第51話 プレジデントがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! その3
「プ、プ、プ、プ、ピー」膝に付けている電気マッサージのタイマーがなった。
ここは俺たちの行きつけの整形外科。クラブが終わると足早に俺たちはここにやってきた。
俺の横で一緒に電気マッサージを受ける司。
「……アレ、もしかして、怒ってる?神児君」
「いや……別に、」正直怒ってないが、機嫌は悪い。
なんか、司に全部いいとこどりされちゃったような、しかも、みんなの前で叱られるし……
「まあ、まあ、まあ、機嫌直せよ」そういうと、司はポッケからチーズかまぼこを出した。
二人で電気マッサージを受けながら、もぐもぐとチーカマを食べる。シュールな光景だ。
そこに、「おおう、司、今日、部活やったんだってな?」と服部先生。ここの整形外科の医院長先生だ。
「あっ、ハイ、おかげさまで」そういって、司は頭をぺこりと下げる。
「どれどれ、ちょっと、見せてみ」服部先生はそう言うとマジックテープで止めている電気マッサージのパットを外すと、司の左ひざをもみもみ……
司もちょっと緊張している。
「うん、そんなに腫れてないな、よしよし、今日くらいの強度の練習なら大丈夫だぞ、司」そう言って、司の膝を揉み続ける。
先生の言葉を聞いて一安心した表情を見せる司。俺もほっと胸をなでおろす。
すると、俺の電気マッサージ機のタイマーがなった。
先生が今度は俺の方に来て、パットを外すと左ひざをマッサージしてくれた。
途端にちょっと険しい顔になる。
「なあ、神児、膝、痛くなってるか?」……やっぱり全部お見通しなんだ。
「……はい」と俺。
司も心配そうな顔になる。
「うーん……まあ、司ほどひどくはないが、この先を考えたら、ちょっとサッカーは控えておいた方がいいかもなー」と……。
先生の言葉にがっくりと肩を落とす俺。
「まあ、でも、司よりはだいぶましだから、日常生活送るくらいなら支障はないとおもうが……」と先生。
覚悟してたとは言え、司が戻ってきたこのタイミングでか……と正直思った。
「神児、ここは絶対に無理をするな」と先生以上の険しい顔で俺に言う司。
まあ、でも、これから先の過ごし方を司が身をもって教えてくれたと言えば、多少は救われるか……デブになるのだけは勘弁だけれど……
その後、俺たちは司の家に言った。
なにやら、司のかーちゃんがどうしても俺と話がしたいんだとさ……まあ、大体は予想はついているけどさ。
部活が終わってから、医者に通って、司の家に着いたら6時半を回っていた。ちょうど腹が減って来る時間だ。
「ただいまー、神児連れてきたよー」そういって司は家の中に入る。
「おじゃましまーす」と言って俺も司の後についていく。そしてそのまま司の部屋がある2階にあがろうとしたのだが、
「あー、神児君、こっち、こっち」と司の母ちゃんから呼ばれた。
まあ、なんとなくは想像はついていたのだが……すると、司の母ちゃんは、俺の手を握りしめて、感謝感激、今にも涙をこぼしそうな勢いでお礼を言ってくる。
「ありがとうねー、神児君、神児君が司を見捨てないでいてくれたおかげで、学校に通えるようになって……」と。
いや、正直、俺のおかげじゃないし、別に俺いなくても司は学校に戻ってましたよと思ったが、まあ、そう言っちゃうのも野暮だと思い、司の母ちゃんからの感謝を素直に受け取った。
みると司も、「悪りーな、神児」という顔をしてた。貸一回だぞ、司。
「でね、神児君、よかったら、司が学校に通い出したお祝いで、ごちそう作ったんだけれど、一緒にご飯、食べてってくれるかな?」と。
そういう話でしたら、お母さま、この不肖、鳴瀬神児、及ばずながら、本日のご夕飯をご相伴させていただきます。
司を見ると、「まっ、そういう事だから」と言った感じで笑っていた。
というわけで、リビングキッチンに通されると、そこにはテーブル一杯のごちそうが。
あまりの豪華さに目がくらむ。
と、そこで、やはり前の世界から合わせて27歳の鳴瀬神児は、携帯電話を取り出して、「ちょっと、お母さんに、今日晩御飯大丈夫だからって連絡してきていいですか?」と司の母ちゃんに声を掛ける。
「もちろん、もちろん」と頷く司の母ちゃん。
俺は、とりあえず、俺の母さんに電話をすると、「分かったわ神児、ところでお土産持ってこれそう?」と……まあちゃっかりしてるわ。
「大丈夫、いっぱい持って帰れそうだよ」と言ったら、「ラッキー、じゃあ、晩御飯食べないで待ってるから早く帰って来てね」だと……我が母ながらしっかりしてるわ。
そして、もう一人にも……「あのー、おばさん、よかったら、遥も呼んでもいいですか?」と。
まあ、遥も司のこといろいろサポートしてくれてたし。
「そうよね、そうよね。遥ちゃんも呼ばなくっちゃ、やだ、私、うっかりしてたわ」と。
というわけで、すぐに遥に電話。
すると、「今すぐ行くから、私が着くまで、ごちそうには手を付けるんじゃないわよ」とおあずけを食らってしまった。
目の前には俺のことを待っていてくれたローストビーフちゃん。もう少しまっててね。
五分後、本当にすぐ来た遥、しかも手には、季節外れのメロンまで持ってきてる。
「あ、おばさん、これ、お礼とお祝い、司、よかったですね」とそつのない遥。こういうところから嫁と姑の関係って良好になって行くのだなーと勉強になります。ハイ。
というわけで、そうこうしているうちに司のとーちゃんまで帰って来て、みんな揃って、司の復学パーティー(復学であってるんだっけ?)が始まった。
実は司の母ちゃんは、料理学校の先生をやってるって言ってたんだけれど、空いている時間や学校の休み期間などは、自宅で個人的に料理教室も開いている。
キッチンもそこら辺のレストランに負けてない設備だし、生徒の皆さんと食事ができるくらいのテーブルも備え付けてある。
そして、今日はそこには、ローストビーフにサーモンのテリーヌ、司の大好きなヴィシソワーズっていうジャガイモのスープにオードブルの数々、おまけになぜだかアワビとフカヒレの姿煮まである。
おや、お母さん、中華まで手を出してらっしゃるのですね。
おばさんも俺の視線に気づいたのか、「ずーっと倉庫で熟成させてたフカヒレとアワビの干物、使っちゃったの。良かったら食べてね、神児君」
はい、よろこんで、まあ、唯一の残念と言ったら、ビールとワインを飲めないところか……まあ、それはしゃーねーか。
そんな、こんなで、いただきまーす!!
「うわっ、このローストビーフ、いつもより柔らかいですねー」
「今日はちょっと気合を入れちゃって、黒毛和牛のリブロースでつくっちゃったのよ、神児君」
「こりゃ、うまーい!!」
「そうそう、今日作った料理の中で、実はこれが一番高価なの」
「アワビですか?これ」
「なにこれ、柔らかすぎるじゃない、お母さん、おかわりいただけますか?」
「はいはい、好きなだけ食べちゃって」
「おばさん、このサーモンの上に乗っかってる粒粒って」
「キャビアじゃなくて?」
「いや、この緑の粒」
「ああ、それ、ケイパーっていって、菜の花の実のピクルスなのよ」
「へー、神児君、大人の味、わかってるね」
「ところで、この黒いスライスって」
「ああ、フォアグラの中に入ってるトリュフだろ」
「これが、トリュフ、初めて食べたー」
「ってか、このエビグラタン、いつもよりもエビでっかくないですか?」
「ちょっと贅沢しちゃって、今日はオマールエビを使ってみたの。お口に合う?」
「めっちゃおいしーです」
「いっぱい食べてねー」
「はい!!」
「でも、こうやって、司がまた学校を通ってくれるようになったのは神児君のおかげだよ」
「いや、司君だったら、俺がいなくても学校に戻ってましたって」
「どーだか、だって、ぐーたらじゃん、司」
「ひでーな、ちゃんと戻ってましたよ」
「お母さん、このフライドチキン、相変わらず絶品ですね。どうやって作るんですか?」
「ああ、じゃあ、後でレシピ渡しとくわね……」
「でも、神児君とこうやってご飯を食べるようになって、うちの子好き嫌いぜんぜんいわなくなったのよー。ほんと感謝しかないわ」
「あれ、俺そんなに好き嫌い多かったっけ?」
「多いじゃないの、やれ、生野菜なんて人が食べるものじゃないとか、骨のある魚は魚じゃないとか、脂っこい肉は肉じゃないとか」
「あーあーあー、確か、昔は言ってたなー」
「それなのに、今じゃ、好き嫌いなんて全然なくなって、いくらでも食べれるようになって」
「それは、ちょっと、まずいんじゃないですかー?」と……
「そりゃ、そーだー」
「あはははー」
そんな感じで、司の復学祝いの晩さん会はいつまでも続いた。
途中で、お母さんから「あんた、いつ、帰ってくんのよ!!」と連絡がはいるまで………
そうして、両手いっぱいのお土産を持たされ、俺は家路についた。
https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330663835823289
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