第3話 過去の自分と話しました
「で、お前はなんなんだ?」
俺は目の前にふよふよと浮かんでいる青色の玉にそう聞いた。
さっきは混乱してすんなり受け入れたがよくよく考えると光の玉が俺って意味がわからん。
『さっきも言ったけど俺はお前だ。俺もよく分かってはいないんだけど爺さんが言うには転生する直前の魂を捕まえてきたらしい』
そんな事できるのか? 確か戻れるのはこの時間が限界だったって言ってたが……
「それ以上のことは聞いてるか?」
『いや、聞いていない。未来で起こったことも教えてくれなかったんだよなー。お前はお前の持つ知識だけでアイツをサポートしてくれないかって言われてさ』
……こいつの知識でか。確かに今の俺はこの世界のことをあまり覚えていないから助かるな。なにせ16年も昔の話だ。何となくは覚えているがその程度だ。
「そうか……」
話を纏めるため集中しようと思ったが目の前でふよふよと飛ばれて集中できない。
「おい、目の前で飛ぶな。鬱陶しいぞ」
この玉を見ていると蚊や蠅を思い出す。寝る時に枕元に飛ばれるのと同じ感覚だ。
『ん? あぁ悪い悪い』
と言いつつ飛ぶのをやめない。
「いい加減にしろ!」
我慢の限界だ。目の前でピュンピュン飛びやがって叩き落としてやろうか。
『怒るなって! ほら、俺もこんな体になっちまってこの体には慣れてないんだよ……』
……そうか。コイツも勝手にここに連れて来られたんだったな。過去の俺なら異世界転生できるチャンスがあったらしてみたいって思ったはずだ。そのチャンスを潰してコイツはこんな体に……
俺が申し訳なく思っていると急に目の前に玉が止まった。
『なんつーか、緑の剣士の横にいた妖精を思い出すよな! くぅ! 自分がそんな立場になれるなんてワクワクするぜ!』
俺は怒りを通り越してコケそうになる。自分がどんな状況なのか分かってんのか? 能天気というかなんというか昔の俺って……なんか残念だな。
「はぁ、そうかよ。……それよりお前の名前を決めるぞ。俺の事はアレクって呼んでくれ」
一応今の名前はこっちだしな。
『なんか、自分の事を主人公の名前で呼ぶのはおかしく感じるな! それで俺の名前だけどナヴィでどうだ!?』
まだその話続けるつもりか。
「却下だ。お前は……そうだな。タクヤって呼ぶぞ」
俺は前世での名前、前田拓也からタクヤと呼ぶようにした。フルネームだと長いからな。
『え〜、俺だけ変わりねぇじゃん』
我儘かよ。
「我慢しろ俺も自分の名前を呼ぶなんて変な感じなんだぞ」
『ちぇっ、分かったよ俺はタクヤでお前はアレクでいこう』
納得してくれたか。
「ああ。……じゃあこれからは俺の未来を変えるための話し合いだ。今のタクヤから見て俺はどう見える?」
ここを知っておきたい。どれくらい本当の主人公と差があるのかをまずは確認しておかないとな。
『クズ』
返ってきたのはその2文字だけだった。
「……だけか?」
『ああ、俺から言わせれば今のアレクはオリジナルアレクの耳くそな』
待て、耳くそ? いくらなんでもそれはないだろう。
「おい言い過ぎだぞ!」
『いーや、爺さんから聞いた話だと耳くそ以下だぞ。むしろオリジナルアレクの耳くそさんに申し訳ないわ!』
確かに俺は転生して努力を一切して来なかったがそこまで言われる事はしてない! ……してないと思う。
「それは多分あれだな。過去の自分をダメに見えてしまう的なアレだな。うん。ここは第三者の意見も貰おう」
別に自分が崇高な人間だとは思わないが耳くそ以下は嫌だ。
『確かに。爺さんの意見だけだと偏っているしいい考えかもな』
俺はそれを聞いて鈴を鳴らした。
「失礼致します。……先程の方は?」
ノックをして入ってきたのはまたさっきのメイドだ。ジジイの事を気にしているみたいだ。突然居たり居なかったりしたら当然か。
「ああ、帰ったよ。お前を呼んだのは他でもない1つ質問があるからだ」
俺がそう言うとメイドは不思議そうな顔をした。
「質問、ですか?」
「ああ、正直に答えてくれ。お前から見てと言うか世間から見て俺はどう見える?」
そう言うと一瞬困った顔をしたが口を開いた。
「……そうですね、アレク様は素晴らしいお方だと」
「嘘をつくな。本当のことを言え。じゃないと牢へぶち込むぞ」
俺はメイドの言葉を遮った。だって嘘ついてるし、話している最中眉がピクピク震えてるし嘘下手かよ。
『おいそんな言い方……』
見えない位置に隠したタクヤがそんなことを言ってくるが無視だ、無視。
「かしこまりました。ではまず世間でアレク様がなんと言われているかご存じですか?」
「知るわけないだろ」
最近は外には出ていないので外の情報なんて知るよしがない。
「有名どころだとイニアエスエル家の恥晒し。領民からはドラ息子。親の良いところを何一つ得ることがなかったクズと呼ばれていますね」
…………。
「私から見たアレク様ですがクズですね。まずメイドに対して何様ですか? 私達は貴方に雇われているのではなく、その両親。領主様方に雇われているのですよ? 少しミスをすればやれ首だ。牢へぶち込むぞ。貴方が牢へ入った方がよっぽどいいのでは?」
身に覚えがある話だ。
「うっ」
「お陰で貴方の相手は私以外では務まらない始末です。その癖大した事もない用事で私を呼び出しては仕事を増やす。あと時々スカートの中を除いてパンツみようとしているのも知っていますので」
なんでバレてんだよ。
「ぐっ」
……偉そうなことばかり言いやがってコイツ牢へ入れてやろうか。
「……先程は正直に話さないと牢へぶち込むぞと言ったのに、いざ自分が言われ過ぎると今度は偉そうだから牢へぶち込んでやろうかと考えている辺りもクズですね」
「何故バレた!?」
「分かりやすいからですね。まだ私は貴方について話せますがどうされますか?」
「……もう大丈夫です。はい」
これ以上聞いていると本当に心が折れそうだ。
「かしこまりました。お話は以上でしょうか?」
「いや、最後にもう一つ。お前名前なんて言うんだっけ?」
あのジジイに呆れられたのを思い出して名前を聞く事にした。
「はぁ。今更ですか。……私はメイド長のフラン・アルケニアです」
メイド長だったのか。……これからは覚えておこう。
「分かった。フラン下がっていいぞ」
俺がそう言うとフランは頭を下げて部屋を出た。
フランが部屋を出たのを確認したらタクヤが俺の目の前までやってきた。
『………』
「なんか言えよ!」
無言で見られるのも辛い。
『お前って本当に俺なんだよな?』
「ふっ、人間環境が変われば人も変わるもんさ」
『いや、名言っぽく言ってもダメだからな。許されないからな』
ですよね。
「まさかここまで言われるとは思わなかったなぁ」
『俺もだよ! 俺が将来こんなのになるって考えたら寒気がするな』
「こんなのってなんだよ!? ……まあいいや。俺はこれから不貞寝します」
『は!? いやいや!? ここまでの悪評を聞いたんなら今日からいいことをしようとかするだろ!』
……?
「そんなの明日からでもできるじゃないか。それじゃあおやすみ」
『……未来の俺が想像よりもダメ男な件についてってタイトルで小説でも書こうかな』
俺はそんなタクヤの言葉を聞きながら布団に入るのだった。
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