第34話 限りなく透明に近いSUMURAIブルー その2

「俺のポジションって、どこだっけ?」

 俺は司に尋ねた。


「はぁー……」と深いため息をつく司。


「ところで、お前、やりたいポジションってどこ?」


「そりゃー、やっぱり、フォワード」


 やっぱ、サッカーって点取ってなんぼでしょう。


「おまえ、翔太に勝てるの?」


「……いや、無理っす」


「だろー。大体、前の世界ではフォワードの適性が無いっていろんな監督からダメ出しされてただろう」


 そう言われて、がっくしと肩を落とす俺。


 確かに、フォワードとしての俊敏性やキックの精度、裏を抜け出すスピード、どれもこれもが二線級だ。


 唯一の武器と言ったら、献身的な前線からのプレス。


 もっとも、俺のプレースタイルは、代表歴代ゴール数、第3位の岡崎慎司様の完全下位互換と思ってくれればいい。


 そうなったら、本家がいるので俺の出番など全くのノーチャンスだ。


 しかも岡崎さん自体、今の代表の戦術にはフィットしないので、ここ最近お呼びがかかってない状況だ。


「大体さー、フォワードっていったら、ここ5年近く、大高だけじゃん……」


 そうなのだ。現代表が立ち上がった時からの不動のエース?大高半端ねーの大高だ。


「おまえ、あそこに割って入んの?」


 いやー、厳しいかなー。だって、美味い下手っていうか、完全にあれ監督の好みじゃん……あれ、今俺まずいこと言った。


「冷静に考えてさ、お前だったら今の代表のどこにはいれると思うのさ」


「うーん……」改めてそういわれると、ちょっと困っちゃう。


 トップの大高……まあ、浅田とか上田とかいうけれど、俺、1トップって感じじゃぜんぜんないからねー。


 で、その下のリパポの南と伊東純也、まあ、今の代表伊東のチームと言っても過言ではない。


 さすがにあそこはちょっときついなー。


 左のFWは南は定番だけれど、ケガで戦列離れている翔太がいるしなー。


 真ん中は田中と盛田と円堂。いや、マジで、日本人でブンデスデュエルナンバーワンはすごいっす。マジリスペクト。


 そして、チーム川崎の皆さん。


 センターバックはアーセナルの富安と真矢か板谷、そして、両サイドバックは……最近ケガでちょっと調子落としてる坂井とまさか、2008年のこの時代から永友さんがレギュラーだなんて……ってあれ?


「もしかして、今の代表って両サイドバックが結構穴?」


「まあ、穴って程じゃないけれど、層は薄いよな」そう言うと司はニヤリ。


 

 たしかに、右も坂井さんの控えは川崎の山中、左の永友の控えは大山。確かに盤石とはいいがたい。


「それに、代表での長年の課題って何だと思う?」と司。


「長年の課題ねー……」


 まあ、いろいろありすぎてどれがどれやら。


すると、司はコホンと咳払いしてから、「スリーバック」そう言って指を三本立てた。


「あっ…………」確かに。



 もともと、今の代表監督の森谷さんも3バックの使い手としてJで広島を3連覇させた監督だ。


 ザックさんの時だって、3-4-3をやりたかったけれど、ついぞ完成しなかった。


 その後の、パリルの時もそうだった。


 特に近年、ワールドカップで上位を目指すのならば、3バックと4バックの併用は必須と言っても過言ではない。


 あのフランスだって使い分けているのだ。



「そう、つまり、」そこで司はニヤッと笑う。


「今の日本には3バックの両翼の選手で世界基準の選手はいない」


 確かにこれは盲点だ。


 4バックの両翼の選手を3バックで使ったことは何度も見たことがあったが、どれもちゃんと機能したとは言えない。


 日本の代表で最後に3バックを成功させた監督は、トルシエまで遡らなくてなならないのだ。


 しかもその時の両翼はというと、天才小野伸二と市川と明神、そしてファンタジスタの中村だ。


 市川や明神はともかく、小野と中村……とても、今基準での専門家とはいいがたい。


 司は続ける。

「もし、4バックでも3バックでも、世界基準でタスクをこなせる選手がいたなら、俺が監督だったら、是が非でも手元に置いておく」


 そういって、司はニヤリと笑う。



「じゃ、じゃあ、俺は左サイドバックか?」


「いや、違う、右だ!!」


 えっ、左利きの俺だったら無条件で左だと思ったのに……



「そもそも、左でセンターリングを入れてそれをワールドカップで決められるフォワードがこの後日本で出てくるか!?」


 いや、出てこない。


 ワールドカップ基準で言ったら、でかくてごつい190オーバーの選手、それはロベルト・レヴァントフスキやアーリング・ハーランドのようなフォワード。


 日本ではあと、100年待っても現れそうにない。


 

 そう言う場合は、聞き足は内側でコンビネーションで崩すことを狙うんだよ。


 グアルディオラが言ってるだろ……そういって司はニヤリと笑った。


 俺はその時の司の笑みを一生忘れることは無いだろう。


 よかった、敵に回さなくって。



「それじゃあ、司、お前が目指すポジションは!?」


「ああ、左のサイドバック、それもファルソラテラルだ」



 ファルソラテラル。それはスペイン語で言う偽のサイドバックのこと、近年、レアルに移籍したダヴィト・アラバのアラバロール、マンチェスター・シティーのジョアン・カンセロのカンセロロールという言葉がサッカー好きには有名だ。


 ちなみにロールってロールプレイングゲームのロールで日本語で役割って意味だよ。



 まあ、偽のサイドバックというくらいだから、ゲーム状況によってはサイドバックのタスクをこなしながら、中に入っていき、ゲームメイクから場合によってはフィニッシャーまでこなす。


 現代サッカーの万能ポジション。しかし、一歩間違えれば、致命的な守備の穴を作ってしまうかもしれない諸刃の剣のポジションだ。


 きわめて、サッカーIQの高い選手とそのまわりで戦術を理解している選手がいることが必須の条件。


 ってことは……俺は?



「そう、神児、俺が中に切れ込んだら、しっかりとバランスをとる。俺が外に貼り出したら、うちに切れ込む。俺たちが日本の両翼を担うんだよ。そのためには神児、お前みたいな俺の理解者が必要なんだ」


 今、初めて、司の本心を垣間見たような気がした。


 これは、そんな昨日今日、考えただけで見つけられるような代物ではない。


 きっと、何年も前から、毎日のように真摯にフットボールと向き合っていなければ、たどり着くことのできないような発想だ。



 司は言う、

「神児、お前は右のサイドバックになれ、そして俺の真の相棒になれ」……と。



 この話は、ビクトリーズからのスカウトの話が来た直後に話し合った。


 実際、八王子SCやジュニア程度のレベルだったら、サイドバックにボールはあんまり来ない。この辺りなら、やはり上達するなら、フォワードやトップ下が一番だ。


 しかし、ビクトリーズのような戦術をしっかり勉強するチームなら、徹底的にサイドバックのスキルを学んだ方がいい。


 なんせ、すぐ目の前には、この年代で最高レベルのドリブラーがいるのだから。

 

 司は言った、「サイドバックとして、1対1だけはけっして負けてはならない」と…………

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