第6話

 傲岸不遜にも百戦錬磨の探偵さんの弟子になったおれさまはごうは探偵らしい仕事がしたいとひようぼうしてじんぜんと毎日泥酔している探偵さんがのこした『未解決事件』のファイルを渉猟してやった。おれは喫驚した。『一九八三年八月』とごうされたファイルのなかに『八月二三日火災にて夫婦焼死ののちえいのみきゆうじゆつされたる事件あり六親眷族の嘱託によりて殺人事件の可能性ありと捜査開始す容疑者四人を追躡すれども真相はてつけつされずきようこう捜査続行す』とあった。わいざつほこりまみれの事務所でかくやくたる真昼から泥酔していた探偵さんに『この事件解決したんですか』と尋問するとつつやみそうぼうで虚無を見詰める探偵さんは『ああわからんかったもう時効だしそのファイル処分していいよでもなんで』ってなこった。『この生存したえいおれなんです』と真実を披歴してやった。からの探偵さんも漸漸鬱勃たるおれさまの情熱になびいてはんぶんじよくれいかんれん資料を譲渡してくれた。容疑者は四人。司法解剖を担当した医師産婦人科でおれの母親と面識のあった看護師の女性――あとはかんがえたくもなかったが――おれさまをちようあいしてくれた里親たる両親。おれさまはぼうひようにも容疑者四人にかいこうせんとけつした。司法解剖を担当した医師は五十九歳となって長岡市内で病院を個人経営していた。母親と面識のあった看護師の女性は五十五歳となって寿退社きようこう長岡市内で専業主婦をやっていた。当然のことかもしれないが里親たる義父母は六十代となっておれさまの実家――?――にしていた。ないに四人に面会しにいったおれさまはちよつ喫驚した。四人の証言は已下のとおり医師『わたしがころしました』看護師『すみません犯人はわたしです』義父『すまんおれがやったんだ』義母『すみませんわたしがあやめました』混乱したおれは二十九歳の誕生日めいもうたる事務所であれやこれやおくそくしていた。しゆつこつとして脳髄がしたみてえになってにくたいけいれんし意識が混濁してそうそうろうろうと探偵さんにきゆうじゆつしてもらわんとしたまま視界がもうろうとしてぶったおれちまった。

 さらに厄介な事件がはじまった。

 百億の世界をまきむ厄介な事件がさ。

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