第33話 限りなく透明に近いSUMURAIブルー その1

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「ヌル、アインヌ、ツヴァイ、ドライ、フィーア」


「ふーん、そんなことがあったのねー」と遥。



「フンヌ、ゼクス、ズィーベン、アハト、ノイン」


「ああ、司の自己紹介、地獄だったぞ」



「ツェーン、エルフ、ツヴェルフ」


「まあ、心臓に毛、生えてるからね、こいつ」


「そりゃ、そーだ」と俺はゲラゲラ笑う。



「うっせーな、ちゃんと、勉強しろよ!!」と司。



「ハイハイ、ミナサン、シュウチュウ、シュウチュウ」とクライマーさん。


「デハ、ツギハ、アルファベット イキマース」



「アー、ベー、ツェー、デー」


「ってか、フリッパーズと、ビクトリーズの試合、見たの?」


「ああ、えっぐいよ、例の4人」



「エー、エフ、ゲー、ハー」


「結局スコア、何対何よ」


「6-3のダブルスコア」



「イー、ヨット、カー、エル」


「また、随分と、やられちゃったわねー」


「でも、3点取れただけましだよ」



「エム、エン、オー、ペー」


「へー、その3点て、誰取ったの?」


「なんと、翔太のハットトリック」



「クー、エル、エス、テー」


「おおおー、すごーい、今度会ったら褒めてつかわす」


「うん、あいつだけ最後まで戦ってたよ」



「エス、テー、ウー、ファオ」


「で、どうだったよ、ビクトリーズの練習」


「まあ、基本、うちでやってることと変わんないんだけれど、練習の強度がちがうよねー」



「ヴェー、イックス、ユップスィロン、ツェット」


「なるほどねー、強度かー」


「練習とかでも、平気でガツガツ当たってくる」



「だから、お前ら勉強しないんなら帰れよー!!」と司。


 実はここ、クライマーコーチの家、先日から司の提案でドイツ語を習っている。


 最初は、俺と司だけだったんだけれど、遥にその事話したら「あら、やだ、面白そう、私も混ぜなさいよ」と……


 ちなみに、さっきからドイツ語を練習してるのは司、数字とアルファベットを言っている。

 さあ、何がどれだか、お暇な人は調べてみてね。



 というわけで、夏休み最後の週。

 まだまだ、残暑が厳しい中だけれど、プールにサッカーにドイツ語と、大忙しの俺と司。

 そうそう、ちゃんと宿題もやってますよ。


「デハ、ミナサーン、オヤツノジカンニシマショー」


「やったー」と遥。


「ったく、何しにきてんだか」と司。


 まあまあ、いいじゃん、夏休みに入って、あんまし遥に会えないってブツブツ文句言ってたんだから。


 おー、見ると、お皿の上にはボールのバームクーヘンが……さすがはドイツ人のクライマーさん、やっぱ、お菓子と言ったらバームクーヘンなのか。


「コノマエ、ブンメイドウノコウジョウイッタラ、トッテモ オイシクッテ オドロキマシタ バームクーヘン ハジメテデース」


「……おやっ?」


 すると、クライマーさんの奥様のカミラさん。


「はいはい、夏休みなのに、お勉強えらいねー、いっぱいどうぞ」そういって、みんなにバームクーヘンを切り分けてくれる。


 俺たちはカミラさんが入れてくれたミルクティーを飲みながらのお茶会が始まる。


「そうそう、あんたら、希望のポジションって、右サイドバックと左サイドバックなんだって?」


「う、うん」と俺。

「まあなー」と司。


「いやー、てっきり、トップ下とフォワードだと思ったんで驚いたわ」と遥はバームクーヘンをパクパク食べる。「あらやだ、コレおいしー」


 まあ、俺も、最初、司から提案された時は、サイドバックー!!と思ったんだ。


 まあ、現役の最後の方は右サイドバックでゲームに出てたけれど、司までもが、サイドバック……しかも、左の?と、ちょっと驚いちゃった。


 てっきり、俺は、トップ下かボランチをやるかと思ったんだけれど……



 まあ、それに関しては、この夏休み、いやって程話し合った。


 どうやら、この世界に来てしまい、そう簡単に帰れなくなってしまったのが分かってきたので、本腰据えてこの世界でサッカーに取り組もうと思ったんだ。

 

 で、ここからは、司の考えなんだけれど、


「なあ、神児、お前のこの世界での最終的な目標って、なによ?」って司に聞かれたので、


「俺はお前とワールドカップに出たい」と言ったんだ。


 夢のような話だと思うけれど、俺の目の前にいる、翔太が、健斗が、そして川崎の4人が、日の丸のユニフォームにそでを通す未来を知っているんだ。


 もう、この想いは止められない。

 

 俺は改めて行ったんだ。

「お前と一緒にワールドカップに出たい」と。


 司は「わかった」と言ってくれた。



「では、お前に質問だが、お前はワールドカップ、どのポジションで出たいんだよ」と司から質問された。


 俺は、はたと口が止まってしまった。


 確かに、俺はビクトリーズのユースに上がれなくなった後、地元のサッカー強豪高校に進学した。


 そこには橋田さんの力添えもあったし、正直、元ビクトリーズジュニアユースの看板はありがたかった。


 

 1年の春からレギュラーで試合にも出させてもらった。


 ポジションもFWからDFまで、やってないポジションはセンターバックとゴールキーパぐらいだった。


 戦術によって、相手によって、チームの事情によって、俺は様々なポジションを割り当てられた。


 

 幸いなことに3年の時にはインターハイと冬の選手権にも出場することができ、憧れの国立のピッチにも立てることが出来た。


 そして、そのおかげで、名門の筑波大学にも入学することが出来たのだ。そう考えれば、けっこう幸せなサッカー人生だと思う。



 もっとも、ビクトリーズの同期の奴らは、俺よりも一つも二つも上のカテゴリーで戦っていた。


 そして俺は、どうしてもその夢を捨てきれなくて、あらゆるJのクラブを回り、やっと卒業間近に、地元の八王子SCと契約することが出来たのだ。


 

 手取り10万そこそこ、それ以外の収入はジュニアのコーチの補助やチーム運営の事務仕事、会社も10万そこそこしか払えないのが申し訳ないと思ったのか、サッカー以外にも、系列企業での短期の仕事を色々と回してくれた。


 なんてったって、シーズンオフには給料が出ないからだ。


 

 幸いなことに、同じ大学に入った司のアドバイスで、在学中に小中高の教員免許を頑張って取っておいたのが役に立った。


 ジュニアやジュニアユースのサッカーのコーチ以外にも、短期での家庭教師や塾講師などの仕事も回してくれた。


 スポンサーさんに地元の塾などがいてくれていたおかげだ。


 ちなみに司は一般入試で筑波に入った。そこでも、元ビクトリーズのジュニアユースという肩書のおかげで、チームのマネジメントや対戦相手の分析など、司は裏方の仕事をやってくれた。


 確か司は、総合職として八王子SCに就職したはずだ。俺みたいな1年ごとの契約とはわけが違うのだ。

  

 そうそう、話を戻して……俺は八王子SCに入ってからも、主に右サイドで様々なポジションを与えられた。


 そして、やっと右サイドバックに手ごたえを感じれたと思った矢先に、左膝をやっちまったんだ。


 あらためて思った。


 俺の適正はどこなんだ????

 

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