顔の拓郎。
まあ物の売買で設けたりするのは、大人になってからでもいいよね。
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