第5話 作戦会議をしました
という感じで全員を席に座らせたまでは良かったんだが、どうしたものかな。
俺が無言でどうするか考えていると貴族の1人が口を開いた。
「兵士1人で5体のモンスターを倒せ! そうすればこの戦、我々は勝てる!」
母さんにキレていた貴族がそう言った。
他の貴族もそいつの発言を肯定している様子を見るにここら辺の貴族のリーダーなのだろうか。
「……そ、そうは言われましても……」
最初に報告をしていた兵士は困り顔だ。そりゃそうだ。1人で5体倒すなんて無茶苦茶な指示だ。
「あー、お前の名前を教えてくれ」
俺は困り顔の兵士に名前を聞いた。
「はっ、私の名はソレイユ・ガリバーと申します! ヴィクス様不在の間、軍の指揮を任されております!」
ソレイユは敬礼をしながらそう言った。
「ソレイユ。単刀直入に聞くぞ。お前や他のまとめ役の数人以外は弱いから居残り組になったのか?」
ソレイユや隊長クラスの人間はいざ何かあったときに指揮しなくてはならないと理由で残っているのはなんとなく分かる。
「そ、その様な言い方は……」
ソレイユは言い淀んでいる。
「良いから言え」
「た、確かに軍事演習のメンバーは上位2000人から選ばれましたが、それ以外のものが弱いという事はありません」
内心でため息をつく。もしかしたら無作為に選んだのかもと考えたが違ったか……
そりゃあ王様の前だし優秀な兵士を連れて行くよな……
「分かった。ならお前の目から見て兵士1人で5体のモンスターを倒す事は可能か? 正直に答えてくれ」
確認の為に一応ソレイユに聞いておく、俺の見立てじゃまず無理だがそもそも俺は兵士の実力を知らない。
「……その逆になるかと」
少し考えた後ソレイユはそう言った。
その逆? つまり5人で1体のモンスター?
…………。
「……帰る」
と言って俺が立ち上がると近くにいた全員から止められた。
『待て! まだもう少し考えてみよう! ほら、なんとかなるかも知らないだろ!』
ポケットから下に引っ張られる力を感じる。
「お待ちください! 先程の格好のいい啖呵はどうしたのですか!?」
後ろからはフランに肩をもたれる。
「そうよ、もう少しちゃんとお話を聞きましょう!」
隣では母さんが俺の手を引っ張ってきた。
「はぁ……離してくれ冗談だ」
9割本気だったけどな。もう無理だろ。5人で1体って兵士全員使っても200体しかモンスターを倒せないぞ。
「ふ、ふざけるなぁ! 5人で1体しか倒せないとはどういう事だ! お前達は今まで遊んできたのか!?」
と貴族のリーダーがキレている。
……父さんが連れて行った奴らがいたらなぁ。
「も、申し訳ございません!」
ソレイユは腰を直角に折って謝罪をする。
「えぇい! 謝罪などいらん! やはり私はこの町を出るぞ!」
お前はもうそれが目的だろ。
「……逃げるんなら一生この町に入ってくるなよ」
俺はクソ髭にそう言った。クソ髭ってのはこの貴族のあだ名だ。
さっきからクソみたいな発言をして髭を揺らしているからクソ髭だ。
「はっ、貴様の様なドラ息子が一丁前に舐めた口を聞きおって! 貴様が世間でなんて言われてるか知っておるか? 落ちた名家イニアエスエル家の恥晒しだ!」
もう会うことがないからって言いたい放題だな。他の貴族達も立ち上がりクソ髭についていく様だ。
立ち上がった貴族達も笑いながら俺の悪口を言っている。
こいつら全員牢へぶち込んでやろうか? ……いやこんな奴らに構っている時間はないか。
「この町を去るのならさっさと失せろ。貴様らの臭い口をこれ以上開くな。それとクソ髭」
俺がそういうと貴族達はさらに笑い始めた。貴様1人で何ができるとか偉そうなことを言っている。
「クソ髭? それは私のことかな?」
と自慢の髭を指で触りながらそう答えた。
「あぁ。お前、髭似あってないからやめた方がいいぞ? 母さんと父さんもお前の事散々馬鹿にしてたしな!」
ハハハハッと笑いながら言ってやった。ついでに後ろに立っているフランにも笑えと指示を出しておく。
「そうですね。失礼ながら私も似合ってないなと思っておりました!」
とフランも笑いながら言ってくれた。
「なっ!?」
「そうよ! ちょび髭! 貴方の髭なんておかしいのよ! それに今アレクちゃんを笑った貴族達もアレクちゃんよりブサイクなのよ! バーカ!」
母さん。バーカって……
「もういい! 行くぞ!」
そう言ってクソ髭は部屋にいた何人かの貴族を連れて去ってしまった。
「……アレクちゃんどうしよう!? パパになんて言ったらいいかしら!?」
部屋を閉じて少ししてから母さんが慌てた様にそう言った。
「どちらにせよ、ああいう奴らは土壇場で裏切るよ。むしろ今居なくなって後の面倒ごとを回避できたって喜ぶべきだよ。それに……」
自分の保身しか考えてなかったしなぁ。
「それに?」
「残ってくれた人もいるんだしそこを喜ぶべきじゃない?」
と言って残っていた1人を指で指した。
「カイウス……良かったの?」
母さんははっとした顔をしてそう言った。
「はい、私はヴィクス様に命を助けられた身ですので、この命イニアエスエル家の為ならば惜しくありません」
残っていたカイウスという男はイケメンで歳は20代前半くらいだろう。なのに命をかけるとかサラッというあたり好青年だ。
2人のやりとりを見ているとカイウスは立ち上がって俺の方へとやってきた。
「アレク様。私の名はカイウス・レーヴァンと申します。よろしくお願いします」
と言って胸に手を置いて軽く頭を下げる貴族流の挨拶をしてきた。
「あー、よろしくな。カイウスが残ってくれて俺も嬉しいよ」
俺は頷いてそう言った。
「はい」
そう言ってカイウスは自分の席へ戻った。
カイウスが席へ座って改めて円卓を見渡すとかなりスカスカになったなと思う。
「ソレイユ。さっき言っていた5人で1体というのは正面からやり合った場合の話だよな?」
頭を切り替えてソレイユに質問した。
「はい。その通りです」
俺の言葉にソレイユは頷いた。
「なら幸いモンスター達がここに着くまで時間がある城壁の外にいくつか堀を作ろう」
「堀ですか……」
俺の言葉に対してソレイユが少し考える素振りを見せた。
「どうした?」
「その、堀を作るというのはいい作戦ですが、とてもじゃないですが1000人で3日間の間に使い物になるレベルの堀をいくつも作るのは不可能かと……」
「それなら安心しろ。明日の昼過ぎからは領民も加わる」
俺がそういうと全員が驚いた顔をした。
「……それは難しいんじゃないかと思います」
カイウスがそう言った。
「何故だ?」
「あのね、アレクちゃん。私達は領民の安全を第一に考えないといけないの。だから明日にはちゃんと事情を話して避難してもらうの」
と母さんが俺に言い聞かせる様にそう言った。
「……母さん。悪いけどその意見は却下だ。明日からは領民にも堀を作るのを手伝ってもらう。さらに言うならモンスターとの戦いにも出てもらう。勿論一番後ろでだけどな」
俺の放った言葉に全員が愕然としている。
「お待ちください! そんな事をすれば領民はクーデターを起こします!」
ソレイユがテーブルに手を叩きつけてそう言った。
「安心しろ。どちらにせよ領民はスタンピードを解決するまでクーデターなんて起こせねぇよ。というか起こさせねぇ。それに元はと言えばお前らの力不足で領民も戦わなくちゃいけないんだぞ? 分かってんのか?」
きつい言い方になるがソレイユを黙らすにはこう言うしかないだろう。こいつは良くも悪くもきちんとした兵士だ。
守るべき者を戦場に立たすなんてもってのほかと考えるだろう。
「ですがその後はどうするつもりですか? 仮にスタンピードを押しのけたとしても貴方への批判が集まると思いますが……」
カイウスは後のことも考えている様だ。
「後のことは父さんさえ帰ってきたらなんとかしてくれるだろう。俺が勝手にやったということにすれば良い。……俺は嫌われ者らしいからな」
わざとらしくフランの方を向いてそう言ってやった。
フランは素知らぬ顔をしている。
「ですが……」
「領民から怪我人を出さなきゃ向こうも文句言えねぇよ。それくらいは考えてるから安心しろ」
「分かりました」
カイウスは納得したのか頷いてくれた。
「それとソレイユ。明日の朝色々と回るところがあるから護衛としてついてきてくれ」
「護衛ですか……? わかりました」
「頼む。あとはここら辺を根城にしている山賊団がいただろう? アイツらの情報を集めてほしい」
確か近くの山に山賊団がいたはずだ。前にメイド達がそのせいで貿易の品が届かないとか言っていたはずだ。
「黒霧団のことでしょうか……それでしたら私の方で探っておきましょう」
カイウスが手を上げてそう言ってくれた。
「できるのか?」
「私のコネクションを全力で使って調べ上げて見せます」
ここまで言うくらいだし信じてみよう。
「分かった。できれば明日昼までにお願いしたいんだができるか?」
「でしたら早く動いた方が良さそうですね」
と言って立ち上がった。
「頼む」
俺がそう言うとカイウスは頭を下げて部屋を出て行った。
「よし、ならソレイユ、俺達も動くぞ。兵を可能な限り街の外に集めてくれ」
「はっ、ただちに兵に集合をかけておけ!」
ソレイユは部下に指示を出して部下と共に部屋を出て行った。
「アレクちゃん……」
母さんが俺の名前を呼んだ。
「ん?」
「立派になったわね」
何故か涙目だ。
「そんなことないよ………フラン、外に出る。お前も手伝ってくれ」
何故か嬉しそうな母さんとの空気感が恥ずかしくなり俺も席を立ち上がった。
「かしこまりました」
俺は早歩きで部屋を出ようとすると後ろから、いってらっしゃいと言う言葉が聞こえてきた。
「……いってきます」
俺は部屋を出て誰にも聞こえないくらいの小さな声でそう呟いたのだった。
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