第4話

 わずかな時間さえシアンから離れることが出来ずに、昼食を終えておやつの時間になった頃。皇帝陛下からお呼び出しがかかった。私限定で。

 皇帝陛下、これはシアンに対して真面目に公務をしろというお告げですね?

 ということで、皇帝陛下の奴隷の身でありながら執務室へお邪魔しているのだけれど。どうやら目的は別にあったようで。

「もういいのかい?」

 皇帝陛下・・・・・・ラクアンさまは、早くに両親を亡くしたため、カルに育てられた。だからカルに似て、性格は非常に穏やかで口調も優しい。国内からも善き皇帝として知られている。

「お昼食べたばかりですよ?」

 お菓子やら紅茶やら、色んなものを家臣にもって来るように命令させ、目の前にはとんでもない量のお菓子が。

 頭の上ではリムが焼き菓子をもぐもぐ。

「ラクアン、少食のシェリアにはその量は食べきれないはずだよ」

 人の姿になっているカルは、皇帝陛下の隣で何かの資料をめくりながら皇帝陛下に告げる。

「そうか? リムウェルはよく食べるのに」

「竜族はそもそも健啖家だから。あの朝食の量、おじいちゃんの僕でもまだ食べれる。あとリムウェル、シェリアの頭の上で食べたら駄目だろう? ちゃんと膝の上で食べなさい」

「や・・・・・・」

 リムは芝生の上とかの上で寝るから、人の頭の上に乗るのが好きなんだよね。

 いや、と言おうとした途端、リムの言葉が途切れて、リムにしては珍しく素直に膝の上へと素早く移動した。

 チラ、とカルの方を見ると、完全に叱る時の父親の顔をしてた。これがまた怖いんだよね、やんちゃなリムが大人しく従うほどに。

「カルは自分の息子にも容赦がないな」

「ラクアンは少し甘すぎる気もするよ。おかげで息子から変態の称号を貰ってるけれど、いいのかい?」

 それは皇太子としてダメだと思います。

「縁談を全て断られたよ」

 シアン、独身を貫く気?

「そろそろ皇族として結婚してもいい頃合だろうに。シェリア以外は認めないつもりか」

「私としてはそれでいいんだが、貴族や妻は認めないだろうね。しかしそもそも、規則として貴族でなくてはならないというのは押しつけだろう」

 より良い血を残すため、とはよく言うけれど、竜の序列が力で決まるように、貴族よりも頭の良い庶民は山ほどいる。過去の栄光に縋りそれを手放せない人たちだと、私は思っている。

 お母さんの件もあるから、私はシアンや皇帝陛下以外の権力者はなかなか信用出来ない。

「貴族制度と奴隷制度の撤廃を進めるべきだと僕は思うけどね」

 無理でしょう。貴族の特権、そして無償で働く#道具__・__#を手放すわけがない。

「そんなきっかけがあれば、進めやすいんだけれど」

「起こそうか?」

「やめてくれ」

 カルって、時々怖いよね。人の#形__なり__#をしてても竜なんだなって思う時がある。

「それで、不審者の件なんだけど、民の不安も広がっているようだ。とはいえ、僕もその正体を掴めなかった」

「竜、なんて噂もあるが、どう思う?」

 人と竜とは、見分けがつかないもの。

 カルのように鱗の色に髪色を似せる竜もいれば、真反対の色に髪色を合わせる竜もいる。目の色が違う時も多い。

「なんとも言えないね。ただの都市伝説かもしれないし、魔術師か竜ということもある」

「シェリア、やっぱり明日はやめとこう」

 出たへっぴり腰皇帝陛下。

「陛下、それはちょっと・・・・・・」

「ダメだ、可愛い娘を危険な場所に行かせるなんて私はできない」

 皇帝陛下、いくら側室の間にも望んでた女の子が生まれなかったからって、私を娘扱いしないでください。

「シェリアを囮には使いたくないが、連れて行く価値はある。美人だから男共は素直にシェリアの頼みを聞くだろう」

「そんな使い方はしたくない」

「俺も反対だ、カル」

 扉を勢いよく開けて現れたのは、シアン。

 30分も経ってないのに、我慢できなかったらしい。

「それをするなら俺が女共に聞く」

「顔の乱用をしない。シェリアも、外に出て買い物もしたいよね?」

 カル、息抜きに誘ってくれてるんだ。

「そう、だね。行きたいかな」

「よし俺も行く。それでいいでしょう父上」

「あー、うん。もうそれでいいよ」

「シェリねぇ、リムもいい?」

器用に二本足で立って、潤んだ目をしてお願いしてくるリム。可愛すぎる!

「うん、一緒にお出かけしようね」

「リムがんばる!」

「グラシアン、少し話があるんだがいいかい?」

「嫌です」

「グラシアン・・・・・・」

 こらシアン、こんな小さなリムですらちゃんと言うこと聞いてるのに、24の大人が何してるの。

「どうせ縁談のことでしょう。俺はシェリー以外は認めません」

 皇帝陛下としては、シアンの気持ちを優先させたいんだろうけど、立場がある。貴族制度がある限り、皇族の結婚相手は決められる運命。

 それにシアンは、自分の母親・・・・・・皇妃さまを心の底から嫌っている。

「いいじゃないかラクアン、反対する貴族は僕とリムウェルが排除してくるよ?」

「あい!」

「是非とも頼む」

「おいグラシアン!?」

 まだまだシアンの縁談は決められそうにないね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る