400SS Jr②


 今日、朝一番(と言っても、十時だが)の納車にしたのは、今日のうちに下で100km、ワインディング、高速走行をしようと考えていたからだった。


 国道はほとんど信号待ちをせずスムーズで、エンジンも快調に回った。

 コーナリングも広い国道はなだらかだからか、至って従順に角を切る。

 メータを読む65km /h、5500rpm。

 ロードノイズはほとんどなく、L型双発エンジンは小気味良い。

 大型の様な迫力はないが、弱々しくはない。

 アクセルを開くとそれだけエンジンが回ってくれて、音のレスポンスに口角が上がる。

 もう少し回してみようかとも思うが、新車ではないけれど、もう少し我慢しよう。

 納車したては低調な走りだって目新しい。

 中低速の癖を知ってから速度を上げてみよう。どうせ帰りは高速道路に乗るのだから。


 小一時間ほどすると低調な道での前傾姿勢が辛くなってくる。

 前車のKLE400が立った姿勢だったから慣れないのもあるのだろう。

 そもそもバイクの乗り心地がよいはずはない。

 車とは全く違った系統樹でバイクは開発されてきた。

 車が運ぶ乗り物なら、バイクは走る(乗り)物である。

 走れば乗っているオマケはあまり関係がない。

 乗っているオマケのパフォーマンスを上げて、走りのパフォーマンスが上がることを、乗り心地の良いバイクと呼ぶのだろう。

 走っているものに乗るのが好きなオマケは、喜んで走りのパフォーマンスを上げるために乗る。

 その走りのパフォーマンスの傾向が、いろいろな車種となって開発される。

 結果、乗り心地は良くないものが出来上がる。

 乗り心地が良いバイクもあるのだろうが、4輪には敵わない。

 強いてアドバンテージがあるなら交通渋滞の時の乗り心地くらいだろう。

 狭い車内で不自由を強いられるくらいなら、ノロノロでも重たいクラッチを繋いで走るほうが随分マシである。


 段々と山らしいものが周りを取り囲み、視界は狭くなる。


 私を中心にして、景色が過ぎていく。


 左にロール。減速し過ぎてコーナーの内径に寄って出口でヨレる。


 また300先左コーナー。


 頭を落とす。


 シフトダウン、アクセル、戻して減速、左に倒す。立つ。


 150先右コーナー、アクセル、、、離す、フットブレーキ、倒す。


 後輪が滑る。出口、ヨレる。


 直線。


 アクセル。

 アクセル。


 シフトアップ。

 アクセル。


 段差。

 跳ねる。



 着地、リアが呑まれてブレる。

 アクセル。

 立て直して、シフトダウン。



 思ったより好調である。

 

 切りまくらなくても、楽しく曲がって立ち上がる。


 倒さなくても走っている感じがする。


 飛ばさなくても、乗れている気になる。


 アクセル、減速、左にロール、後輪が滑る、アクセル、立つ。


 200先、右、倒す、倒す、アクセル、後輪を残す、立つ。


 すぐ左、倒す、アクセル。


 離す、減速、フットブレーキ、備える。

 右、倒す、アクセル。離す、フルブレーキ、後輪滑る、左、倒す、アクセル。

 軽トラが道を塞ぐ。フルブレーキ。


 パッシング。


 どかない。


 パッシング。

 気がつかない。


 シフトダウン、空ぶかし。

 用意する。

 アクセル。

 軽トラが退く。

 右、左。

 シフトアップ。

 右。

 アクセル。

 シフトダウン。

 右。

 アクセル。


 段々と言葉が消えていく。

 視界に入るものが言語として流れ込んでくる。

 意味をなくした道が続く、右、左、左、右。

 風とエンジンノイズ。清浄な空気の中のオイルとガスの香りが鼻元をくすぐる。



 水温、、、高い。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Short stories 井内 照子 @being-time

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ