第3話
「それは災難だねぇ」
目の前の大きなお肉を食べながら、私の話に耳を傾ける、真っ赤な鱗を持つ自称おじいちゃん竜の、カル。
そう、あの時助けてくれたもう1人の男がこの竜。やけに瞳孔が細いと思ったら、そういうわけだった。
カルは上位のとても強い力を持った竜で、ソルヴァイス帝国と主従関係にある。先代の皇帝陛下の友人で、良き皇帝である限りは、命が続くまでこの国を守ってくれるという約束をしている。
普通竜は人間不信な上に、人間嫌いなんだけど、時折カルのように人間が大好きな竜もいる。しかも、上位になればなるほど古参の竜になるから、人間嫌いが多くなるのに。
でも、比較的に若い竜は、意外と人間好きで気さくだったりする。
かつて幼竜を拾って、その竜の力を借り、暴君と呼ばれた王を王座から引きずり下ろし、現在もその竜の守護を受けている国もある。
人間と竜の深い絆、それを人間側が裏切らない限りは、絶対に竜は人間を裏切らない。
「いつもの事だけどね」
「朝の恒例行事とはいえ、坊ちゃんも飽きないね」
竜が守護している国は、基本強国。しかもカルのように上位の竜がいる国は、ほんのひと握り。
戦争も、竜がいるかいないかで戦況は大きく変わってくる。前述の、革命を起こしたという話にある通り、簡単に暴君を王座から引きずり下ろすほどに。
「シェリねぇ~、とと~」
まだまだ幼い男の子の声。カルの頭部を滑り台のようにして現れたのは、カルと同じ鱗を持ち、焦げ茶の瞳を持ったカルの子供のリムウェル。私を姉と慕ってくれている。
まだ小さい手のひらサイズのやんちゃな子供で、まだ飛べない。カルのように立派な翼はなく、小さな羽があるくらい。だから走り回るんだけど、これがやんちゃでカルも頭を悩ませている。
前はシアンの護衛の騎士に頭突きをして吹き飛ばし病院送りにしたくらいには強い。
「おはよ!」
「おはようリム」
「全く、寝坊助だね。おはよう」
「シェリねぇ、ごはん!」
私の頭にリムが飛び乗ると、ご飯をねだってきた。
カルが突然連れてきた子で、宮廷は一時騒然としたのは記憶に新しい。
でも、カルが奥さんがいたのは意外。いつも宮廷でお昼寝とかしてるのに。いつの間にって感じ。確かに散歩と称してどこかに行ってたけど、それはいつもの事だから。
リムに細かく切ったお肉を差し出すと、手から直接食べ始めた。
「最近帝都の方で、不審者のような人物がいるそうだ。相手は顔も分からぬ人間らしい」
不審者・・・・・・そういえば、シアンからも注意された。
その不審者に喧嘩を売った人たちもいたそうで、全員が意識を失った状態で発見されていた。
それを警戒して街を巡回する兵士たちが情報を追って探しているけれど、結果は言わずと知れている。
「カルは見回ったりしないの?」
「何度か空から見回ったんだが、全く。相手は手練の魔術師かもしれないね」
カルでも見つけられない存在なんて。確かに魔術師と竜の相性は最悪で、魔術師であれば竜を殺すことも出来る。魔術師が見境なく竜を狩るせいで、人間嫌いになったとも言われている。
実際、カルは魔術師に同族を殺されたことが数え切れないくらいあるという。カルの奥さんも、その1人。
「シェリねぇ、おしごと、リムてつだう!」
「ありがとうリム」
元気いっぱいなのはいい事なんだけど、あまりにも元気すぎて他人を怪我させてしまう。幼竜とはいえ恐ろしい。
お仕事って言っても、絶対シアンが徹底的に阻止してくる。
「実は皇帝陛下から明日にでも街を調べてきて欲しいってお願いされてるんだけど、カルも来て欲しいの」
「あぁいいよ。可愛いシェリアが心配だし、息子が一般市民を殺しかねないからね」
幸先が不安すぎる。お遊びで殺しちゃうって。
「乱暴は駄目よ、リム」
「あい! リム、いい子。シェリねぇのいうこときく!」
食事を終えたリムは背中からよじ登って、頭の上に乗ると手を挙げて元気よく返事をした。
竜は人間よりも強い、遥かに。竜が守護する国は基本戦争には絡まれないけど、同時に竜が人間を敵視した瞬間、国は一夜にして崩壊する。実際、竜を都合よく扱い、国王が欲深い人間になって怒りを買った例もある。
大きなメリットには大きなデメリットも伴うってことね。
だって、こんな小さな竜ですら、人間を殺せるのだから。大人の、しかも上位の竜が敵視したら・・・・・・。
「おや坊ちゃん、またサボりかい?」
カルが坊ちゃんと呼ぶのは、たった1人。
「失礼だな、シェリーに会いに来ただけだ」
シアン・・・・・・緋色マントに、朝とは違って剣を携えている。
でもシアン、世間一般的にはそれをサボりって言うんだよ。
シアンは私の頬に片手を添えると、普通の女性ならイチコロであろう甘い笑みと優しい声をかける。
「あまり朝食を食べていなかったな。シェリーは病み上がりなんだ。仕事はいいから俺の部屋で休んでいるといい」
んん?
「ちゃっかりだね」
「シェリねぇ、リムいる! へんたいいらない!」
「変態扱いは変わらないね、本当に」
分かってると思うけど、リムとシアンは犬猿の仲。子供と大人が何を喧嘩してるんだと、カルと私はいつもそんな気持ちで眺めてる。
「だがシェリア、坊ちゃんが言うように病み上がりだろうに。また熱を出して倒れてしまう」
「そこまで弱くないよ?」
「いいや駄目だ、今日は俺の傍にいてもらう」
「リムもいしょ!」
今日一日は、離してくれなさそう・・・・・・。
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