第4話 緊急事態が起きました
「アレク様! 起きてください! 緊急事態です!」
寝ているとそんな声が聞こえてきた。
「ん。うん? フランか?」
眠たい目を擦りながら入ってきた人物を確認するとメイド長のフランだった。
「寝ぼけている場合ではありません! とにかくこちらへきてください!」
窓から外を見ると太陽は落ちて夜になっていた。
……かなり長い時間寝たな。
しかし、俺が寝ている間は絶対に起こすなとメイドに言っているはずだが余程の緊急事態なのか?
「分かった。……お前もこい」
俺はフランに返事をして小声でタクヤを呼んだ。
『了解』
そういうとタクヤは俺のポケットの中に入り込んだ。
フランは何か慌てている様だ。小走りで俺を先導している。
「こちらの部屋です」
フランに案内された部屋は会議室だ。何故こんなところに?
「ああ」
フランに案内された部屋に入ると母さんと鎧を着た男おそらく兵士が数人。そして高い服をきた何人かの男女がいた。おそらくこの領地にすむ貴族だろう。
そして全員が円卓を囲っている。
「アレクちゃん!」
俺に一番最初に気づいた栗色の髪の人がマリア・イニアエスエル俺の母親だ。
母さんが不安そうな顔でそう言った。
それに気づいた兵士は敬礼をして貴族達はおひさしぶりですと頭を下げた。
ごめん、俺はお前らのこと覚えてない。
『尋常じゃない雰囲気だな』
タクヤの声が聞こえる。
(多分すぐに話し始めるだろ)
俺はここで声を出す訳にもいかないので念話をイメージしながら話してみる。
『そうだな』
通じるかわからなかったがどうやら念話は成功した様だ。
「アレクちゃんはここに座って」
そう言って母さんは隣の席を引いてくれた。俺は頷いてその席に座る。
そしてフランは俺達の後ろに控えた。
「それではアレク様もきたことですので改めて報告させていただきます! モンスターの群れが我らが領地ロック・ド・ヒルへ向けて進行中! 数は5000!」
その報告を聞いてその場にいる全員が渋い顔をした。
「は? 待て待て5000? モンスターがそんな大群を率いて何処かを狙うなんて聞いたことないぞ? 何かの間違いじゃないか?」
魔物は本来考えを持たない。いやこの言い方には語弊があるが知能が低い個体が多い。
ましてやそんな大群が統率されて一箇所へ攻めてくるなんで初耳だ。
「ここ最近特殊なモンスターが現れたのです。モンスターを操るモンスターです。そのモンスターは1つの町や村へ向けてまるで進軍でもしているかの様な動きを見せます。今年に入って魔物に潰された町や村は3つです」
今年に入ってってまだ春先だぞ? なのに3つも町や村が潰されているなんて……
俺の反応に貴族達は呆れた反応をしている。世間知らずめとでも言いたいのだろう。
「ここにたどり着くまでの猶予は?」
普段の母さんからは考えられないくらい静かな声でそう言った。
よくみると手が震えている。
「はっ、私達の見積では3日後には到着かと」
母さんの息を呑む音が聞こえる。貴族達は何も言わない。
母さんがどういう決断を下すのか見るために黙っているのだろうか。
……そういえばなんで父さんがいないだ? こんな大事な会議なら居なくちゃいけないだろう。
「ちょっと待て、父さんは?」
「アレク様。ヴィクス様は国王様の命令により首都で王立騎士団と合同で軍事演習中でございます」
貴族の1人が呆れた様にそう言った。
ヴィクスというのが俺の父親だ。
しかし何故こんなタイミングで……軍事演習なんて行っているんだ。
「なんでこのタイミングで……」
俺は頭を抱える。
「このタイミングだからでしょう。先程も申した通りモンスターによる蹂躙。別名スタンピードが起こっている今だからこそ各領地で連携を深めるために軍事演習を行ったのでしょう」
兵士の1人がそう言った。なるほど理由は分かったがこれでは本末転倒だ。
「……兵士は何人残っているんだ?」
確か元々3000はいたはずだ。
「はっ、1000人ほどはこちらに残っております」
俺はその知らせを聞いて椅子の上に座り込んだ。無理だ。5000のモンスターを1000人で抑えるなんて。
援軍は期待できないだろう。近くの街へ行くのにも最低3日はかかる帰ってきた頃にはこの町はきれいに無くなっているだろう。
「アレクちゃんは逃げなさい」
母さんが突然そんなことを言い始めた。
「マリア様! 息子だけを逃すという自分本位な考えをするのであれば私達も逃げさせてもらいます!」
貴族が机をドンッ! と叩いた。
貴族達はそれを機にそうだ! そうだ! と騒ぎ始めた。
「……勿論です。皆様が逃げる為の馬車も用意します」
母さんは自分の手を握りしめながら貴族達にそう言った。
『アレクは逃げるつもりなのか?』
タクヤが聞いてくる。
(それが賢いな)
俺はそう返した。ここに残っても無駄死にするだけだ。馬鹿でも分かる。4000の差は絶望的だしな。
『お前、マリアさんの気遣いをなんとも思わないのか!?』
どうやらタクヤは怒っているみたいだ。
「では、私達は帰らせてもらう!」
次々と貴族達は席を立ち始めた。
ふと、隣をみると母さんは不安な気持ちを押し殺すためか歯を食いしばって俺に笑顔を向けた。
「ほら、アレクちゃんも準備してきなさい」
不細工な顔だ。普段の柔らかな笑みとは違う。無理やり作った笑顔。顔が引き攣っている。
俺は席を立った。
『おいアレク!』
タクヤは先程よりもうるさい。だが、俺以外にはこの声は聞こえていないのだろう。皆見向きもしていない。
ドンッ! と俺は机を叩いた。
「な、なにを?」
貴族は一斉にこちらを向く。
「ど、どうしたの?」
母さんもビックリしている。
あのジジイの言葉を信じるなら俺は破滅するらしい。
まあ破滅だどうだってのは正直どうでもいい。
いや、先の話すぎてピンときてないだけか。
ただアイツの言った大切な人を守ることができないという言葉。そしてあのペンダントが唯一残された宝物という言葉。
俺はきっと未来で母さんや父さんを守れなかったんだろう。
自分の命よりも俺の命を優先してくれるたった2人の存在を……
守ってやるさ。今から俺がお前の守れなかった大切な人達をな!
「俺は残るぞ」
その言葉を聞いたその場にいた全員が驚きの顔を見せた。そして貴族達は焦った様な顔をしている。
「な、何を言っているか分かっているのですか?」
「ああ、分かってるさ。だからこれから1000の兵隊で5000のモンスターを倒す作戦会議をしようぜ?」
俺の言葉に貴族達は固まった。小声で話が違うとか言っているのが聞こえる。
「………」
「おいおいどうした?
まさか優しい母さんが俺だけ逃そうとする事を確信していたから、自分達もそれに乗じて逃げてしまおうと考えてましたって訳じゃないんだろ? ほら、座れよお前達の席はここだぞ」
というが貴族達は動かない。その場でフリーズしている。
「あっ、もしかしてもう逃げるための荷造り終わってる状態とかだったか?」
俺はわざとらしく手を叩いてそう言った。
「ま、まさかその様なことがある訳ないだろう……なぁ?」
「も、勿論ですよ」
と言って周りの貴族達は椅子に座り始めた。
『アレク……』
タクヤから感心した様な声が聞こえてくるが無視だ。
自分の席に戻るため歩いているとフランが恐ろしく驚いた顔をしていた。
「なんだ?」
「い、いえ。失礼致しました。そ、その少し驚いたので……」
はい、100パーセント失礼なこと考えていたね。まあいいか。今はそれどころではないしな。
「よし、じゃあ話し合いを続けようぜ?」
俺は席に着いた全員の顔を見てからそう言った。
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