第52話 プレジデントがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! その4

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 その翌日、俺たちは神谷さんに断りを入れてから、さっそくビクトリーズの練習に参加した。


 やはり反応は学校の時と大体一緒だった。


 司ももう慣れてしまったのか、ひょうひょうとしているが……


 とりあえず、現キャプテンの三岳健斗は目を真ん丸にして開いた口が塞がらないみたいだ。



「ど、ど、どうしちまったんだ、一体……」


「膝痛くって、動かなくなったら、太った」端的に今の自分の状況を説明する。


 まあ、それ以上のことは蛇足だもんな。


「太ったって、ものには限度があるだろう」


「いやー、ご飯が美味しくってさー」そういいながら、恥ずかしそうにテレテレ。


「そんなんで、サッカーできんのかよ」と虎太郎。


「いやー、それがなかなか、結構できましてー」と恥ずかしそうに答える。


「これがあの、北里司?話聞いてたのとぜんぜんイメージちがうんだけど」とジュニアユースからビクトリーズに入った磯貝が目を真ん丸にする。


「あ、どうも、初めまして、北里司ともうします」そういって、丁寧にあいさつする司。



 唯一、翔太だけが、前と変わらず、「わーい、司君、ひさしぶりー」と言って司のまんまるのお腹に抱きついてきた。


 遥が隣のコートから心配そうに見つめている。


 そして、困った顔して、ジュニアユースの監督の大下さんがやってきた。



「おう、北里、久しぶりだな。膝の調子はどうだ?」と監督。


「はい、おかげさまで、先日、やっと医者からオッケーが出ました」とはきはき答える司。


「というか、ずいぶんとでっかくなったなー」と上から下から司のフォルムをじろじろ見る大下監督。そういや、最後に会ってから身長20cm以上でっかくなってんじゃねーの?


 ちなみに体重は30㌔以上だけれどな…………


「で、サッカーできるのか?」と仲間内の誰もが聞きずらかったことを、監督自ら聞いてきた。


「ええ、おかげさまで、なんか、そこそこできまして……」そういうと、恥ずかしそうに頭を掻く司。


「ってか、そんだけ、体重増えて、膝大丈夫?」本当に心配そうな大下監督。


「大丈夫です。それに、今日から必死に体重落としてますから、すぐに元の体になります」ときっぱりと宣言する司。



 俺は初耳だぞ、そんなこと。それにおまえ、今日、給食、おかわりしてたよな。たしか……


 すると、司は鼻歌交じり、みんなと一緒にピッチに入る。


 …………15分後、最初のアップで息を切らせて膝をつく司。


「ア、アレ……ちょっと、おかしいな」そう言いながら、息ぜーぜー。


 そりゃ、中学のユルユルアップとは全然違いますし……ってか、おまえ本当に大丈夫なんか?


 ちなみに、俺も、膝の調子のことを監督に話して、別メニューになっている。


 そして、監督のご厚意で、司も俺と一緒の別メニュー。


「おまえ、本当に大丈夫かよ」


「イメージでは大丈夫」


「いったいどんなイメージなんだよ」


 と、ここで、全体練習がランニング系からパス回しの練習に入る。


「司、戻ってこーい」と三岳君から声がかかった。


「はーい」そういいながらボインボインと体を揺らしてピッチに戻る司。


 お前、ホントに、大丈夫なんか?と心配しつつ、俺は一人、ピッチの外から司の成り行きを見守った。


 すると、意外や意外、パス回しやミニゲームになると途端に存在感を現す司。


 まあ、丁寧なパスは折り紙付きだからねー。そして、考えに考えて、必要最低限の動きしかしない司。



 ふわふわと動いて、ちょうどいい所にいつの間にか立っている。


 まあ、その分、守備は全然だけれどな……お前確か、左サイドバックだったよなポジション。


 そして、サブ組との試合形式の練習が始まると、開始10分もたたないうちに健斗からダメ出しが出た。



「監督、監督、監督ー」と大声上げる健斗。「こいつ、ぜんぜん、守備に戻ってこれないんで試合になんないっすー」


「ご、ごめんね、三岳君」汗をふきふき、司は平謝り。


 まあ、見てたけれど、司の守備はひどい有様だった。


 翔太がボールを持って一緒に上がっても、一人だけ戻ってこれない司。


 ぽっかりと空いた司の裏のスペースに、相手チームはボールを入れ放題。


 やっぱ、部活のサッカーとは勝手が全然ちがうよなー。

 

 司はピッチサイドで膝をついて、ぜはぜはぜはぜは。こいつ死ぬんじゃないの?って思っちゃうくらい苦しそうに呼吸してる。


「とにかくお前の今の体じゃ、ゲームについてこれないだろ」と司に諭すようにいう健斗。


「ごっ、ごっ、ごべんなさいね」と司は必死で何とかそう答える。


 そしてあからさまにガッカリしている磯貝君が、「これが噂の北里司なのー」と周りの皆に聞いていた。


 もっとも、聞かれた人たちも、なんといっていいか分からないみたいだ。


 まあ、正直言って全盛期の輝きの欠片も無かった。


 しょうがないさ司。膝の怪我直してピッチに帰ってきただけでも立派なもんだよ。


 だってそうだろ、前の世界のお前は、ここに帰って来ることすらできなかったんだから。


 俺と一緒に体を作り直そうぜ。最後まで付き合ってやるから。


 俺はそう思い、司を慰めに行こうとすると……



「でも、ラストパスだけは相変わらずドンピシャなんだよなー」と虎太郎。


「うん、攻撃の時、きれいなワンツーできたし」と翔太。


「俺もビクトリーズでずーっとサイドバックやってるけれど、あんなきれいなサイドチェンジ初めてもらったよ」と右サイドバックの涼(リョウ)君が……


 おやおや攻撃面に関しては意外や意外、及第点をもらっている。


 大下監督も腕を組んでいる。せっかく10か月ぶりに戻って来た司を、たったの30分そこそこで見限っちゃうのも可哀そうと思ったのだろう。



 すると監督が、「じゃあさー、司、お前、トップに入って見ろよ」と。


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